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2002年12月13日分

そして・・案の定、磯川は600キロレースに全鳩を参加させて来た。24羽だった。磯川のスタート羽数から比すれば、かなり少ない参加羽数だ。一方香月は、32羽参加で、22羽現在残している。それに、後日帰りの鳩も数羽ストックしているので、持ち駒は香月の方が優位に立った。ただ、磯川が無策でこのレースに臨んで来たとは思えないが、徹底した実力優先主義の彼からすれば、その中で上位を狙える鳩だけ残れば良いのだ・・きっとそう考えている筈。香月の使翔法とは全く違い、対照的だ。香月は、今年度の最終レースにピン太グランプリ号を投入予定である。この600キロレースから一気にジャンプしようと考えている。このレースが終れば、2羽は今春の今までの結果を見ても、過去のレース成績を見ても、第2次種鳩候補の予定である。昨春浦部が行ったジャンプ方法を参考にした。彼は見事、日本最高のチャンピオンレース、GNの栄光あるレースに連合会優勝させたのだから。
香月が片時も忘れないのは、「小さな命を預かる競翔家にとって、ほんの小さな鳩の異変を見逃すな。それが動物を飼う者の義務」・・川上氏の持論だ。香月は万全の体制で、競翔をやっていて、愛鳩家の姿勢は不変で無ければと自分に念じている・・。
7時ジャストに放鳩された鳩は、3時に姿を見せた。かなりの好タイムである。それも、ピン太×リリーグランプリ号×マロン号の仔2羽が同時に飛び込んで来た。今春8羽残っている仔鳩の中でも特に、雌親の特徴を強く受け継いでいる2羽だった。早熟の血統で、筋肉は少し硬いのだが、徐々に400キロあたりから、かなり筋肉が柔らかくなってきて、長距離鳩向きの体質になっている。その2羽が一番手の帰舎だ。続いて、今度は3羽が同時に帰って来る。この鳩達も同じ交配の子鳩達だ。この5羽を香月はタイムした。成鳩群は、4時頃にばらばらと姿を見せ、全ての記録鳩群が当日帰舎した。帰還率も素晴らしいレース模様になり、5時頃にシューマン系の2羽が戻って来たが、この2羽はどうやら、短距離タイプのようだと、香月は思った。両鳩ともこれまで、上位入賞をしてきた鳩達。筋肉がやや硬く、竜骨が短い。体形も先に帰舎の5羽と比べ、やや大型で、雄親の勢山系の特徴が出ているせいかいも知れない。それにしても、このレース香月は18羽参加させて、15羽を当日帰還させている。記録範囲は翌日もあるので、明朝帰還もあるかも知れない。明朝帰る位の鳩ならば、500キロのストック鳩と、後日帰り4羽と共に800キロKC、900キロKCに挑戦させりつもりだ。ピン太グランプリ号の悠々の帰還を見て、GNにこのまま余力充分で参加する決意を新たにした。香月は入賞と言う事よりも、極めて帰還率が良い事に大満足であった。この日の5時過ぎに佐野から、電話があったが、自鳩舎の帰舎タイムと帰還率の飛びぬけて良い事を改めて確認し、川上氏からは、記録のゴム輪10個を受け取っただけで、高橋会長宅へ一人向かった。
会長宅でも、数名が居るだけで磯川さえもレースを諦めているような顔で座っていた。そのまま時計を預けて帰ろうとした香月だったが、ふいに磯川から呼び止められた・・
 
 
第3編 2章 大激論

「香月君、ちょっと待ってくれないか、少し話しがしたいんだ」
いつもの磯川の勢いは無かった。余程このレースが悪かったのだろう。
「ええ・・良いですけど、何か?」

ある程度の予想は香月にはついていた。
君には分かっていると思うが、今日の自分の所は最悪の状態だった。鳩の帰舎はまあまあの時間だったんだが、中々鳩舎に入らない。400キロを過ぎてから特にこんな状態が続いている。昨年は一度もこんな事は無かったし、予想も出来無かった事だ。一体どうしてなんだろう・・」
気落ちしている様子。磯川と言うプライド高い男が、香月にアドバイスを求めてくるのは初めての事である。400キロから好調を維持している好対照の香月に、そのヒントを聞きたかった模様だ。こんなに早くライバルが脱落しては、困る。香月はこの競翔前からとっくに磯川鳩舎の分析をしていた事ではあったのだが・・。座ろうとした香月に高橋会長が、
「ちょっと待ってくれ。2人とも春休みだから、少しは時間はあるだろう?良い機会だから、私も若手のホープ2人の考えを聞かせて貰いたい」
伸び盛りの若手の2人を暖かい目で見守ってきた会長だ。これからも若い人のリーダーとして大きく育って欲しい。そう高橋会長は思っていた。そして・・大激論の火蓋は切って落とされた。
いつもの豪快でおおらかな会長の顔ではなく、厳しい顔で、2人を向かわせる形で座らせた後、間に入るようにして会長が口を開いた。
「まず・・私から聞こう。その前に、私が何故こう言う事を君達に聞くのかを説明しよう。先に磯川君にまず聞きたい。私は前から君の競翔家としての姿勢に疑問があった。しかし、それは、個人の考えや、取り組み方の違いであって、他人がどうこう言えるものじゃ無いし、結果として、君はこの東神原連合会でも指折りの成績を残している強豪だ。しかし、私の目から見る君は一本気で、負けず嫌いで、とにかく本当に競翔家としてやって行けるのか心配だったのだが、香月君が入会してからの君は、誰の眼から見ても、そも鳩に関しては、研究熱心で、一流の眼を持っていると私も再認識するまでに至っている。今、多くの東神原連合会会員達の中でも1、2位を争うライバルと言える2人だ。これは、凄く良い事だと思うのだ。こう言うお互いのやり方を研究し、レベルアップを目指すのは。ただ、今日君が香月君に意見を求めなかったら、私は何も言うつもりは無かった。お節介かも知れんが、君と香月君の鳩に対する取り組み、姿勢は全く違う。きっとそこで自分達の意見をぶつけ合う事はヒントにつながると思う訳だ。だから、今日の所は、私の質問形式を黙って受けてくれないか?」
磯川も香月もこんな会長の顔は初めてだ。黙って頷いた。