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2002年12月19日分

拍手が湧いた後、香月は眼を閉じた彼等の手を取り、カップルとして横に並べた。そして・・
香月「いいかい、まだ目を開けちゃ駄目だよ。お互い男性は右手、女性は左手を出して。俺が良いと言うまで、そのままで手を重ね合ってくれ。もし、俺の見込みが違ってたら、何でもするよ。良いと言うまで、少し待っててよね」
眼をつむったまま、香月が作ったカップルはそのままで手を重ねた。愛田と咲田はもう見抜かれていたので、後り4組だ。
香月「さー、良いよ、目を開けて」
香月の言葉で、眼を開けたカップルはお互いに顔を見合わせ、驚いた。
まっ先に愛田が言う。
「わお!何で、何で?どうして分かったんだい?」
幸田「いやあ、参った、参った。このカップルは、学校内でもクラスは違うし、香月も全く知らない筈なんだ。言葉が出ない。何で分かったんだい?」
香織「香月君はね、競翔鳩を飼ってて、中学3年生の時、何百羽の中から1羽を言い当てるような、私のお父さんも言ってたけど、万人に一人の洞察力があるの。きっと皆の視線や、話から想像したんだわ。ね、香月君」
香月「まあ・・何となく入って来た時から6人、6人に員数は合ってると言う話から、視線や、話しぶりから想像したんだけどね。ただ、最後の一組は意外だったので、この際どう言う馴れ初めなのか、紹介してくれよ。今日は俺達をひやかす会では無かったと思うしね」
持田が言った。
「でもね、皆の言う事もまんざら嘘でも無いのよ。私が香月君に振られたって話は本当だし、愛田君が私に、そして勝浦君が私に。最初はね、何だかプレイボーイ見たいで、勝浦君の事嫌いだったの。今付き合ってる彼にこんな事言うのはおかしいでしょうけど、とにかくとして、香月さんや、川上さんが、ここに居る全員と何等かの関りを持ってるのは事実なのよ。それだけ、貴方達2人は学年の中でも話題を集めて来たの。少しジェラシーも感じてるって訳。それに香月君のように、優しくて、格好良くて、頭良し、スポーツ万能って、それが少しも嫌味じゃない男の人って、あこがれるのは女性として当然でしょ?でも、川上さんが、本当にそれだけ魅力を持った女性だから、誰も2人の間に割り込め無かった。私達の目から見ても、当に理想のカップル。だから、今日の主賓なのよ」
勝浦が続けた。
「そうなんだ。どこに居ても目立つ2人だろ?それじゃ無くても2人に恋心を持った者も少なくなかった。ここに居る俺達だってそうだ。けど、全く2人には割り込む隙など無かったよ。それと言うのも君達が堂々と交際を宣言してたからだ。それに性格の悪い君達だったら、ジェラシーも感じて、色々悪口を言ったり、変な噂を立てたりすると思うんだ。そんな話なんて一度も聞かなかったし、これで香月に欠点でもあれば、俺達もちょっとは救いようがあったのに・・だから持田美樹があっさりふられたって聞いた時は、一体・・どんな奴なんだろうって、見に行った程なんだ。お陰で、きっかけがあって、彼女と親しくなれたんだけど、君達は本当に理想のカップルさ。で・・俺、何を言ってるのか分からなくなったんで、これで終り」
持田がコツンと勝浦の頭をやった事で、笑いが少し漏れた。香織が言う。
「ねえ、他のカップルの馴れ初めも聞きたいな。だって・・一番の親友の京子が南田君と付き合ってたなんて、今日初めて知ったのよ。彼氏が出来たって話は聞いてたんだけど、びっくりしたわ」
橋本「御免ね、でも、隠すつもりじゃ無かったのよ。貴方達のように、堂々としてられる付き合いじゃ無かったし、それに親しくなって付き合い始めたのは、冬休みになってからで、馴れ初めって言うのは、私が市内のK校の不良達に囲まれて、どうしようって時に、彼が偶然通りがかってくれて、それで、3人の相手から自分の身を呈して守ってくれたの。空手なんてやってるから手を出したら、警察沙汰になるし、私が困るって。体中は傷だらけ、自分からは一度も手を出さないままになって私を守ってくれたの。そして、その時から、彼は私の一番大切な人になった。それに・・これも公表しちゃうけど、カオリンといつもくっついてたのは、勿論カオリンの事が好きと言う事もあるけど、香月君を側で見てられるから。御免ね、カオリン。でも、今だから言えるけど、やっぱり香月君は貴女の彼で、私は憧れていただけと言うのが分かったの。今は、一番カオリンの気持ちが分かるの」
香織は一瞬複雑な表情を見せたが、
「よろしい!その正直さに免じて、友情に陰りの無い事を認めます。おめでとう!京子。それに南田君!貴方は立派です。これからも京子は優しい思いやりのある女性だから、仲良くね。でも、命がけで、彼女を守れるなんて、凄い事だわ、皆さん、拍手、拍手!」
香月も嬉しそうに手を叩いた。日頃無口で、空手に明け暮れていた男がこんな彼女が出来たなんて、心から祝福したかった。香織が言う。
「じゃ、今度は幸田さんに聞きます。幸田さんは、新聞部の部長さんで、色々運動部の人と話す機会は多かったと思うけど、取り分け、女子剣道部の村上和美さんと、お知り合いになった理由は何かしら?それに、幸田さんは情報家で、香月君と学年内でも好ライバルだった訳だし・・・それと、こんな機会になっちゃったけど、一度私、貴方に言おうって思ってたのよね。私の体操服姿ばかり、全校新聞に載せた事あったでしょ!もう、顔から火が出る程だったわ!」
笑いの渦に包まれた。幸田が言う。
「いや・・いや。御免なさい。とにかくとして、我が校としても、皆に出来るだけ多く読んで貰えるように、そんな企画で、一番人気のある女の子?と言うアンケートを取ったら、君がとにかく持田嬢と並んでトップだったんだ。それで、どちらにしよーかなーと言う事で、俺の独断と偏見で、君になった訳。でさあ、学生服姿じゃ、つまらないしね。うーーゴホン・・断っておくけど、これは別に嫌らしい意味じゃなくてー、芸術的見地と言うか、そう、受け取って貰いたい。それに、これは香月君の了解済みだった・・よね?香月君」
香月「は?いや・・あはははは」
香織「まあ、本当!」
香織は香月の手をつねった。大爆笑が起こる。楽しい会となった。
香月「ははは・・話が逸れてるよ、幸田、馴れ初めを聞かせろよ」
幸田「え・・ごほん。では、彼女との事を話す前に、香月からやっと一本取れたと、これで俺も胸をなでおろせます。それではお話します。実は彼女・・和美との交際は2年の時からです。丁度香月と、川上さんのさっきの話じゃないけど、学校のヒーロー、ヒロインってテーマで、相変わらず追っかけしてたんですが、突然、香月が、剣道部を退部、その最後の試合を木村とやると言うので、一大スクープと剣道場に取材に走りました。あの、インターハイ全国大会準優勝の木村とまさに無名の香月が、互角以上の戦いを繰り広げるなんて、とにかく、ここに居る者は皆見てるんで説明しないけど、凄かった。今でも身震いする程だ。それに、あの時の川上さんの献身的な態度、感銘を受けたよ。これは美談だと思ってる。それで、原稿を書き直す為に、同じ中学校の女子剣道部の和美の所へ行ったんだ。木村との香月の中学時代も知ってる彼女だからね。中学の県大会の決勝戦の事も聞きたかったから。でも、和美にはあっさりと断られた。何で?美談じゃないか、何で協力してくれないんだ?俺は迫った。でも、駄目、駄目の一点張り。俺もかちんと頭に来てさ、それで、少しきつい事言っちゃったんだ。ごめん、和美・・君が話してよ。俺が言うより現実味がある」
村上「じゃ・・恥ずかしいんだけど、言います。私が剣道を始めたのは、香月さんが好きだったからです。この気持ちはずっと変わりませんでした。私は良く男の子に間違えられるほど、おてんばで、勝気な印象がありますが、自分ではそんな事はないって思ってます。香月さんが、高校でも剣道部に入部するって聞いた時も、迷わず入部したんです。私はこの中では香月君と唯一同じ中学校出身ですから、もう、中学校からの片思いでした。川上さん、御免なさい。でも、香月君は中学校時代、本当に物静かで、一人図書室で本を読んでるような人だったの。優等生には違いないけど、大人びてるような近寄り難い雰囲気を持っていたわ。でも、私が本当に香月君を意識し出したのは、やっぱり最後に彼が出場した県大会の試合でした。それまで、かなりの実力があるのに、一度も試合に出た事が無く、私はその試合のマネージャーを買って出て。はっきり言って、皆は余り期待してなかった見たい。でも、私はその彼の実力を信じてた。そして、あれよあれよと言う間に県大会の決勝戦まで行っちゃって。それもそこまで全て、一本も相手に取らせない、分殺と言うのかしら、とにかく凄かったわ。皆は知らなかったのよ、彼の本当の実力を。で、決勝戦は木村さんだった。もの凄い試合だったわ、まさに紙一重の差。最後に香月君が足を滑らせてバランスを崩した時、木村さんの捨て身の横面が決まって・・。その感銘と同時に、私には無性に残念って気がして、ぽろぽろ泣いちゃった。香月君がどんなに悔しかったかって思ったの。そして、試合が終って防具を取った香月君の足は、真っ赤に腫れあがっていたわ。そんな足で、木村さんと互角以上に戦かったんだわ。なのに、悔しい筈の彼が白い歯を見せて笑ったの。木村さんに握手をするその爽やかな姿に・・私は、その時から香月君だけを見てた。見続けたいと思った。ううん・・好きだって言えなくたって良い。あの爽やかな笑顔を見ていたかったの。高校も頑張って同じこのE高校を受験し、同じ剣道部に入った。私が頑張れば、頑張る程香月君との距離が近くなるって思った。でも、川上さんの出現を知った時、私は凄く悲しかったわ。私なんてどうあがいたって、叶わない、素敵で、可愛い人だから。でも、それでも私は忘れられなかった、あの笑顔を。ずっと見ていたかったの。あの最後の試合、木村さんは中学校県大会時の、香月君の足の事を知ってて、それで、組んでくれた試合よね。でも、やっぱりあの後、寄り添う2人を見て、私ははっきりと失恋を味わったのよ。悔しさなんてちっとも無かったし、心から2人に心から拍手を贈りたいって気分になった。香月君を変えたのは、やはり川上さんだから。だから、これ程変貌した彼の事をちっとも知らない幸田さんは、美談だって言ったけど、私にはそれが面白半分の興味にしか思えなかった。私の大事な思い出を壊して欲しく無かったのよ」
香月が何か言おうとする前に、幸田が言った。