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2002年12月20日分

「そんな彼女の気持ちを知らない俺はさ、かっとなって『何だい!君、川上さんの事妬いてるのかい!』って言っちまったんだ。その瞬間、彼女から平手打ちを見舞われて・・その眼に涙一杯の顔を見た時、俺、本当にしまった・・って思ったんだ。本当に香月の事が好きだなんて、知らなかったんだ。それで、毎日彼女の教室へ行って、謝ろうとしたんだけど、口も聞いてくれない。でも、何とか済まなかったの一言をきちんと言いたくて、放課後も待ち伏せしたりして。その時からだったと思う。俺は謝りたいって気持ちより、剣道部の女武蔵と呼ばれた彼女の純情で、可愛い面にどうしようもなく曳かれている自分に気がついた。それで、ようやく和美をつかまえた時には、済まないって言葉より、『好きだ』って言ったんだ。クールで、通っていた俺だがこんなに一人の彼女に夢中になってるなんて。今では誰よりも一番大事な彼女さ」
大きな拍手が湧いた。香織の目には涙が光っていた。
「凄い良い話だったわ。感動した。村上さん、御免なさい。貴方の初恋の彼を・・でも、有難う」
「ううん。香月さんには川上さんしか居ない。今では、私も幸田さんと一緒に過ごして行きたいって思ってる。貴方達のように、お互いに成長し合える交際をして行きたいって心から思ってる」
再び大きな拍手が湧いた。
少し間があり、木村かずみが言った。
「あの・・こんな話の後で。言い辛いのですが、私達の事お話します。坂上君と知り合ったのは偶然なんですけど、市内の病院なんです。一年の夏に私が盲腸で、入院してたんです。彼の方は大怪我で、2週間の入院でしたけど。私は退屈で、すぐ病院を歩き回ってたんですけど、とにかく喋る事と歌うのが好きで、誰かと喋って無いと落ち着かないし、知ってる人が居ないかなと思ってたら、大部屋の名札に坂上嘉朗って名前があって・・。もしかしてと思ったら、やっぱり坂上君。退屈しきった顔で、仰向けになってたんです。彼は大人しそうに見えるでしょ。だから、少しためらったんだけど、同じ学校で、良く顔を見る人だから。それで、声をかけたの。そしたら彼も凄く驚いた顔で、『放送部の木村さん?』って言う事になって、私が退院するまで、とにかく時間の許す限りお互いの思ってる事を一杯話したわ。そしたら、彼って凄い物知りで、将来はブラジルに渡りたいなんて大きな夢を持っていて。とにかく意気投合しちゃったのよ。退院してからも毎日彼の病室へ行くようになって。それから、学校じゃ余り話をしないけど、彼の家が私の家と割と近いと言う事もあって、交際するようになった訳」
愛田が言った。
「坂上君、彼女ばかり喋って貰ったので、君の気持ちも聞きたくなった。君は大人しい奴って印象が深いけど、君からブラジル行きの話や彼女の事も含めて話してくれないか?」
香月も少し興味が湧いていた。
「坂上君、良かったら話してくれよ。ブラジルなんて大きな夢だね。そこで何かを栽培するのかい?農大へ進むって事はそう言う事なんだろう?」
幸田が言う。
「俺も興味が出て来たね。でも、香月、君の推理は鋭いのは分かってるけど、機械的に分析したら興味が薄れるよ。まず話を聞こうよ」
香月が頭を掻いた。
坂上が喋りだした。
「びっくりした。農大進学イコール=ブラジルで、栽培って発想・・。香月君には隠し事なんて出来ないね。実は、今の香月の推理通り俺の夢は新作物の栽培にある。例えば、枯渇する石油資源に変わる作物。世界中の飢餓に苦しむ人々を救えるような作物。砂漠化する大地を変えれるような作物。幾等でも夢を広げる事は出来ると思う。森林資源が、環境破壊だと一部言われ始めている(当時の話)時代が、もうすぐ現実になるかも知れない。例えば、紙の原料になる植物は一杯あるんだよね。一年草で、成長が早いとかさ。俺は、それを広大な赤土の大地で耕したいんだ。そんな夢を持っている」

香月が真っ先に手を叩いた。
「凄い!共感するよ、実は俺も分野は違うけど、これから、遺伝子工学って言うの?そう言う分野で、君は食物、俺は動物。色々研究したいんだ。君には共感出来る。素晴らしいよ、坂上!」
少し遅れて、皆が手を叩いた。
坂上が今度は聞いた。
「俺だって、聞きたいな、香月。君の、その目的」
愛田も言った。
「そうだよ、その天才的な頭脳は、きっと目的がある、そう思ってた。聞かせてくれよ」
辺りはもう真っ暗になっていたが、それでも、この集まりは最高潮を迎えていた。どのカップルも素晴らしい恋愛をしていた。香織も香月の真の目的を知りたかった。