2002年12月27日分 「同じ狙いだって?ふふ」 磯川は笑った。 「QC、KCと、CHですね?」 香月は言った。 「ははは。半分は合ってるが、QCやKCには興味は無いよ。君は狙ってるのか?そっちを」 「え・・まあ。」 「GPは君に敗北したが、それはどうやら、君と俺の中間訓練の設定が違うからかも知れない。」 「どの地点でやられましたか?」 香月が聞いた。 「ああ、厚木だ」 「成る程、僕も考えました。その地点は放鳩地と、自鳩舎の位置関係で、帰舎コースが丁度台形の形になりますね」 「そうなんだ。で・・君は?」 「私も入れてくれよ」 川上氏がにこにこしながら会話に参加して来た。 「俺の場合は五条浜です。2回とも」 「ほお・・それは盲点かも知れないな、でも、2回とは?少し多すぎないか?」 川上氏が言った。 「いえ、実は2回やったのは条件をマッチさせる為でもあったんですよ」 「条件?一つ言わせて貰うけど、そのコースは、春は通用しても秋には通用しないと思うぜ」 磯川が質問しながら、指摘もした。 「その事も、考えました。でも、充分通用すると思います。何で選んだかと言いますと、当日帰れない鳩は民家の集中する地点に休息出来ると言う想定で、磯川さんは考えられたのだと思います」 「その通りだ。それに、海沿いは風が強く、特に南西風は危険だ」 磯川が言うと、川上氏がその磯川を肯定するように続けた。 「確かに、私もそう思う。現400キロレースは、難コースだが白川さんが提唱されてから、GNの帰還率が飛躍的にアップしたコース。回避する人も居るが、その価値を君は承知している筈だよ」 「はい。それは、そうだと認識しています。でも、今回の俺の狙いはCH以降では無く、GPにあります。磯川さんは、その後でしょう?」 「はは・・俺の狙いを最初からも見越してて、君はそこまで考えていたか・・成る程。納得はしたよ。しかし、それでも俺は選ばないね。何故なら・・今度は霧だ。春には多く発生するよ、海沿いは」 「同感だ。」 川上氏も答えた。 「その為に霧の条件を選びました。だから2回になりました」 「あっ!」 磯川が声を上げた。川上氏も呆れながら首を振って言う。 「君と言う人は・・・。成る程・・それで、念入りに夜間訓練までした訳かい?」 「何?夜間訓練も・・?驚いたなあ・・そこまでやるのかい?香月君は。それじゃ、700キロGPに負けて当然だ。スピードバードが制する筈だよ。」 磯川は納得した。 「ただ、現400キロを否定する気は全くありません。そのコースを経験してる鳩は、超距離鳩と言う認識は持ってますから、今後はスピードバードと、長距離鳩は分けて参加させますよ」 「ははは・・。しかし、CH狙いなら、俺も充分に今度は戦える、「パイロンエース号」も順調な仕上がりだしね」 磯川はそう言いながら帰って行った。川上氏も、明らかに変わった磯川に目を細めて、嬉しそうだった。そう言う自分も、残る3大レレースには主力を温存している。自信も持っていた。 そして、数日後、香月のGP総合優勝、2位、8位と言うビッグニュースが飛び込んで来た。参加総数5万7千342羽中に当日僅か2406羽打刻と言う中で、3羽も総合10位内に入賞させたのだ。それも、香月は他にも、総合36位、106位、356位、890位と12羽中7羽も当日打刻しており、特筆すべき快挙でもあった。この事で、香月は再び愛鳩雑誌の取材を受ける事となった。その時、既に、香月も覚悟は決まっていた。文部杯全国総合優勝2回。そして、過去GPレースで、3羽も総合一桁に入賞した鳩舎は皆無。その特出した記録が話題にならない筈が無かった。
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