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2001.4.8日分

 香月には天佑があった・・。何かに導かれるように・・やがて大きな彼の人生の第一歩へと・・確かにこの夜・・向かっていた。
 川上氏の車には、香月、浦部、佐野が乗っていた。佐野も浦部も、香月の鳩の帰舎タイムが早い事を知っていた。だから、話題は香月が何位に入賞してるかと言う事が中心で、通称ノートの佐野が、学生では、磯川以外は、香月の鳩がダントツに早いのだと言っている。香月にとって、早い、遅いと言う事よりも全鳩帰還・・これが嬉しかったのだ。
 高橋連合会長宅到着は、開函時間の7時10分前だった。
「早く!早く!」
 と言う声が中から聞こえる。既に全員集まっている。その中には磯川の顔も見えるが、話題の中心は、もっぱら磯川のタイムのようで、時間が迫ってるので、挨拶も情報も仕入れる暇も無く、一斉にバシャーン・・今度は開函の時間が来た。集計の間に、磯川がにこにこ顔で香月達の前に来た。
「やあ!香月君。初めてのレースだから、8割も帰舎してたら上出来だ。何羽帰って来たの?」
 嬉しそうに香月は答えた。
「はい!全部帰って来ました。それも、一番目の鳩の帰舎から30分以内に全て」
 磯川の顔が少し曇った・・驚いた様子でもあった。
「ほお・・それは凄い・・で・・何分頃に打刻したの?」
「最初の打刻が、7時15分です。それから立て続けに10分の間に5羽打刻して、それで止めました」

「えっ!・・」
 それまで、にぎやかに談笑していた場が静まり返った。磯川の顔面は蒼白になったまま、そのまま言葉を失った。
「わあ!・・それじゃ、香月君が、初レース初優勝?それも、もの凄いタイムで!」
 一斉に場が沸きあがった。とてつも無く早い帰舎なのだと、初めて香月も知ったのだ。
 磯川は、言葉を選びながらも、香月のタイムと自分の鳩舎の帰舎タイムとの比較を始めた。
「すると・・君と俺の鳩舎は約7、8キロ離れてる訳で、俺の一番帰舎が7時27分だから12分差・・誤差があるとして・・まだ分からない訳だね・・」
 平静を装うと、磯川は冷静に分析していた。確かに、磯川の帰舎タイムもかなり早そうだ。でも、香月の連続5羽が入賞してるのは、確実でもあった。佐野が耳打ちしていた。
審査員の資格を持つ水谷支部長と、渡辺茂夫審査委員長によって、文部大臣杯の集計が始まった。文部杯参加総数は連合会で、324羽。一般のレースは、ほとんど無打刻で参加総数は3398羽だった。しかし、何人かの参加者もあり、その打刻鳩数は約110羽・・かなり集計に時間が掛かりそうで、何人かが分担して作業集計に追われていた。
 その間、川上氏を中心とした本日の100キロレースの話題が持ち上がった。残りの者がその回りに集まった。
「今日は高気圧が放鳩地からこちらに張り出して、絶好の競翔日和であった。予想以上に高分速のレースとなったのは、この天候と、若い競翔家達がここ数年ライバル意識を持って、互いの鳩質向上に努めて来たからだ。もしか・・して・・今日の分速予想からして全国杯の可能性も高い。香月君、磯川君のタイムは飛びぬけて速いので、期待出来そうだね・・」
 全員の目が磯川、香月に向けられた。磯川は、自分以外の優勝は無いと言わんばかりの顔をしている。
 話が進んでいる間に計算は終了したようで、算盤10段の水谷氏の脅威の計算力によって、高橋会長の立会いの元、発表が行われた。分速1800メートルを超えた鳩が3羽出たと言う、大きな拍手が沸いた。
第1位 香月一男鳩舎 70AAA001 B♂ 分速1845・798メートル 
第2位 香月一男鳩舎 70AAA003 BC♀ 分速1838・920メートル 
第3位 磯川則哉鳩舎 70AAB324 RC♀ 分速1812・217メートル
第4位 香月一男鳩舎 70AAA006 B♀ 分速1786・576メートル
第5位 香月一男鳩舎 70AAA008 B♂ 分速1766・031メートル
第6位 香月一男鳩舎 70AAA010 BC♂ 分速1734・678メートル
第7位 磯川則哉鳩舎 70AAB344 S♂ 分速1700・504メートル
第8位 北村雄一鳩舎 70AAB976 DC♂ 分速1686・987メートル
第9位 佐野明弘鳩舎 70AAC756 R♀ 分速1678・990メートル
第10位 磯川則哉鳩舎 70AAB348 DC♂ 分速1675.652メートル


ピン太号
 以下14位まで分速1600メートル台であった。6位までに5羽。この分速は全国優勝の可能性も秘めていて、並居る強豪を押しのけて、一般を合わせてもダントツである香月の初レースの完全優勝は、一躍連合会中に知れ渡った。
 川上氏にして、最高の当り配合と言わしめた、香月鳩舎の雄親源鳩となる『パパ号』。川上氏の現役最高レーサーだった雌親・・香月鳩舎源鳩『ママ号』絶対に他鳩舎には出ぬ鳩とも言わしめた、勢山系のママ号こそは、川上氏の源鳩である、すみれ号(実在)の直孫にあたり、のちに香月の文部大臣杯での血統図公開において、連合会中が大騒ぎするほどの鳩であり、川上氏現役最高のレーサーであったのだ。この鳩は500キロ郵政大臣杯連合会優勝、東日本Nレース1000キロレース連合会優勝、総合34559羽中総合82位の飛び筋中の飛び筋でもあったからだ。しかし、卓越した川上氏の選鳩眼は、この鳩は息の長いレーサーに育たぬと、香月の所へ譲った。パパ号との交配で、きっと結果が出るに違いない・・と初めて門外不出の川上系を香月に、血筋分家として・・勢山系こそ川上氏の最高の主流・・その川上系最高血筋を分譲したのには、やはり香月少年がただならぬ子と見抜いたからでもあった。
「わあ!」
 一斉に大拍手が沸いた。蒼白の磯川は
「次のJrレースの結果を見てからだ。君の真価が問われるのは」
 精一杯、強がりを残して磯川は帰って行った。