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2003年1月27日分

佐野が浦部、香月の所へやって来た。
「いやあ・・凄い混戦だよ。分速が1メートル、何十センチの争いだ。未だ他のブロックもあるので、待ってるけど、大体は俺のリスト通りの順位になっているようだ。特に浦部君、君の今秋は凄いね。参加羽数もそうだけど、上位にかなり食い込んでるよ。君の事だから、ストックしていた選手鳩からもかなり仔を引いたんだろうけど。」
香月が訊ねた。
「それで、順位の方は・・?」
「ああ、ここでの順位なんだけど、ジュニアの香月君の1位、2位は恐らく不動だよ。一般の5千数百羽の分を合わせても、7689羽中ダントツだ。総合レースで優勝したようなもんだよね、凄いよ。分速が1598・624メートル出てる。それに2位も1592・562メートルだから、圧倒的だ。それに一般の部だけど、このブロックでは、俺の鳩が1564・296メートルで、暫定1位なんだけど、20位まで1530メートル以上出ている。俺が3羽、川上さんが10羽。浦部君が5羽。渡辺鳩舎が1羽と、新人の人なんだけど、小谷良一さんが1羽だ」
それを聞いて香月が聞く。
「・・小谷さん・・って言ったら、確か中原連合会で、参加されてた人・・かな?」
「おや、香月君は知っているのかな?」

別室で話をしていた川上氏が、この場に丁度やって来た。その隣で、にこにこしながら入って来たのはやはり香月が知っている小谷さんであった。
「小谷さん、お久しぶりです。でも、何で、こちらの連合会へ?」
小谷氏が答える前に、川上氏が座り切らない内に小谷氏を向いて訊ねた。
「どう言う知り合いなんだね?小谷さんは私も随分前からの知り合いなんだが、香月君と、知己とは思わなかったよ」
にこにこしている小谷氏であった。髪の毛は短く刈り込んでいて、30過ぎの小柄な人だが、中原連合会ではトップ競翔家で知られた人である。見た目には少しいかつい顔だが、話をすれば凄く楽しい人である。
「いえ、川上さん、俺がお話します。小谷さんは、俺がバイトをしている、日下部ペットショップに良く来られてるんです。それで知ってます」
小谷氏が続ける。
「私は日下部さんとは、年も近いし、大の仲良しなんで、良く遊びに行くんですよ。香月君と知り合ったのは、5月頃でしたが、凄く鳩競翔については詳しいし、理論も舌を巻く程です。私も競翔鳩の事を語らせたら、うるさい方なんですが、とても、とても。閉口してしまう程の鋭い質問を浴びせて来る。確か、佐伯君のハンセン系を使翔しているとかで、私もハンセン系を主流に使ってますけど、その特徴を私以上にずばりと突いて来る。聞けば、東神原連合会の香月一男だと言う。おお!あの雑誌にも載っていた子か・と思ったら、何だか私も愉快になりましてね。それからの知り合いなんですよ。中原連合会は、東神原連合会とエリアは変わり無いですし、それに・・天狗になってるつもりじゃ無いですけど、中原連合会に居ては、自鳩舎の向上が望めないと思ったんです。弱小連合会ですし、私が常勝を続けるんで、色々陰で言う者も居たりして・・。そんな話を日下部さんと話ししてたら、そんなら、香月君が是非東神原連合会に入会して一緒にやりましょうって言うんです。強豪が目白押しだからそう簡単に優勝させませんよって。あっはっは」
「あれは、冗談ですよお」
香月が笑った。川上氏も笑った。
「ははは。まあまあ、香月君。理由はどうであれ、私達は趣味を通じて楽しむ会だ。小谷さんの本音は言っては貰えないが、良いじゃないか。一緒にやりたい人はやれば良い。こんな強豪を交えて、レベルは更に高くなるだろう。でもね、小谷さんもこう見えて、結構気が小さい所があってね、昨日の持ち寄り場所へ早めに来て、私に鳩を預けて帰ってしまうんだから」
「ああ、それで、川上さんが早かったんですね?昨日は」
「はは。まあ、それもあるけど。もう紹介済みだろうけど、私から、今ここに居る会員を紹介しよう。こちらの長髪の眼鏡を掛けた子が、佐野君。情報量が豊富でね。連合会の博士って呼ばれている、その内小谷さんの所へも行くだろう」
「佐野です。よろしくお願いします。近い内にお邪魔します」
「是非来て下さい」
「続いて、浦部君。若手の強豪の一人だが、特に長距離には強くてね。GNが彼の目標レースだ」
「よろしくです。在来系を主流にしています」
「よろしくです。君の名前は知ってるよ。確かGN優勝もしてたよね」
「他の人もかなり今日は帰ったが、まだまだ強い若手は大勢居るよ」

川上氏の言葉に、小谷氏も頷いた。
「ええ。実際今日も優勝に食い込んだかな?そんな事を思いながら、ここまで来たら、とても、とても。特に、香月君の帰舎タイムを聞いて愕然としました。総羽数7689羽でしょう?ダントツの1位、2位タイムだと言うから驚きですよ。この短距離の大羽数の中、トップを取るなんて事は、むしろ、GPや、各種の総合レースを取るより難しい。タッチの差ですからね。それを、分速何十メートルも引き離すとは、身震いします。私もこんな連合会に入れて光栄です。これからも皆さん、どうか、よろしくお願いします。ところで、先程から、楽しくお話されていたようなんで、良ければ、私も入れて下さい」
「ええ、今、各ブロックから集計が来てるようですので、俺が佐野さんに代わってお話します」
香月が言った。
「今日は、佐野さんが、導入したビクターロビンソン系について、伺おうって思ってました。スピードバードですが、特に長距離には強い血統です。旧血統にビクターロビンソン系を交配するのか、一本で行くのかを聞きたかったんですが」
「ああ、その話だったら、僕が聞いてるよ」

浦部が答えた。
「佐野さんの鳩舎は、今までブリクー系を主体にしてて、ジュニア時代には、入賞も多かったんだけど、一般で参加するようになってからは、なかなか長距離になると、入賞出来ない。色々新血統を入れては行ってた見たいだけど、今まで飼ってた系統を手放すなんて事は出来ない。結局その前に外敵に入られて、選手鳩の大半がやられてね。あの時の佐野さんの落胆ぶりは見てられなかったよ。長年飼ってた犬も死んでしまって、辛がってたすぐ後の事だからね。1000キロの記録鳩も随分やられて、残ったのは数羽だったんだ。もう競翔なんて止めるって僕にも言ってたよ。飼い主が責任を持てない命なら飼う資格が無いって。彼は性格もそうだけど、実直で、すごく真面目だから。でも、僕は言ったんだよ、佐野さんが各鳩舎を回って、血統の研究や、鳩舎の資料作りをして来たノートはもう何百冊にもなってる。そのお陰で、皆も感謝してるし、それ程鳩が好きなんだから、止めないよね、止めたら駄目だよって。そうしてる内に、佐野さんが雑誌の中で、ブリクー×ビクターロビンソン系で大活躍してる鳩舎を見つけてね。それで、思い切ってその鳩舎に電話したそうなんだ。その鳩舎は凄く電話を喜んでくれて、それで、幸い鳩舎には種鳩が残っていたから、佐野さんも鳩を止めないで良かったんだ。その鳩舎から数羽のビクターロビンソン系を無期限で借りたんだよ。何度もお金を払おうとしたんだけど、交配が上手く行かなかったら、他の鳩と交換するよって言う位に、親しくなったんだ」
香月が頷きながら浦部に聞く。
「凄い良い話ですよね、佐野さんは連合会に無くてはならない人です。良かったです、本当に。で・・?どこの方なんですか?雑誌に出てた人と言うのは」