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インザクト号のモデルのS♂を探しています 2006.6.11インザクト号モデルはアカベラロフトの関井様がご提供下さいました。 
2003年1月28日分

川上氏も言った。
「そうだね。佐野君の熱心さは定評ある所だし、徹底した几帳面さと、データ量の豊富さに加えて、管理も独自のものがある。今まで、何で佐野君がもっと活躍出来なかったのか、むしろ不思議な位だ。その鳩舎との関り合いを知りたいねえ」
「うーーん。僕は済みません、言えないんですよ、実は。佐野さんと、その人との約束らしくて」
浦部が申し訳なさそうに答えた。
「それじゃあ・・しょうが無いね。無理にとは言えないよね」

川上氏もそう言った。しかし、その頃には全部のブロックの集計が完了したようで、佐野がにこにこしながらこっちへやって来た。
「えーそれでは、集計が完了しましたので、発表します。文部は、香月鳩舎が優勝、2位、3位が渡辺鳩舎、4位が秋山鳩舎、5位が柴田鳩舎、6位が山田鳩舎、7位が荒木鳩舎、8位が渡辺鳩舎、9位が山田鳩舎、10位が原田鳩舎です。次に一般ですが、優勝が佐野鳩舎、2位が川上鳩舎、3位が佐野鳩舎、4位が磯川鳩舎、5位が浦部鳩舎、6位が小谷鳩舎、7位が川上鳩舎、8位が川上鳩舎、9位が浦部鳩舎、10位が川上鳩舎、以上が上位10傑です。おめでとう御座います」
残りが10数人になっていたが、拍手が沸いた。既に時刻も10時近くになっていた。川上氏が佐野を祝した後、先ほどの話を佐野にした。佐野は少し躊躇したが、話し始めた。
「はい・・実は固く口止めされてたんですが、名前は千葉静生さん。名古屋の中部連合会の会長さんです」
「おお!あの高名な千葉さんか。そりゃあ、凄い。色んな血統を輸入されて競翔されてる方で、特にV・ロビンソン系の超銘鳩
インザクト号を飼育されてる方と言う事でも有名だ。私も授賞式で、2度程お目に掛かった事がある。それは大変な人と知り合いになれたもんだよね。じゃあ、君の鳩舎に入ったのはそのインザクト号の血筋な訳だ」
ほおー・・一斉がどよめいた。インザクト号は導入して未だ数年の鳩である。その血筋と言えば、直仔の可能性が高く、つまり、佐野はインザクト号の孫鳩を使翔している事になる。
「はい。直仔が2羽と、孫が3羽です。俺も有名なインザクト号を知らない訳では無かったので、夢のような事でした。それに、こんな濃い血筋とは。何度も千葉さんの鳩舎にはお伺いし、その度にアドバイスを頂き、俺の鳩舎のブリクー系のエルパソ号実在した鳩です)孫鳩との交配について、詳しく教えて頂きました。それが、最初からこんなにスピード性を発揮し、上位に顔を見せるなんて、嬉しいの一言です。俺は今までの自分の姿勢は崩さず、徹底したデータ至上主義を持って、千葉さんに恥じない競翔家を目指したいです」
拍手が沸いた。佐野の非凡さを見抜いた千葉さんも立派だが、佐野がこんなに成長した競翔家になっていたのだと、川上氏も嬉しかったに違いない。それに対して素直に喜びを感じる香月であった。小谷さんが言った。
「いやあ、本当にここには熱気がある。皆が競翔家の姿勢を持っている。私はこの連合会に参加して本当に良かった、小さな連合会で天狗になっていた自分だが、今までの姿勢を改めて自身に問わねばならない。川上さん、何か、こう、体が燃えるようですよ。本当に私をお誘い下さいまして、有難う御座いました」
あれ・・香月は思った。川上氏が小谷氏をお誘いしたのか・・と。叉一人強豪鳩舎が誕生し、強豪鳩舎が加入した。会員のレベルアップは著しい。学生達のレベルも一段と高くなっていた。インザクト号は、イングランド・インターナショナルレース1200キロメートル競翔に於いて、総合3位、12位、24位に入賞したグランドチャンピオンである。素晴らしい長距離のスピードバード。きっと佐野の熱意が通じたのだろう、千葉さんに。叉新風が吹いた。東神原連合会に・・。
近年の競翔界も増大し、数多くのレースが開催されていて、どの鳩が銘鳩と言う統一基準は難しいかも知れない。が、万人が認める超銘鳩とは、やはり、大記録を残した鳩である、白竜号、ネバー号、パイロン号、インザクト号、(実在した鳩では、ミィニュエ号)不滅の記録の陰には、やはり名トレーナーの存在がある。いつの時代になろうとも、人間と鳩が、血の滲むような訓練、交配、努力、愛情に支えられて、達成された事を忘れてはならない。香月は思った。白川氏が残したネバー号の悲しい宿命を思えば、一番の鳩だけがその勲章を受けるとは決して思わない。人間が至上では決して無い。叉、鳩が至上でも無い。根本にはやはり深い愛情を無くして、記録は生まれないのだ。無言の中に、香月は川上氏の競翔に貫く姿勢を深く感じていたのだった。川上氏の人間的な大きさ無くして、今の香月が無いように、佐野にも千葉さんが競翔界に居られた事が、彼にとっての幸運であっただろうと。
そして、続く週に行われたジュニアレースの200キロでも香月が優勝した。ただ、かなり上位は混戦で、10位内入賞は他には無かった。一方、一般は、優勝が川上鳩舎、2位が磯川鳩舎、3位、佐野鳩舎、4位、小谷鳩舎、5位、渡辺鳩舎、6位、川上鳩舎、7位、桐生鳩舎、8位、川上鳩舎、9位、浦部鳩舎、10位、高橋鳩舎と、大混戦で全く予断を許さないポイントレースであった。参加が総合レース並の東神原連合会では、1位を取る事自体が難しく、まして、入賞に顔を連ねる強豪の名前が川上、磯川、高橋、佐野、渡辺と。流石にこのメンバーの特異な強さは際立って居た。
いよいよ、秋レースは本番に突入し、全国杯の農林大臣杯300キロレースと、10連合会合同ダービーが、待っていた。先に農林大臣杯が開始。香月は短距離候補の10羽を参加させた。