白い雲トップへ  次へ   参考資料   お願い  登場鳩

2003.4.28日分

「まあ・・俺の研究にもプラスになる事だから、成功すれば、一挙両得って事も有り得るね」
坂上は笑った。
「得になるかどうかは分からないけどね。ふふふ」
香織も笑った。
木村かずみがこう言った、街頭に出ているので、真っ黒に日焼けしていて、健康そうな顔だった。
「私が言うのもなんだけど・・2人とも凄い研究家だから、不可能は無いって感じ?」
「あ・・それよりさ、香月君、S工大のシンクタンクが集まる論文討論会どうだったの?君が倒れたのは、その論文テーマの事で睡眠不足と言う事も一因だって聞いてるからさ、重要なものだったんだろう?」
「ああ・・・凄い質問攻めで大変だったよ、俺のテーマ。なにしろ未知の分野だからね。」

香織が言った。
「雲を掴むような話なのよね。でも、実際聞いてると、何となく、今坂上君と喋ってる事も分かるし、香月君の研究が分かってくるような気もするの」
「それは、香織が香月一男と言う彼に全幅の信頼を持ってるからよ」

木村かずみがそう答えた。
「で?どうだったの?実際」
坂上が重ねて聞いた。
「感触としては・・上々だったと思う。6月までに、何とか部分的にでも完成させたいよね」
「完成って?未知の世界・・今からの研究する分野だろう?」
「いや・・。研究は勿論一生涯のテーマにしたいと思うし、俺の人生の中で、到達出来るとは思っても居ない。でも、それに行き着く為の序説を論文として提出したいと思っている」
「凄そうだね・・君のS工大で、認められたって言う論文の中身・・じゃ、ひょっとして、現役2回生での博士号ってのもあるのかな?」

坂上は沈着冷静な男だ。滅多な事は言わない。香織と木村かずみは、香月の顔を見た。改めて、香月の重要な論文の中身を認識したのだ。坂上の質問は、最初からその重要性を認識した上での事だったのだ。
「それは・・分からないよ。決めるのは教授だから」
香月はその言葉を、静かな口調で返した。
場を盛り上げるように、木村かずみが言う。
「ねえ・・ひょっとして、2人でその新飼料の会社作っちゃえば?」
坂上と香月は笑った。
「あはは・・無理無理。だって、たかが、鳩飼育人口位の需要で、そんなもん出来ないって」
香月が笑いながら言った。
「あら・・じゃあ、何故、坂上君に相談を持ちかけたの?その時が来るまで待てば良いじゃないの、それなら」
「あはは、香月はきっとその先を見越してるんだろう。飼料会社は営利を目的としなければ成り立たない。質の悪いものを幾ら作っても、時間、経費の無駄さ。3種の提案は、個人のオリジナルをどう作れるか。香月はその先を見てるんだよね?」
かずみが言う。
「だって、私達から見れば、安価で、高カロリーのものが良いに決まってるわ。そう考えるのがおかしいかしら?」
香織も続けて言う。
「そうなのよ。確かに言う事は理解できるけど、個体差って言うか、体質って言うか。そう言うものがあるでしょ?同じものを食べても太る人も居れば、痩せちゃう人も居る。その人に合ったものを、個々に与える訳にはいかないんだから、どこまで妥協して行くかでしょう?最終的には」
香月は真顔で答えた。
「君達、女性が同席してくれて、本当に良かったよ。凄い良い質問だった。その通りなんだよね。君達の指摘通りだ。つまり、こう言う事なんだ。俺達だって、毎日同じおかずで、偏食的に食べていた人が、いきなり全部五目飯のようにして食べるとする。確かに栄養は偏らず、カロリーもある。だけど、毎日食べれるのかどうか。飽きはしないだろうか。いきなり食変化をしても、なじめないだろう?分かってても、そうなんだ。無理だと思うんだ。俺の考えは、使い分けなんだよ。白いサフラワの中に混入して置けば、食べるかな?とか、そうなれば今までの数倍、補助栄養的にもカロリーを摂取出来るようになるし、分量の加減で、調整も出来る。市販されている飼料を単品で買うとなれば、とても高価なものになるし、学生を含めた、愛鳩家にとって、そんな負担は実際無理でもある。つまり、色付けによっても調整し、分量によっても変化し、その配分にも工夫をし、いかに飽きさせないで、カロリーを摂取させるかなんだ。」
「大変ねえ・・良く分かったわ。それを飼料会社に要求するのは無理ねえ」
かずみも香織も言った。
「あっ!そうだ!」
黙っていた坂上が突然声を上げた。驚いて坂上の顔を見る3人だった。