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2003.5.3日分

「ど・・どうしたの?」
驚いて眼を見開いて、香織が坂上に聞いた。
「うん・・少し考えていたんだ。飼料の配合の事で」
「良いアイデアがあったかい?」

香月が聞いた。
「うん。上手く行くかどうかは分からないんだけど、つなぎにマッシュを入れようと思うんだ。デンプン」
「ははあ・・なるほどね。俺はタピオカってのも考えて見たよ」
「君の事だ。その知識は流石だと思うけど、そのタピオカは、タロイモから取れるデンプンだよね?まだ、流通にはメジャーじゃないし、一般的でも無いよ。うどんを作るんならナイスアイデアだろうけど・・あ・・そう言う意味かあ、あはは」
「ははは。」

香月は笑った。坂上の考えの組み立てを聞く為に出した言葉であった。
「うん・・そうだね!うどん状に練って、乾燥機で乾かし、天日で殺菌してし、その後小麦粉での着色・・これでやって見ようと思う」
「俺が漠然と考えていたものに全く近い。是非お願いするよ」
「それと・・配合のバランスを教えてくれるかい?君達は不可能って言ってるけど、実は親父の知り合いで、大学へ出入りしている飼料会社があるんだ。少し色んな飼料を集めて貰って、交渉して見たいと思う」
「助かるよ!それが、有益だった認められれば、大学からも費用が出ると思う。」
「抜け目が無い奴だ。じゃ!今日は皆と楽しく後は過ごそうじゃないか」

そして・・一週間後には、早くも坂上から香月に電話が入った。
「やあ!この前の件だけどさ」
「ええ?もしかして、もうやってくれたのかい?」
「思いついたら、即やらないと気が済まない性質でね。2サンプルは作って見たよ」
「あはは。じゃ、行くよ、待ち合わせ場所へ」

余りにも早い対応に香月は驚きながら、坂上の待つ指定場所へ車を走らせた。O農大に着いたのは夕刻近くの事であった。坂上に招かれて、飼料室の中へ入った。
「どう・・?これがサンプルだけど、カラカラに乾燥させた状態だと、消化に時間が掛かるので、水分量を少し調整して見たよ。圧縮して、一度平たくしたものを切ったので、少し角張っているが、業者に持ち込めば、滑らかなペレット状の物は出来る」
「うん、そうだね。君は、相当詳しく分析してくれているようで有り難い。サンプルデータを見せて貰えるかな?」

坂上は5つのサンプルデータを詳しく説明しながら香月に見せた。香月は何度も頷きながら聞いていた。
「うん!これは良いね。で・・?これ一粒で、どの位の栄養素が入ってるの?」
「そう来ると思った。100グラムに対してAが20g、Bが15g、Cが10g、Dが5g、Eが2g相当だから、分量的には抑えてるつもりだ。この程度はどうにでも出来るが、一つだけ苦労した事がある」
「・・何だい?」
「水分だ。ペレット状の場合、作ってすぐ与えるのは良いが、保存するとして、長期間に及ぶと、カビが発生する」
「そう・・だよね。難しい問題だ。」
「要するに表面のコーティングをどうするかに絞った。同時に、それは君の言う、表面がざらざらしていない、種子に近い食感のあるような、それで居て、カビの浸透を防ぐと言う物で無くてはならない」
「難問を押し付けちゃったよねえ・・」

香月は、申し訳無さそうに言った。
「で・・保存期間を一年間と言う長い日数では無く、1ヶ月単位の小袋での提案なんだ」
「・・うん・・それは可能かも知れないね」
「なら・・一案がある」
「是非、披露してくれよ。試作してくれたサンプルがあるんだね?」
「相変わらず、鋭いねえ。安価で大量に確保できるものは卵白だった。ただし、動物性蛋白だが、鳩にとってはどうだろうか?」

「・・問題は特に無いと思う。皮膜の問題だけだろう?」
「良かった。消化の点で、吸収の妨げになるのでは無いかと思ってね」
「かえって良いんじゃないかな・・消化まで少しインターバルがある方が、空腹感を感じなくて済む」
そう言って坂上は奥から更にサンプルを取り出した。
「なら、この少しサンプルを君に持って帰って貰おうかな。鳩に試食させて見るかい?」
「ああ。有難う、流石に坂上だ。感謝するよ」

「なあに。俺も凄く勉強になったよ。自分の目指す方向でもある訳だし、君に礼を言いたい位さ」