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2003.5.10日分

間も無く、坂上のO農大に出入りする飼料会社に香月と坂上が来ていた。年齢は40の半ばだが、2代目である大西飼料会社の社長、大西健一さんは、太い眉毛の人柄が良さそうな笑顔の応対で、熱心に香月達の説明を聞いていた。
「・・と言う訳ですが、コスト的には10s入りで、1500円前後でお願いしたいのです。問題があれば忌憚の無い意見をお願いします」
「いや、無いですな。出来ますよ。ただ、何種かは、普段扱っていない飼料なので、取り寄せになりますが、やりましょう。いや、是非私の会社でやらせて下さい。大学で使ってくれると言う事になれば、私達も営業販売の範囲が増やせますし、何と言っても、私の恩人である坂上さんの親父さんからも、電話が入っている。貴方達の説明を聞くまでは、正直申しまして、一抹の不安もありましたが、ここまで分析してくれている飼料ならば問題も少ないと思います。」

坂上の親父さんと、大西飼料会社の先代社長とは、深い親交があったようだが、義理を抜きにしても、既に完成度の高い飼料として、大西社長は見てくれたようだ。さっそく20袋の試作品を作ってくれると言う事になって、坂上と香月の合作、のちの「SKペレット」と言うヒット商品は、こうして急速な進行によって産声を上げようとしていた。それは、香月、坂上の人生にも大きく影響のある産物の一つであった。
そして・・春レースは、すぐ間近に迫った。香月は、その数日前に「春想会」の第2回目の会合を主催していた。
定刻通りに香月と香織は、市内の小料理屋の2階へ来たが、部屋で待っていたのは、坂上と木村かずみだけだった。
「あれ・・?皆、遅いね。時間は連絡した筈だが」
香月が言った。
「ああ、愛田達は少し遅れるかも知れないって言ってたから、その内来るだろう、皆」
坂上が答えた。
「ま・・色々と皆も忙しいだろうしね。みやげの一つでも持って来るのかな?」
笑っている所へ、幸田と、村上が入って来た。「
「やあ・・遅れて御免。少し市内で買い物をしててね」
そう言う幸田と、村上にはお揃いのマフラーが首にかかっていた。
香月が幸田に言う。
「どう?最近法学部の方は楽しいかい?」
「楽しいって?余裕なんてあるもんか、君じゃあるまいし」

幸田が答えた。
にこにこしながら香月が続ける。
「いや・・プライベートの方さ、うまく行ってるようだから」
村上良美が少し頬を染めた。幸田が少し頭を掻きながら座った。
続けて、南田・橋本組と、愛田・咲田組が入って来たが、勝浦・持田組は姿を見せなかった。
司会を進行しようとする香月に、愛田が言った。
「あの・・少し、始める前に報告があるんだ」
言い辛そうな愛田だった。
「何か?まさか・・」
香月の少しおどけたような問いに対して、少しかぶりを振って、愛田は言う。
「違うよ・・香月の言わんとするような事じゃない。実は勝浦、持田組なんだけど・・別れたんだ」
香織が驚いた。
「ええっ?あんなに仲が良かったのに?」
愛田が続けた。
「急の話じゃないんだ。お互い目指す道があって、勝浦って凄い良い奴なんだけど、俺について来いってタイプだろ?持田嬢は大学へ行く傍ら、モデルのユニットに入ってるらしいし、結構色んな仕事も増えて来たようだ。余りにも2人の時間が無かったようだ。努力はしたらしいが・・」
幸田が言った。
「俺がちらっと聞いた話では、持田さんは、今アメリカへ渡ってるようだ」
香月が言う。
「そう・・男女の仲って難しいね・・」
少し場が静まりかえったが、香月は続けた。
「でもね、春想会は、友情の会。誰がどうなったとしても、今年が駄目でも来年は参加をして欲しい。実は皆に今日お願いしようと思っていたのは、坂上が主催している福祉サークルが会員200名を数えて、是非君達も許せる範囲で、中心メンバーに加わって欲しいと思ってね。もう既に、南田君も支部長を引き受けてくれてるし、愛田も新聞に掲載してくれたんだ」
幸田は村上の顔をちらっと見た後、
「香月にそう言われちゃ、断れないな。これほど力を入れているって事は、いよいよ坂上君の夢が進んでいる証拠だし、我々も勿論参加するよ」
「有難う!」
香月と坂上が手を差し出した。
幸田と言う大きな柱が加わった事で、この活動は拠点を東京の中心に。今後は益々広がりを見せ、大きな全国組織へ、そして、国際的活動へとやがて発展して行くのだった。
そして、この次の日、香月は川上氏宅の夕食へ招かれていた。