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2003.5.12日分

香織の手料理で楽しく夕食した後、いつものように、川上氏と香月は応接室に入った。
「しかし、救急車で運ばれたって聞いた時は驚いたよ。香織がすぐ行くと言うので、ご両親も行ってる事だし、一晩様子を見てからにしようと引き止めたんだが、幸い大事が無かって良かったね。君は自分の限界を超えても行動しようとするから心配だよ」
「済みません・・。ご心配をお掛けしまして。論文の事もありましたし、色々重なってしまいました」
「でもこうして、叉春のレースが来たね。昨年度最優秀鳩舎賞の君だ。皆からもマークされてる事だろうが、少し聞きたいね。今春の事を」

香月は、勿論残す事無く川上氏に説明を始めた。途中で香織がコーヒーを持って来たが、すぐ退出した。
「・・と言う訳なんです。訓練としては一応成果は上がったと思ってます」
「ふむ・・少し危険はある・・かな?13羽の少数に絞った若鳩だから、やり易い面はあっただろうが、訓練中の事故も考えられなくは無かった筈・・私としては、全面的には賛成の手は上げられ無いが・・」
「そうご指摘を受けるとは思ってました。確かに2回目の訓練は余分でした。ただ、その結果として、若鳩の中で3羽を短距離へ絞る事が出来ました。」
「うん。君がそこまで見越したのなら成功だろう。で・・?何羽のスタートになるのかな?春は。私も巻き返しを狙っているからね、ははは」
「数的には56羽ですが、もう少し絞って50羽位にします。けど、更にもう一回絞って見ようと思ってます。最終的には40数羽位のスタートになるかな・・?」
「それでも、君は過去の参加数を上回るね。絞った精鋭となると、今春も活躍が期待出来そうだ」
「いえ、まだまだです。白川系のように粒の揃った鳩群は出来そうに無いです。特徴的にバラバラで、4つのグループ編成にしようと思います」
「それは?」

「はい、短距離鳩群、中距離鳩群、長距離鳩群、記録鳩群です」
「やはり台風の目になりそうだなあ、今春も。秋の記録鳩群が居るし、記録鳩群も数居るしね・・あ・・それはそれとして、香織から少し聞いたんだが、君は鳩の飼料を試作したんだってね」
「ええ・・今大学での効果を待ってからと思っていたのですが、大学の許可が予想外に早くて、業者がもう生産に入っているんですよ。俺が案を出してから、2ヶ月の間にこんなに早く進むとは驚きです」
「むう・・それほどまで既に、飼料としての完成度があったと言う事だろう、それはむしろ、アイデアと言うよりも君の着眼点が良かったんだよ。きっと」
「自分の鳩舎にと思ったのがきっかけで、そこまで考えてませんでした」
「良ければ、私も使用して見たいのだが・・?」
「はい!それは勿論お持ちします。結構良いと俺は思ってますので」
「ははは。君ほどの子が考案した物だ、疑い無く私は使わせて貰うよ。実際鳩の嗜好性については、私自身も悩んでいた事だ。実に理想的な餌だと思うね」
「有難う御座います。ただ・・業者が入れ込んじゃって・・困ってます」
「ははは。でも、売れれば、君達にロイヤルティーが入るかも知れないね。」
「そんな・・。」

思っても居ない方向の話に香月は困惑した。
「あ・・それはそれとして・・チャリティーレースだけどね、今春は600キロレースに決まったよ。毎シーズンチャリティーレースの距離は変えるそうで、今回は36連合会主催レースになるそうだから、そこそこの数は集まるんじゃないかな。順位もせっかくだから、正式な競翔の形にするって言う事だ。何しろ600キロと言えば、優秀な鳩が集まるレースだからね。距離的に見ても、これ程大きな反響になるとは思って無かったよ」
「川上さんのご尽力の賜物と感謝申し上げます」
「いやいや・・・こう言うレースは、協会にとっても必要な事であった。むしろあって当然だった。今後は協会主催にと言う意味も、多分に含んでいるレースになったんだ」
「問い合わせがありましたか?例えば、日下協会理事とか・・?」

香月の問いに笑いながら、大きく川上氏はかぶりを振った。
「いやいや、それは無いよ。あんな大物は、私も残念ながら雲の上の存在だ」
「そうですか・・いえ、そうでしょうね。で、春レースに戻りますが、成長過程で若鳩を酷使すると、換羽期には、羽根が曲がったりする鳩も居ます。現在対策としてカルシウムを余分に与えて、特製の鉱物飼料を与えて居ます。成鳩についても、今後は息の長い競翔鳩を育てたいですね」
「うむ。良い考えだ。それは、競翔家の手腕一つに掛かっていると言えるだろうね」
「今春はレースが多く増えましたので、大変ですね。週に2回も持ち寄りもあるし、なかなか学生やサラリーマンには、打刻が出来ないです」
「ああ・・良し悪しと言う感もあるね。ただ、競争と言う原理から離れて見れば、順位ではなく、戻って来た、記録した事に意義もあるとは思うがね。今春は、確かに選択余地が拓さんあって、競翔家の狙いは分散するだろう。その分、参加羽数が各レースに散って、面白くなりそうだ」
「放鳩地が色々あるのが面白いですね。特に、西コース、東コースがあって、今春は、長距離鳩の為の岐路コース選定が要求されそうですね」
「ベテランの腕の見せ所かも知れないね。ただ、GP、CH、GCH、GNは不動だ。準ずる、KC、DC、QC、ダービー、合同杯、チャリティーレース等も興味深いね。特に、チャリティーレースの放鳩地である、西コースは、案外狙い目かも知れない。」

こうして、前夜談義と言える師弟の会話は続いたのだった。