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2003.6.1日分

恵子さんが、応接室へ入った。川上氏は、電気も点けないで座っていた。
「まあまあ・・電気も点けないで・・」
恵子さんは、部屋を明るくすると、コーヒーを容れた。
「ねえ・・・つい最近のようね」
「うん・・?何が?」
「あの子・・香月君が、芳川君と初めて来た日の事」
「ああ・・初々しくて、はにかみ屋で大人しい子だったよね。ただ・・澄んだ瞳の、清々しい印象も受けた」
「香織とも同級生で、一緒に勉強して、お互い一人っ子だから、兄弟のように見てきたわね」
「ああ・・私もいつしか、本当の親子であるような錯覚を持っていた」

遠くを眺めるような、懐かしいような・・そんな2人の顔だった。
「我ままで、勝気で、一人娘って事で甘やかしたのもあるが、香織も、いつの間にか成長してたんだね・・」
「淋しいって思ったの?貴方は」
「どう・・言うのかな・・本当に親としては、これ以上に無い2人で、香月君は、本当に申し分の無い最高の男で、願っても無い事だ。香織がこんなに成長したのは、全部香月君のお陰だよ。でも・・何だろうな・・この寂寥感は」
「それが父親と母親の違いかも知れませんね。私も賛成・・でも、余りにも2人は若い・・それでも香織は今すぐ結婚なんて構わないって、そう言うの。香月君がこれからの一年間の中で、人生の決心を付けて取り組む、その心の支えになりたい・・2人で生きたい証として婚約したいってそう言うの」
「分かってるんだ、私も。でも・・はいそうですかって・・親はそう言えば良いのか?」
「貴方・・」

恵子さんは、アルバムを出して来た・・黙って二人はそれを眺めた。
その頃、香月は香月で、父母の前に座っていた。
「お前な・・父さんも母さんも飛び上がる程嬉しい報告と一緒に、何て驚かせる事を言うんだよ。」
「そうよ。川上さんも驚いた事でしょう。きっと」
「反対なの?父さん、母さんは」
「そう言う問題じゃないだろう。そりゃ、そうなるだろう、そうなって欲しい良縁だよ。これ以上無い良い娘さんで、私達もお願いしたい位だ。でも、何で、それが、お前の卒業発表と一緒なんだって聞いてるんだ」
「確かに・・タイミングはそうだったかも知れない。けど、俺達は真剣なんだ」
「分かってる・・お前達は傍目に見ても、お似合いだよ。しかし、結婚て言うからには、人生設計が先だろう」
「それはそうだよ。だから婚約だけでも」

香月は執拗に食い下がった。
それから、一週間も経ってからの事であった。香月の父泰樹から、川上氏へ電話が入った。
香月の卒業祝いをしたいので、川上氏と一緒に食事会をしようと言う誘いだった。断る話でも無いので、川上氏も即答した。
「貴方・・」
「ああ、ご両親が一緒って事はとうとう・・かな?」
「そうね、覚悟決めますか!」
「子供達の覚悟はとうに決まってる、お互い成人だ。決まって無いのは親だけ・・ははは」

川上氏に否と言う言葉は勿論無かった。こうして・・・(中略・・この話だけで、3ページありましたが、本編は紫竜号物語に既に突入しましたので省略しました)