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AU号伝説

AU号伝説 第一章 第一篇 西方城
 

著作 じゅん

 明朝、高村が下見の出張で、西方町に向かった頃、白川家の一員となり、住み込みのお手伝いさんを始めた岸田の姿が、真世とともに斎亜覚寺にあった。殆ど一日に一回は、境内に真世と来て、掃除をしながら見守る岸田であった。その表情も、初対面とは全く違う明るさを持っていた。まさに、真世を見守る眼は、母親そのものであった。

 『毎日、ご苦労様』

 労をねぎらい、本堂に招く斎亜和尚。無類の話好きは、時として時間を忘れるが、年としては、岸田とそう離れていないように見えた。

 『和尚様、一つお聞きして宜しいですか?』

 『は、何でも』

 『お幾つなのでしょう。少し失礼ですが』

 『わあ、はっはっは。坊主なんてやってますと、つい忘れがちですが、本年で、丁度40歳になります』

 『こちらのお生まれで?』

 岸田の疑問は実はここにあり、どう見ても、洗練された垢抜けた様子は田舎町に住む和尚には見えなかった。

 『いいえ、実は私は、東京は渋谷の生まれ。ガキの頃より暴れん坊で、手の付けられぬその姿を見た私の父親が、高野山の寺に私を放り込んだのです。そこでも、親の真意の分からぬ私は子坊主どもと大喧嘩の毎日。或る日大僧正にこっぴどく叱られ、御堂に閉じ込められました。

わめけど、叫べど誰も助けてはくれません。その内眠くなって、寝てしまい、私が起きたときには、眼の前に慈悲深い大日如来様のお顔がありました。私はこの時、まさに開眼したと思っています。』