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Candy Kiss  2
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 ぼくらの中学は、今に倒れそうな古い木造の校舎だった。
 今はもちろん建て替えられて、りっぱな鉄筋校舎になっているけれど。

 中庭には「瓦に注意」と立札があった。 そして軒下には、落ちてきた瓦が砕け散っていた。だれも怪我をしないのが不思議なくらいだった。
 夏には大量のハエが飛んできて、天井に止まる。 天井は真っ黒になるほどで、そいつを男子がパチンコでしとめるのが流行っていた。

 冬はひどい透き間風が吹いて、本当に寒かった。 だれかがたまりかねて、ガムテープで窓ガラスに目張りをしたほどだった。

 でも、真冬でもストーブはなかなか入れてもらえなかった。
 校内で唯一暖かいのは、職員室だった。 閉め切って先生たちがタバコを吸うから、窓がやにで茶色になっていた。

 ぼくは入学以来、職員室には縁がなかった。 平凡な生徒だったので、職員室に呼びつけられることもなかったのだ。 
 でもその日、初めて職員室に呼びつけられてしまった。 もうすぐ卒業する頃になって、いったいなんなんだろう。
 それでも呼ばれたのはぼくひとりではなくて、学年十番以内をいつもキープしている、白瀬もいっしょだった。
 びくついてるぼくとちがって、白瀬はほとんどふんぞり返っていた。
 まばたきすると「ばさばさ」って音がしそうな濃いまつげの下から、恐い目をして担任をにらんでいた。
 先生は煙突みたいに煙を出していた。それがまた、臭いタバコなんだ。

 やにで黄色くなった指にタバコをはさんで、先生がぼくに言った。
「小川よ、お前、私立受かったんだから、公立受けるのやめるんだろ」

 先生、今ごろなに言ってるんだろう。 ぼくが私立を第一希望にしてるの知ってるはずなのに。

 合格したって電話したとき、もう公立受けないって言ったのに。 忘れちゃったのかな?
 ぼくはしかたなく、「ええ、まあ」と言った。

「まあ、なんなんだ?はっきりせんか」
 先生のきっついものいいに、ぼくはびびって、「や、やめます。受けるのやめます」と言いなおした。

 先生は脂っこい顔に笑顔を浮かべた。
「それでこそ小川だ。おまえが受けるの止めたら、誰か他の生徒が受かるんだよ」
 誉められたことなんて一度だってないのに、変な先生だな。

 先生は今度は白瀬のほうに向きなおった。
「白瀬、お前も受験やめるんだろ? 就職決まったんだから、行きもしない公立受ける必要ないよな?」
 ぼくは飛び上がりそうになった。
 就職だって? 白瀬が、就職? クラスで一番成績のいい白瀬が?

「どうなんだ、白瀬。止めるんだな?」
 白瀬の喉仏がぐっと動いた。

「たんなる力試しのつもりなら、やめてくれ。おまえが合格して、友達が落とされたら後味悪いだろ」
「どのみち辞退するんだからいいでしょう。補欠で入れるんだからね」
 やっと口を開いたと思ったら、憎まれ口がぽんぽん出てくる。

 先生のえらがぴくぴく動いた。
 やばい、先生切れるぞ。 とにかく中学生より切れやすいんだから、この先生は。

「補欠でも合格すれば一緒だと思うのか?友達を傷つけて平気なのか、白瀬。自分の自己満足のために友達をけ落とすのか、お前は」

 白瀬は憂鬱そうに答えた。
「友達? おれ、友達なんかいないですから」
「なんだとっ」
「合格してから入学辞退されると、先生がやばいんですか?」
「きさまっ」

 白瀬は鼻で笑って言い放った。
「公立受けるのやめます。これでいいんだろ、先生」
「!!」
 先生のどす黒い顔が青黒くなったので、ぞっとして白瀬の腕を引っ張った。
「いこう、白瀬。先生、もういいですか?」

 ぼくは白瀬の手を引いて、ドアまで行った。 やつは乱暴に手を振り放つと、すごい勢いで走っていってしまった。


 教室に戻っても白瀬はいなかった。 つぎは社会の時間だ……先生が来るまえに、ぼくは教室を逃げ出した。

3へ(まだ続く小川の回想シーン)

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