どん欲なる友 
「君のお初はもらった!!」

 ジョウイはうれしそうに、しかし有無を言わせぬ口調で言った。
 そして素早くポケットから傷薬を取り出した。 さすがに段取がよい。
「特効薬! すべりもよくなるし、殺菌にもなる優れものだ。 痛み止めも入ってる」
 リアムは力なく首を振った。 そんなもので痛みがなくなるとは思えない
「ん? いやなの? 自分は入れたのに? そんなアンフェアなことは許さないよ」
 抵抗すれば充分逃げられるだろう。
 しかし、自分は「楽しんだ」のに、されるのをいやがるのはアンフェアだ、と言われると身動きができなくなった。
 ジョウイは片手で薬のふたを開け、白い軟膏をたっぷり掬った。
「はじめは誰でもいやだって言う。 でも、そのうちに……良くなるんだ、そんなもんさ」
 男にしてはしなやかな、労働を知らぬ指がリアムの後ろに触れ、軽やかにすべリはじめた。
 壊れ物を扱うデリケートな動きだった。 それでも不安のほうが強くて息もつけない。
 萎えきっているリアム自身を見て、ジョウイは含み笑いを浮かべた。
「するほうが好きなんだね。 好き嫌いはいけないな。 何でも食べないと大きくならないよ……」
「へ、変なこという……な!」
「なでなでしてあげようね。 ほうら不思議、あっというまに元通りだ……トランの英雄は、可愛い顔に似合わない立派なのをお持ちで」
「あっ……」
「よしよし、痛くないように、お兄ちゃんがいっぱいお薬を塗ってあげますからね」
「ジョウイ……おれのほうが年上だと思うが」
「そうか? でも見た目ぼくのほうがお兄さんだよね」
 自分のことは棚に上げて、もしかしてジョウイは非常に変なやつなのではないか、と恐ろしくなる。
 どこがどう変なのかわからないが。
 かすめるだけだった指が、次第に容赦なくふれ始め、そして離れる。
 自分も何だか変だ。 ジョウイの指が触れるたびに、力が抜けていく。
 いつも自分がしていることとそう大差ないのに、されるほうになるとこんなに違うのか。
 気がつくと、自分で膝をゆるめてしまっていた。
「ジョウイ……なんだか……変だ」
「どういうふうに、変なの? リアム」
「ち、力が抜け……なにか……したか? この薬はなんだ!」
「ただの傷薬だよ。 そういうのを、感じてきたっていうんだよ、リアム」
 ジョウイはひどく余裕ありげで、憎らしい。
「そうか。 知らなかった……これが」
「そう、ひとつお勉強になりましたね、リアム」
 ああ、やっぱり変なやつだ。 
 相手のことをよく知りもせず、愛してもいないのに、好みだというだけでいきなり口説いた罰だろうか、これは。
 ずっとグレミオに守ってもらった、それで無事に生きてこれただけなのに。
 少しその手から離れただけで、この体たらくなのか。
 こんなところで、自ら墓穴を掘るとは。
「痛くないようにするからね?」
 ささやき声のあと、ジョウイは性急に指を突っ込んできた。
「い、いたい!」
「痛くない、痛くない」
「気持ち悪いっ、本当だ、ジョウイ!!」
「痛いと思うから痛いんだよ、リアム」
「いや、だ……頼む、やめてく……」
「泣いてみせてくれたら、許そうかな……なんてウソ」
「!!」
「慣らすのやめ。 リアム、逃がさないよ」
 ジョウイは笑った。 笑いながらジョウイはリアムの脚を押し広げ、のしかかってきた。
 内臓の表面を無理にこすり取っていかれるような、ざらついた、理不尽で屈辱的な痛みだった。
 思わずリアムは叫び声を上げて、仰向けのまま逃げようとした。
 しかしジョウイに抱え込まれて動けない。 動けないどころか、ますます深く突っ込まれる。
 ずるずると体の中を摩擦する、ジョウイ自身があまりにも固くて、ヤスリで削られているように痛い。もうすでにどこか切れているに違いない。
 腹の中をぐっと突き上げられる感じが、気持ち悪くてたまらない。
 巨大な、そして狂暴な寄生虫でもいるかのような不快さだった。 それが臍のあたりを突き上げてくる。 内側から、下腹の皮を突き破られそうだ。
「いい子だ、リアム」
 ジョウイが耳元で荒い息を吐いた。
 薬を塗ったはずなのに、なんの気休めにもならないじゃないか。
 ジョウイはこの勢いで、最後まで続けるつもりなんだろうか。 自分の快楽だけのために。
 本気で抵抗すれば途中で止めてくれるだろうか? 悲鳴をあげたら。 そして涙を流して見せたら。
 グレミオは、いつもこんな苦しい思いをして耐えてくれたのか?
 こんなもの、ちっともよくない。 苦しくて、気持ち悪くて、最低に惨めなだけじゃないか。
 リアムの頭の中はめちゃくちゃに乱れていた。

 するとジョウイは、体の動きを止めてのぞきこんだ。 細い指でリアムの頬を撫でながら、困ったようにささやいた。
「なにも泣くことないじゃないか? リアム」
「な……ばかいうな! これくらい、どうってことない……!」
 もう男のプライドがずたずただ。
「リアム。 ぼくが嫌い?」
 その青い目をじっと見ると、また体が熱くなる。 顔が近づいて、リアムの唇にやわらかいものが触れた。 ジョウイのなめらかな唇だった。 
 優しくついばまれ、それから力強く吸われた。 そのあいだにも、ジョウイがなだめるようにリアム自身を触っている。 息が苦しくなり、不本意だがジョウイの肩にすがりついてしまう。
 それでも、いつのまにか痛みはなくなっていた。
「リアム……もうあんまり痛くないだろ? 軽い痛み止めが入ってたからね、そろそろ効くはずだよ」
 そのとおりだった。
 痛みはなくならないが、耐えられないほどではない。
「ちょっと動いてみて」
 しかたなく、リアムは少しだけ動いてみたが、動くというより、もがいたというほうが近い。
 それでもジョウイが激しく動きはじめると、たまらなく苦しくて、動きを止めようと思わずしがみついてしまう。
「苦しいの?  ごめんよ。 もうちょっとだから、がまんして」
 ジョウイは荒い息を吐き出した。 口では謝りながら、ジョウイは遠慮なく腰を廻した。
 こんなはずじゃなかったのに、と後悔しても遅い。
 リアムはとうとうあきらめた。 つらいときは、一番楽しいことを考えるに限る。
 一番楽しいときのこと。 もちろん、グレミオと、しているときだ。
 リアムが手を伸ばすと、グレミオは少しつらそうな目をすることがある。 でも愛撫すると、悲しそうな目の色は消えていく。
 それからグレミオの白い肌が紅潮して、しっとりと汗をかく。 リアムの唇の下で息づく胸は、はかなげないい匂いがするのだ。
 われを忘れて、激しく首を打ち振るたびに広がる、あの金色の髪。
 リアムの動きに合わせて、突き上げてくるあの体も、リアムを締め上げる長い腕も、それからあの優しい声も、どんなに愛していることか。
 いくら愛しても、もうこれでいいということがない。 どうしたらいいのかわからないほど、もっと欲しくなる。
 そうして抱き合ったまま、朝になっても離れたくない。
 薄目を開けると、目の前に金色の髪と白い肌が見えた。 
 リアムを傷つけながら、暴れ狂うジョウイがいた。
 目を閉じると、ジョウイの残像はグレミオに変わり、それからふいに消えた。
 
「……リアム? 大丈夫?」
 軽く頬を叩かれて、リアムはわれに帰った。 目を開けると、ジョウイがいた。
「う……」
「動けるかい?」
 もう日は暮れて、夜になっていた。 ジョウイが後始末をして、リアムに服を着せてくれたらしい。
「……寝ちまってた……」
「寝てた? 寝てたのか? 本当に? 痛くて気絶したのかと思った」
 激しい怒りが込み上げてきて、リアムは怒鳴った。
「ばかいうな。 そんなヤワな神経してない! 退屈して寝てただけだ!」
「わかったから、むきになるなよ。 ……歩けるかい? ここ、夜中は寒くなるからとりあえず下りよう」
「歩けるか、だと? ばかにするな!」
「……じゃ、歩いて見せて」
 リアムは悪態をつきながら立ちあがろうとして、座りこんだ。
 足が震えて、まともに立てない。 これもひどいショックだった。
「寝起きだからな。 ちょっと休めば」
「おぶってあげるよ」
「いい、自分で歩く!」
「その調子じゃあ、町まで行くのに何日もかかるよ? いいから、ほら」
 しかたなくジョウイの背中にしがみつくと、ジョウイはゆっくり立ちあがった。
 そこまではよかったが、ジョウイは歩きながらさりげなくリアムの尻に触れてくるのだった。
「ジョウイ……おれのケツに触るな!」
「支えてるだけだよ。……まだ痛い?」
「…………うるさい。 黙って歩け」
「さすがにトランの英雄は気が強いね。 でも、あとで腿の内側も、痛くなるかもしれないよ。 慣れない恰好させたから」
 脚を開かされた屈辱がよみがえってくる。 いっそ、首を締めてやろうかと思う。
 いや、それよりソウルイーターで奈落に叩きこんでやったほうが……。
「ところで、グレミオって、誰だい?」
 リアムは絶句した。 ジョウイは笑いを含んだ声で続けた。
「ずっとグレミオ、グレミオって言ってたよ、リアム。 誰なんだい」
「おれのことを知ってるんなら、グレミオのことだって知ってるだろ」
「その名前の資料はなかった。 素直に吐かないと、またお兄さんがいたずらしちゃうぞ。 ここ、まだ痛いだろ」
「おれのケツに触るなって言ってる!」
「グレミオって誰? 男? 女?」
「男だ!!」
「ふうん。 どんなやつ? いい男かい」
「もちろんだ…………それに、お前と違って性格もいいやつだ」
「紹介してくれよ」
「だめだ! お前みたいな狼に見せるわけにはいかない!」
「ふうん。 ますます……興味があるな」
「興味だとお」
「君の大事なひとがどんなやつか、見たい」

 背筋に冷たいものが走った。 ジョウイの頭の中では、どんな図が描かれているのか、想像するのも恐ろしい。
 とにかく早くこいつから逃げ出して、グレミオの元に帰るのだ。
 そして全部忘れるのだ。 犬に噛まれたと思って。
 この災難には続きがあるとも知らず、リアムは懸命に自分に言い聞かせていた。

一方グレミオはこの事態も知らず(怒)……「気まぐれは罪」へ跳ぶ



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