剣士オルナンのつぶやき 10 2006/05/22
7時が約束の時間だったが、妙に落ち着かず、6時ごろには、ビッキーにテレポートを頼みに行った。彼女は何も言わずにオベルまで飛ばしてくれた。
雨が上がった後らしく、空気がひんやりと湿っていた。石畳の道には、米粒ほどの大きさの、薄緑色の花が無数にこぼれていて、ライムのような強い香りを発している。
見上げると、高い木の梢に鳥が群れていた。
この鳥が梢を荒らすので、花が落ちるのだ。花を食うのか、花に群がる虫を食うのか、それとも香りに誘われて、鳥が花の中で盛っているだけなのか。
王宮前に着いて池を眺めていると、「ずいぶん早かったんですね」と声を掛けられた。
見上げると、デスモンドが手をそろえて、つつましく立っていた。
「こちらへどうぞ」
そういうと、先にたって歩いていった。
王宮は、ほとんど人の気配が無かった。おれたちは静かな回廊を歩き、やがて小さな部屋に入った。
「ここが私の部屋です。ここに住まわせていただいて、18年になります」
書き物机、籐のベッド、小さな本棚に本が少し。古風な絵柄のタペストリが壁にかかっている。実に何もない、簡素な部屋だが、居心地は悪くない。
「ずっと一人でか?」
デスモンドは「そうです」というと、ベッドの下から布の包みを引っ張り出した。
中身は、持ち手の長い、この島特有の弦楽器だった。
「王宮はクールークに使われていたのですよ。こんな楽器、とうに壊されていると思っていたのですが、無事でした。だからって、クールークを憎む気持ちは変わりませんけどね」
小柄な文官はそうつぶやくと、うつむき加減に指で弦を弾いた。バチを使わないので、弦の音はささやくように小さかった。自分の部屋に、妙な男を引き込んでしまって、どうしたらいいのかわからないのだろう。だが、時間は大事だ。
おれはデスモンドの前に体をかがめ、膝に手を置いた。彼は自分からおれに触れてはくれないから、おれが擦り寄っていく。上から見下ろされると、威圧感を感じるだろうし、プライドも傷つくだろう。だから、おれがデスモンドを見上げる。
デスモンドは調弦をやめ、苦しげにつぶやいた。
「危険な仕事です。だからわざとあなたを推したんです」
「わかっている。承知の上で引き受けたんだ。だけどおれは運が強いんでな」
デスモンドの小さめの手は荒れていた。指の股や手の甲にも、ひび割れたところが目立つ。
「お前の思うとおりにはなってやらない。必ず帰ってきてやるから、がっかりしてくれたらいい。お前は、何も重荷に思うことはない」
傷を避けてそっと撫でてやると、デスモンドは手を引っ込めなかった。
「オルナンさんは、なんでこんなことになってしまったんでしょうね……」
おれにもそれはわからない。答えの代わりに、やつの薬指を口に含み、舌で吸った。
「ユウ先生に治療してもらいますか? ムササビに噛まれるまでは、あなたは至極正常な人だったんだし。いつまでもこのままじゃ堪らないでしょう」
おれは薬指を口に含んだまま、首を振った。
薬でこの状態を治すのか? おれは治りたくない。このままデスモンドの小さな膝に顔を埋めていたいのだ。
「……困った人だ」
デスモンドはため息をついて、おれの頭に手を置き、そのまま首のあたりまで滑らせた。
その指がシャツの襟元で止まった。
「こんな鎖、してましたっけ」
そういいながら、指先で鎖をつまみ出し、眺めているようだ。
「これは、ロケットというやつですか? 中に誰かの絵が?」
「くすぐったいよ」
おれはそれ以上触れさせないために、力ずくでやつを押し倒した。
デスモンドを押し倒したとたん、籐のベッドが悲鳴を上げた。やつは眉をひそめ、硬く目をつぶった。また何か痛いことをされるのではないかと思ったのだろう。
せっかく自分からおれに触れてくれようとしたのに、また怯えさせたらしい。
だからおれは、あえて服を脱がせなかった。デスモンドに不安を抱かせないように、服を来たまま、ただ組み敷いて口付けを重ねた。自分が我慢できなくなって暴走するのを、少しでも防ぎたいというのもあった。
一度目はレイプだった。二度目もレイプと大差はなかった。とうとう、今日で3度目だ。もしかして最後になるかもしれないのに、「苦しかった」だけで終わらせたくない。
キスをしながら体を重ねたら、やつは体を引いて、なるべく触れあうまいとした。こちらが猛々しく硬くなっているのが嫌だったのだろう。服の上からでも、プライベートな場所が触れ合うのに、まだ抵抗があるようだった。それでもしつこくキスをしていると、最後には脚の力を緩めてくれた。
どうするのが好きか教えと聞いても言ってくれないものだから、脱がしながら自分で探すしかなかった。
耳の下に長いキスをしたとき、やつの手がおれの頭に触れ、引き寄せるようなしぐさをした。
少し汗ばんだ脇の下を、念入りに舌で舐め回したとき。
それから、小さな乳首を軽く噛んだとき、デスモンドの下半身がおれの愛撫に答えて、しっかりした反応を見せてくれた。どれほどうれしかったか。
互いに全裸になって体を絡み合わせると、こちらの抑制も限界だった。おれは性急に指で慣らそうと試みたが、「痛い」といわれた。爪が少し伸びていたのだ。何から何まで、用意が悪い。
焦った挙句、デスモンドを横向きにして、自分の立ち上がり濡れそぼったやつを、そのままゆっくりと突っ込んだ。やはり狭かった。年相応のテクもない、情けない中年男を許してほしい。
「痛いか?」
そう聞いたが、デスモンドは首を振った。
犯しながら手を握ったが、握り返してくる力はとても弱かった。おれはあまり激しく動かないように注意しながら、手をやつの前に回して、それこそ、できることはすべてやった。やつは背中が本当にきれいだった。弾力のある若い首筋も、二の腕もだ。
そのことを、きっとおれだけが知っている。やつの背中を味わえるのはおれだけだ。
最後にはやつは、おれと同じくらい汗を流しながら、「どうしよう、ああ。気持ちいい。男とイキたくない」と泣き言を言った。
もう達する寸前だというのに、かわいそうに。
おれはやつを抱きしめ、「好きな顔を思い出せ。本当にそれでいいんだから」と繰り返した。
やつは誰を思ったのか、ベッドの中に顔をうずめ、おれに抱かれたまま達した。
イクときの顔を見たかったが残念だ……。
まだ続く……剣士オルナンのつぶやき 11.
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