医師とその弟子(後編1)H.12.07.06
トウタの父は、有能な法律家だった。

以前は、ミューズでは、子供を虐待しても、大した罪にはならなかった。
そのために暴力や、性的虐待が多く、彼は、それにひどく心を痛めていた。
ミューズで、「未成年者保護条例」ができたのは、彼の起こした住民運動の賜物だ。

ミューズで開業したころ、患者として来た女児に、ひどいあざを見つけた。
しかも、あざはだんだん増えているようだった。発育も悪く、あきらかに、くりかえし虐待を受けているのはあきらかだった。

もちろん、すぐに役所に相談しに行った。一刻を争うと思ったからだ。

しかし、情けないことに、お役人は、みな及び腰だった。
なにか事件にでもならないかぎり(つまり、死なない限りということだ)立件はできない、と言われた。
考え過ぎだ、とも言われた。
しかもここは法治国家なので、私がさらってくるわけにもいかないのだ。
なにもできない自分が情けなくて、涙が出た。

役所からの帰り道、弁護事務所を見つけて、飛びこんでしまった。
「こんにちは。どうしました?」
柔和な丸顔の、まだ若々しい弁護士が私を迎えてくれた。それが、トウタの父だ。

弁護士などに話をするのははじめてで、相談するだけで金がかかることも失念していた。
彼は、予約の客を待たせたまま、私の話を聞いてくれた。
そして手を回して、その日のうちには私の患者……虐待を受けていた幼児が施設に保護されるように、手配してくれた。まるで、魔法を見ているようだった。

彼はなかなか血が熱くて、「未成年者保護」に関する法律をつくるよう、当局に圧力をかける運動を始めた。
ミューズで、有名な法律が整備されたのは、彼のおかげなのだ。

それから付き合いが始まって、私の患者として来てくれるようになった。幼いトウタは、当時からだが弱くて、よく夜中に熱を出した。彼はよく、息子を毛布に巻いて、担ぎ込んできたものだ。

少年に育ったトウタは、医師になりたいと言い出した。
トウタの父も賛成してくれたのだが、そのころ彼は病気に倒れてしまった。
「人の役に立つ、一人前の男に育ててくれ、頼む……」
彼のことばを、私は忘れない。


「先生、もうちょっと脚広げてね」
トウタは、私の脚の間にかがみこんで、泡だらけの股間を念入りに剃っている。
ときどき顔を上げて、私の顔を見ている……。
「ちょっとくすぐったいけど、がまんしてくださいね」
うっとりした目が、別人のようだった。
そして、幼さを残す口が、こういった。

「先生、もうグレミオさんはあきらめて。あんな亭主持ちが、先生になにをしてくれるの?つらいだけでしょ。ぼく先生が好きだし、シュウさんもいるんだから寂しくないよ。これから三人で楽しくやろうよ、ね?」

どうしてこんなことになったんだろう。頭のなかは真っ白だ。
今度グレッグミンスターに行ったら、リュウカン師に相談して……恥を忍んで私の状況を説明して、トウタのことをお願いするつもりだったのに。
とにかくこの状態では、まともに育つはずがない、あまりにも教育上悪すぎる。
いや、今までだって教育上よかったとは思えないが……。私が、こんなだから。

それでも、シュウが来るたびにトウタが出て行き、そして情事が終わったころを見計らって戻ってくるような、今のような状態では、落ち着いて勉強もできない。

そのうちにシュウも私に飽きるだろう、そのときまで、この子を師のところへ預けようと思っていた。

この子はすばらしく賢い子だ、亡き父に似て、人格的にも優れている。
「人の役に立つ男に育ててくれ、頼む……」
そういって私にこの子を託してくれた、トウタの父親に、なんと言って詫びればいい?


「先生、泣かないで。どうしたの?」
「トウタ。もうやめて。全部私が悪かったんだ」
「先生はなにも悪くないよ。でも、ぼくは先生が好きだ」
「……」
「お風呂に入るたびに、目に焼き付けてた。先生、きれいだから……知らなかった?シュウさんが来てからも覗いてた……」
「…………トウタ……!」
この場で雷に打たれて、死んでしまいたい。
私は両手で顔を覆った。

「先生……力抜いてね……」
剃り上げた私の股間を、トウタが濡れタオルで拭きあげた。そして、そのまま小さな指を、何度もシュウに犯された部分……私の汚れたそれに、入れようとしている。

「おい、気軽に触るな。これはおれのだからな」
シュウの太い声がして、私は顔を上げた。
「……ケチ」
「それに、お前が迫ると、ホウアンがどうもダメみたいだから。お前は、外で遊んでろ。ほら、こづかいをやるから」
「……つまんないの」
「男はデリケートなんだ。ちょっとしたことでダメになるんだよ……覚えていなさい」
トウタはため息をついて、たちあがった。
「あんまり先生をいじめないでくださいね、シュウさん」

医師とその弟子、後編1おわり。


医師とその弟子、後編2へ続く。




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