砦の予言者 8

砦の若者 ゲンリーの語る。

ハイニッシュの畑は私たちを隠してくれたけれど、冷気から守ってはくれなかった。汗ばんだ体はあっという間に凍える。いつまでも抱き合って居たいがそうはいかない。
イセレンは私を立ちあがらせ、服についた穂を払ってくれた。私たちが寝て踏みしだいたところの麦は倒れて、月の下で穂が光っていたが、朝日が昇れば立ち上がり、狼藉のあとを隠してくれるだろう。
「このハイニッシュみたいに、私たちも強くありたいものですね」
イセレンはそういって私の髪を撫でてくれた。


つかの間の夏が終わるころ、突然にオルムネルが訪ねてきた。彼は、レルでのただ一人の友人だった。
オルムネルは背に大きな荷物を背負ったまま、私にぶつかるようにして抱きついてきた。
「会いたかったよ親友!! さびしかったよ、ゲンリー!」
「お、オルムネル? 子供はどうした?」
「郷に預けてきた。どうしてもあんたに謝りたくて来た! こないだ、サルムが逮捕されたんだ。あんなやつ、一生牢獄に入ってればいいんだ。ああゲンリー、私が余計なことをしたばっかりに、酷い目にあったんじゃないか?」
「いや、おれは大丈夫、何もなかった。ほんとだよ。おまえには感謝してるんだ。わかったからもう放してくれ」
懸命に宥めたが、オルムネルはあまり聞いていないようだった。

確かに、オルムネルの紹介で、ケメルハウスに働きに行こうとして、サルムなる人物に拉致監禁されたけれど、イセレンが助けてくれた。その縁で私は、イセレンと恋仲になれた。実は感謝しているくらいだ。
とはいえ、こんなところ、イセレンにみられると大変だ。
いや、それより気になったのは、私の恩人である家主がのっそりと立って、あたりを見回していることだった。
どうにかオルムネルを押しのけて挨拶をすると、彼は鷹揚に頷いた。
「ハンダラ砦は空気が優しいな。私はヨメシュ教徒だけれど、ここは来るものを拒まない。イセレンはいるかい?」
「ああ、今は広場で瞑想をしています」
「そうか。オルムネル、ありがとうな……助かったよ」
そういうと家主は、ゆっくりとした足取りで、広場に行ってしまった。私は呆気にとられて彼を見送った。てっきり私に会いに来てくれたと思ったが、違うらしい。
広場と言うだけで、案内もされないのにそちらへ向かったのも、意外だった。
「バスデンさん、どうしてもイセレンに会いたいから連れて行ってくれって。荷物持ちさ。イセレンと古い知り合いだって、ここにも昔、来たことがあるんだって。何か聞いてる?」
オルムネルはもう涙を拭いて、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「知らない。聞いたことがない」
「あ、そう? バスデンさんってば予言者様に一目ぼれしたのかな、連れてきて悪かった? でもバスデンさんは年寄りだからゲンリーのライバルにはならないよ。とっくにケメルも上がってるだろうしね。で、予言者様とはどうなの。仲よくしてる?」
「お、お世話になってる。ハイン語とか機械工学とか、つききりで教えていただいて……」
「勉強だけ? ふうん? 私が見たのは幻?」
彼はぐるぐる私の周りを回りながら、信じていない様子だった。

その夜、オルムネルは「積もる話があるから」と、私の部屋に転がり込んできた。彼はケメルではないので、こちらさえ気にしなければ問題はないがオルムネルは甘くなかった。
「予言者様を妊娠させたら、二人とも星船に乗れないんじゃないかと思ってね、持ってきてあげた」
オルムネルが荷物から取り出したものは、砦にはあってはならないものだった。
「あんたは不器用に見えて、意外と器用だから、すぐに使いこなすだろうけどね」
私は頭を抱えた。オルムネルもイセレンが独身者ということを忘れているらしい。私も時々忘れてしまうけれど。
「頼むからイセレンの前で、そういうことは言わないでくれよ」
「もしかして、振られたの?」
私はとうとう、オルムネルにイセレンの体のことを打ち明けた。
「多分、イセレンの体が無意識に自衛してるんじゃないかな……敬虔なハンダラ教徒で、しかも独身者であるし……それにまあ、おれは異常者だから、イセレンの中でどんな化学反応が起こっているのかわからないし……」
ところがオルムネルは、「別にかまわないんじゃない?」と言い出した。
「ケメルハウスじゃ別に珍しくない。だって一晩で相手を何人も変えるんだから、なんでもありだ。私も、男になって女と楽しんだ後、男とやったことがある。ちょっとコツはいるけど、かなりよかった」
自由気ままなオルムネルをだれも止められない。いいやつだし、悪意がないので手に負えない。
そのあと、悪友から「男同士のやり方」を聞かされた。
それを知って強く思ったことは、断固として、イセレンにそんなことを強いたくないということだった。


Sunday, October 03, 2010 2:13:37 PM

砦の予言者8 終わり。NEXT

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