ドクターの春は
これはホウアン×グレミオです。 おやじ視点ですから相当粘っこいですv

あわただしい一日がおわり、片付けの終わった診察室。 「……あの、先生。 これを、ぼくに?」
 トウタは顔を輝かせて、ホウアンが差し出した分厚い本を見ている。
 それはトラン共和国の名医リュウカンの書いた、「薬理学ハンドブック」だった。
 トウタが折りを見ては、ホウアンから借りて勉強している、貴重な専門書だ。
「とてもわかりやすいでしょう。 この本」
「……でも、それでは、先生が……」
「リュウカン先生が新しいものを出しましたからね、そちらを買うからいいんです」
 トウタの色白の顔が、喜びにぱっと赤くなった。
「……がんばって、勉強します、先生」
「そのかわり、昨日見たことはリアム君には内緒ね。 わかってるよね?」
 若い助手は、もらった本を胸に抱きしめて、うっとりとつぶやいた。
「はい、先生。 グレミオさんと先生がほとんど裸でベッドにいたなんて、誰にも言いません……」
「……言ってるじゃないですか!!」
「あ、つい。 あんまり印象が強烈だったもんで」
「……」
「で、センセイ」
「なんですか」
「できたんですよね?」
「……………………」
 トウタはいつもより半オクターブ高い声で叫んだ。
「おめでとうございます!!!ホウアン先生にも春が来ましたね! お祝いしましょ、お祝い!」
 まるで、ご懐妊を喜ぶかのようなトウタのことばだが、もちろんホウアンは男だから、妊娠したりはしない。
 トウタは以前から、先生がこっそりグレミオの写真を盗み見ては、ため息をついているのを知っていたらしい。 天才少年は、男女のことならぬ男×男のことにもカンがするどいのだ。
「うううう……春はまだ、来ないんですよ……」
「? あの、先生? まさか、また、ダメだったんですか?」
「き、君は傷に塩をすりこむようなことを……」
 トウタは気まずそうにホウアンを見つめている。
 同じ男として情けない、と言いたげだ。 もちろん一番情けないのはホウアン自身だった。

「グレミオさんも宿屋に移って、カイル君が帰るのを待つって言うし」
「そりゃ、元気になったら退院しないとね」
 こころなしか、トウタの声は冷たい。 自分の将来を見たようで気分が悪いのだろうか。
「そのうち坊やが帰ってきたら、さようならです。…………悲しい……」
 湿りがちな雰囲気を吹き飛ばすように、トウタは声を励ました。
「先生。 こうなりゃ、路線変更です!」
「なに、それ」
「きっと、先生のアプローチが濃すぎるんです。 これからは、ずばり純愛路線です」
 ふっとホウアンはため息をついた。
「……三十路も半ばを過ぎて、慣れない純愛は苦しいですね……」
「大丈夫、今はおやじこそ、純愛が似合うんです!」
 おやじと呼ばれてホウアンはぐっと詰まったが、搦め手から攻めよ、ということばもあると思い、
「そうですね」とつぶやいた。
 とにかく、グレミオが来てからホウアンは気もそぞろだ。
 砂漠で水を求める旅人のように、あの男がほしくてたまらないのだ。 この激情を止めることなどできはしない。


 夕食後、ホウアンはついに決心して、宿屋に滞在するトランの男に会いに行った。
「グレミオさんはいらっしゃいますか?」
「先ほどお散歩に行かれましたよ」
「ありがとう」

 あわてて中庭に出ると、池のほとりでユニコーンに近寄るグレミオが見えた。
 金髪が、まさに黄金のように光り輝いている。 白い手を伸ばして、何か言いながらジークフリートの首を撫でている。 男には愛想が悪いジークフリートだが、いやがりもせずされるままになっている。
 ホウアンは、緑のマントのかげからのぞく、しなやかながら引き締まった腰つき、そして長い太腿のラインに、思わず生唾を飲んだ。 長身で、民族的な特徴か、骨密度はなかなか高そうだ。
 ほっそりしているが、脱がせると逆三角形の、なかなかボンバーな肉体であることをホウアンは知っている。脱がせるだけは何度も脱がせたことがあるからだ。
 下腹部の布地のシワ加減も悩ましい。 そこに顔を埋め、ベルトを引っこ抜き、ジッパーを一気に引き下ろしたい。 あんな青二才に好きにさせてなるものか。
 目もくらむような渇望だった。
 ホウアンは、自分がゆったりした服を着ていることに感謝した。ぴったりしたズボンでもはいていたならば、欲情していることが一目瞭然だからだ。
 ホウアンは懸命に気持ちを落ち着けて、できるだけさわやかに声をかけた。

「危ないですよ、グレミオさん。 それは男嫌いなんです」
「……あ、先生」
 ふと振りかえったグレミオの透明な笑顔に、ホウアンは見とれた。 病み上がりだが、やつれも見えない。
 彼は、清潔そのものだった。 あの年下男相手に痴態の限りを尽くしているとは思えない。
 以前、そのマクドール坊やにカメラを貸してやり、現像までしてやったことがある。 案の定、坊やが撮って来たのは、全てグレミオの半裸および全裸写真だった。
 坊やには写真とネガをあげたが、ひそかにホウアンの分も焼き増しして、大切にしまってある。 しかし写真より実物のほうが、もちろんずっと美味そうだった。
 本当に、もうちょっとだったのに。
 いけない。 ついどうしてもイヤらしい顔になってしまう。
「気分はいかがですか?」
「すっかりいいです。 おかげさまで」
「それはよかった」
 それ以上会話が進まないのが、悲しい。 ホウアンは持ってきた包みを差し出した。
「差し入れです。 レストランで出している月餅なんですが、うまいですよ」
「先生?」
「いろいろいやな思いをさせてしまったし……おわびの意味もありますが……」

 ああ、なにを言ってるんだ! 愚か者、あやまってどうする! もっとオトナのお付き合いをイタしたい、と言いたいのに!
 しかしもう遅い。
「でも、おかげで私は元気になりましたし、それに……楽しかったですよ、けっこう」
 くすっと笑うあたり、この男も歳相応にさばけているらしい。
 ますます逃したくない。
「グレミオさん、お散歩でもいかがですか。 近所にお花見にいいところがありますから、ご案内しましょう」
「……お花見ですか?」
 ほんのすこし、グレミオの顔に警戒の色が走った。
「あ、トウタたちも先に行ってます」
 もちろん嘘だ。苦し紛れにトウタの名前まで出して、情けないのだが。
 グレミオはしばらくホウアンの顔を見つめていたが、ふと微笑んだ。
「行きましょう」

 気の毒がるグレミオを馬に乗せて、手綱を引いて20分ばかり歩き、目的地の砦跡まで二人はやってきた。
 8時は過ぎたというのに、日が暮れたあともあたりは仄明るい。 悩ましい風の吹く、春の宵だった。
 砦跡といっても、崩れかけた石垣があるだけで、近くに川が流れている。
 主のいない砦跡には、数本の山桜が満開だった。
 落ち着きたいときには、ホウアンはときおりここに来る。 川のそばでタバコを吸って、それだけだが気分転換にはよい。
 葦の生えた、ゆったりした流れの浅瀬には、鴨の群れが遊んでいた。
 河川敷には菜の花の黄色にまじって、大根の白い花が可憐に咲いている。
 かたわらの柳の木に馬をつないで、ホウアンはグレミオを馬からおろした。
「……桜がきれいですね。 これは、もう葉が出ているんですか?」
「これは全部山桜ですから。 花と葉が一緒に出るんです。ちゃんと実もつけますよ」
「そうですか……こんなにきれいな景色なのに、誰も見にこないんですね。まだそんな余裕がないのかな」
 すこし強い風が吹いて、さあっと花びらが舞った。菜の花の甘い香りが漂ってくる。
 水面では鴨がメスの取り合いをして、静かに火花を散らしている。 日が長くなると鳥も夜更かしになるらしい。 鳥も繁殖の季節なのか。 繁殖とは関係がない者にとっても、春は恋の季節だ。
 しばらくして、グレミオはあたりを見まわした。
「トウタ君たちはどこに行ったのかな……」
「…………」
「おかしいですね。 行き違いになったのかな」
「……すみません、あなたをだましました。 トウタは来ません」
 グレミオの緑のマントが、ふわっと風に翻った。
「あなたがトランに帰る前に、どうしてもちゃんと話したくて、こんな見え透いたことをしました」
「……見え透いてましたね。 確かに。 私もわざとらしかったですね」
 グレミオはくすっと笑った。
 涙が出るほどホウアンはうれしかった。
「ミューズで会ったときから、あなたにはひどいことばかりしてきました。 そして先日も無礼を働きました。 いまさらと思われても当然です。でも今だけ、がまんして聞いてください」
「……」
「グレミオさんがあの坊やと離れられないのはわかります。 わかります……でも、私もあなたのことを……」
 好きです、と言うべきところだったが。 愛しているといえたらなおいいのだが、ホウアンには言えなかった。 息が詰まり、やっとこれだけ吐き出した。
「私はあの坊やに殺されてもかまいません」
「ここに来てから先生の視線が痛かった……私はそうカンのいいほうじゃないけど、さすがにあれはこたえました。 どこにいても、なにをしても……視線を感じる。 先生が怖かった」
「グレミオさん」
「でも嫌いだと思ったことはない。 なぜなんだろう。 だからこんなふうに誘われて、ふらふら付いてきてしまった。 それにしても私もどうかしています……あなたにそんなに見つめられると……なんだか……」
「グレミオさん……!!」
 手首をつかむと、一瞬彼は怯えた目をした。 そう年もかわらないのに、10歳も若い相手を誘惑しているような錯覚を覚える。
 崩れかけた石垣に押しつけて、ホウアンはトランの男の体を探った。 それから長身のグレミオを無理やりに座らせて、ホウアンははじめてそのくちびるを吸った。 
 何度となく脱がせたり押し倒したりしたというのに、キスもしたことがなかったのだ。 その形のよい唇は柔らかで、弾力があった。 ぐっと開かせ、そのなかの秘密を探る……優しいことばを紡いで生きてきたらしい舌は、とても柔らかく清らかで、ホウアンの愛撫につつましく応えてくれる。
 角度を変えてさらに口を合わせ唇で唇を揉みしだき、唾液を貪り、小さく声を上げるグレミオを抱きしめる。
 もっと欲しい。 全部欲しいのだ。 痛いくらいに欲情しているんだから。
 キスしたくらいで誰が満足できようか。
 この若者が同情か、せいぜい好奇心でついてきたとしても、ここまできたら返しはしない。
「まだ私が怖いですか、グレミオさん」
 するとグレミオは、焦点の定まらない青い目で見つめ返した。
「……怖いです……」
「私も自分が怖い。 こんなにあなたが欲しい、身のほど知らずの自分が怖い……」
 ホウアンは口走り、グレミオの力の抜けたからだを柔らかい春草の中に押し倒した。

 男が胸を吸われて、このように反応するのをはじめて知った。 深いため息をついて、グレミオの腕がホウアンの頭を包む。 思わず乳首を強く吸うと、痛がってからだをよじる。 白いからだに唇のあとをつけたかったが、それはかろうじて思いとどまった。
 引き締まった下腹部の臍のくぼみが美しい。 腰骨から股間へ切れこむ鋭い線、その中間点に誘うように薄いほくろが見える。 ホウアンは感動して、そのほくろを柔らかく吸った。
 そして股間に立ちあがりかけている、世にも美しいペニスのなめらかな先端を(そのときホウアンはそう思った)口に含んだ。
 それからホウアンは突っ走り始めた。 合わせた皮膚越しに、相手のためらいが伝わってくる。 それをかき消すように、気を変えるいとまも与えないように激しい愛撫を与え続け、幾度となく唇を開かせ、そして脚を抱え込んだ。
 トランの若者の脚を極限まで開かせ、ホウアン自身の猛り狂ったものをじりじりとねじ込み、ゆっくりとスラストを繰り返すと、すでに愛撫で息も絶え絶えになっていた若者は息を止めて、あっけなく達した。
 そのとたん若者のからだの中は恐ろしく狭くなり、ホウアンはもう動くこともできなかった。ここちよく搾り取られながら、ホウアン医師はようやく力を抜いた。


 白い腹部にたまったグレミオの精を舐めると、どうしたことか果物のような香りがして、しかもかすかに甘かった。 出てすぐは、ふつうなんの匂いもしないものだ。
 この男は精液までよい匂いがするのか。 感激して夢中で舐めていると、ようやく息を整えたグレミオが身じろぎした。
「ちょっと待って下さいね。すぐきれいにしますからね……」
「先生……そんなことしなくても」
「グレミオさん、なにか果物をたくさん召し上がりましたか?」
 突然奇妙なことを言われて、グレミオは戸惑っているふうだった。
「ええ、イチゴやらオレンジやら、たくさんいただきました。 宿の朝ごはんは果物も食べ放題で、つい食べ過ぎました。 ……あの、どうしてわかるんですか?」
「秘密です」
 ようやく気づいたのか、グレミオは顔をかあっと紅潮させた。
「ふふ、グレミオさん、おやじは徹頭徹尾えっちなんですよ」
 めずらしく怒ったのか、グレミオはぷいと向こうを向いてしまった。
「……本当にえっちです。 私も近い将来、あなたみたいなすけべなおやじになるのかと思うと、いやになります……」
「そんなかわいいことを言うと、またいやらしいことをしますよ? いいんですか?」
 びくっとしてグレミオは跳ね起きた。 白い両肩に金髪が乱れて、汗に貼りついている。
 困惑した顔が、どうしようもなくホウアンの劣情をかきたてる。
「も……やめてください。 ものごとには加減と言うものが」
「いつもあの坊やの立派なものでいたぶられているんでしょう? 私のこんなモノくらい、どうってことないんじゃないですか?」
「せ、先生……いじめないでください……」
「一度も二度も同じことだ。 今夜だけはまだ返しませんよ。 もう一度天国を見せてください」
 そうささやきながら、ホウアンはまだ火照っているグレミオの上半身を抱きすくめた。

END

あの、これ一応キリリクなんですが。 さいかさま、ごめんなさい!! 健全で笑えるものにしようと思ったんですが、つい……vv


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