どん欲なる友 1 H.12.04.17
これは拙SS「約束の地へ」の続きです。
U主人公カイルと、坊っちゃんは、約束の地へジョウイに会いに行くのですが、道草が多くてなかなかたどり着きません……。
ここは天山の峠の中腹、とある草むらの中である。
新同盟軍リーダー、カイルと、リアム・マクドールがここに来てから、ニ時間は経った。
いろいろすったもんだがあったが、カイルは今リアムの腕の中に抱かれている。
というより、単にカイルがリアムにしがみついているのだが。
「……おい。 行かないのか? あいつ、待っているぞ」
とうとうたまりかねて、リアムが促した。
すでに日は傾きかけている。 標高が高く、やや寒冷地に属する土地であり、春とはいえまだ寒い。 ろくな装備なしに野宿はしたくない。
「気が落ち着いたら、いいかげんに、放せって」
「もうちょっとだけ……」
ネコのようにのどを鳴らして、豊かな頬をリアムの胸元に擦り付けてくる。
坊っちゃんはこれで、非常に好みがうるさい。 オトコもオンナも好きだが、誰でもOK、というのではない。 そしてこのカイル少年は、可愛いとは思うが好みのタイプではない。
「……ふう……」
「本当に変なやつ、お前って。 あんなに強いくせに。 今のお前はまるで」
親に甘える幼児のようだ。 リアムは、それを口にしなかった。 親がいないことは先刻承知なのだ。
「お前が、あのジョウイを大事に思っていることは知ってる。 でも、酷ないい方だけど、もう勝負はあったんだ。 わかるか?」
「………………」
カイルは黙っている。
「やつに討たれてやるというが、それは無駄な情けだ。 ジョウイのほうがお前に殺されたがっているはずだ」
「…………」
考えるのもつらいらしく、カイルはただうなだれている。 リアムは胸が痛んだ。 しかし誰かがいわなくてはならない。
「やつには、もうどこにも行くところがない。 その辺をうろついて、そのうちに捕まって……不名誉な死に方をするしかない。 それよりはいっそお前の手で……」
「……すう……」
安らかな寝息だった。 リアムの、いつになく優しい声でいい気持ちになったらしい。
リアムのほうは、いい気持ちどころの騒ぎではない。
「寝るな〜〜〜〜!!!」
戦場で鍛えたのどで一喝すると、さすがにカイルは飛び起きた。
「え? ぼく、寝てましたか?」
そのくちもとにはよだれが見える。 当然、リアムの服にもついている。
「……くっそお、おれの服によだれなんかつけやがって……」
カイルは立ちあがり、思いきりのびをした。 そしてさわやかなテノールで叫んだ。
「気分すっきり。 さあ、行きましょう!!」
「おれは、すごく疲れたよ……はっきりいって、もう帰りたい。 グレミオだって待ってるしな」
「ここまできて、見捨てないでくださいよ、マクドールさん。 ね?」
カイルは、なにやらごそごそと荷物を探っていたが、
「これで機嫌直してください」
きれいな色刷りの本を、リアムに渡した。
「これは? ? なんだこれ」
「シーナにもらったえっちな本です。 無修正です。 トラン共和国の雑誌なんですよ。 知らないんですか?」
ぱらぱらとめくって、リアムは笑い出した。 素っ裸の写真ばかりで、男のも女のもある。 男女平等をモットーにする国だけはある。
平面図は平面図だ。 こういうのを見て自分で抜くのもいいが、実際にするほうがいいに決まっている。
しかし、こんなもので自分を喜ばせようと思う幼さが可愛くて、感心したふりをした。
「知らなかったよ……」
「可愛い子がそろってるでしょ? ぼく、もう飽きたからマクドールさんにあげます」
「お前のお下がりのエロ本なんて、いるか」
「元気になりました?」
「よけい疲れたよ、もう」
にや、と笑って、カイルはすっとリアムの股間に触れた。
「……下半身が」
「ば、ばかやろ〜!! お前なんかジョウイにぼこぼこにやられちまえ! 助けてやるもんか!」
可愛いなどと思ったのが、間違いだった。
空はすでに茜色に染まっていた。
棍棒を握り締めた、背の高い青年が、崖の岩肌を見つめていた。 引き締まった背中に、金髪が滝のように流れている。
カイルは数メートル手前で立ち止まった。 足の下で枝が折れて、乾いた音を立てた。
わずかに、青年の背中に緊張が走る。
「……待ったよ。 カイル。 長かった……やっと……来てくれたね」
ジョウイは背を向けたまま、低い声で言った。 地獄の底から響いてくるような凄みがある。
……暗い。 暗すぎる。 こいつ、本当にカイルの親友だったのか?
カイルはさすがに真剣だ。
「ジョウイ。 長い戦いだったけど、全部終わったんだ。 ぼくたちは……」
みなまで言わせずに、ジョウイはぐるっと振り向いた。
リアムにとっては、はじめてまじかに見る、皇王ジョウイの姿だった。
少しやつれた白い頬、鋭い青灰色の瞳。 そして、夕日に透ける金髪。
袖なしの青いシャツから、しなやかな両腕がむきだしになっている。
恐ろしいほどのセックスアピールだ。
「カイル、ここで、決着をつけよう!」
「もう終わったんだよ、ジョウイ。 ぼくたちが戦う必要はないんだ」
「それなら、なぜここに来た、新同盟軍の盟主である君が」
「そんなもの捨ててきた。 ぼくは君がいたら何もいらない」
ジョウイは、さげすむような薄笑いを浮かべた。
リアムは頭がくらくらしてきた。 ついてこなければよかった。
ただ一目で、心を射抜かれてしまったらしい。
…………いけない。 おれにはグレミオが……!!
それにしても、完璧にリアムの「タイプ」だった。
金髪で長身痩躯で、愁い顔がどこかグレミオを思い出させる。
その姿を一目見ただけで、その声を聞いただけで、坊っちゃんの元気な下半身は、いきなり60度の角度を描いて立ちあがっていた。
しかし、第三者である坊っちゃんの、服の中の戦闘準備に気づくものはいない。
そのジョウイはゆっくりと髪をかきあげた。
「二時間前なら、信じたかもしれないな。 カイル……君はぼくの、はじめての男だからね。 でもアレを見てからは、そんな気にはなれないよ」
坊っちゃんは思わずあごを外しそうになった。
はじめての、男?
「アレって、なんのこと……ジョウイ」
ジョウイは鼻で笑って、望遠鏡を投げ捨てた。
「君たちが二人はお楽しみのところは、ここから望遠鏡でよく見えたよ。 カイル、君の気持ちはよくわかった!」
黙っているつもりだったが、ついリアムは叫んだ。
「誤解だ! おれたちは、結局何も!」
「結局、何も、なんですか? トランの英雄どの」
ジョウイはリアムをぎりっとにらんだ。
まともに視線を合わせて、リアムはついに80度の角度まで勃起した。 失神しそうだった。
しかしジョウイは、カイルに向かってすばやく棍棒を構えた。 斜めの視線がまたたまらない。
「悪いけど、君たち二人を幸せにはさせない!! カイル、さあ、決着を付けるんだ!」
「ちょ……ちょっと、待って!! ジョウイ! ぼくの話を聞いて!」
「昔ぼくはカイルにそう頼んだよね。 あれはお祭りの夜だった。 君はやめてくれなかった!! いやだっていったのに!!」
「ぼ、ぼくはジョウイを好きだから……君だって僕のこと好きだっていってくれただろ」
「だからっていきなり押し倒されるとは思わなかったよ」
カイルはぐっと詰まった。
さらにジョウイは歌うように続けた。
「君の肩越しに、丸い月が滲んで見えた。 音楽が遠くに聞こえた……ぼくは16歳で君は15歳だったね……今でも覚えている」
棍棒を構えたまま、ジョウイは唇を噛んだ。
「君に……痛い思いをさせられた……それでもぼくは、君が……」
「ジョウイ……」
「いっそ君に殺して欲しかった。 でも今は違う。 許さない! 仲間の何人かとデキてることはスパイから聞いて知ってた。 しかたないと思ってた。 でも目の前でなんてあんまりだ!!」
「ジョ、ジョウイ、君だって結婚したじゃないか」
「皇女には触れていない。 いや、できないんだ。 愛しいとは思っても、抱けないんだ。 こんなオトコに誰がした? カイル、君だよ! ……君のせいだ。 償ってもらうよ」
思わずリアムは、口をさしはさんだ。
「ジョウイ……それは、違うぞ。 そういうのは生まれつきだ。 誰のせいでもない」
ジョウイにはその声は届かなかった。
髪を振り乱してカイルに跳びかかったと思うと、棍棒で少年を羽交い締めにしていた。
そして崖のほうへに引きずっていきながら、叫んだ。
「カイルを殺して、ぼくも死ぬ! マクドールさん、あなたにはすみませんが、カイルはいただいていきます!!!」
「わああっ!! 助けてください、マクドールさん!!」
「……殺されてやる覚悟じゃなかったのか、カイル?」
「や、やだっ!! 怖い! ジョウイ、やめて、ジョウイ」
ジョウイは愛しげにカイルの耳にささやいた。
「怖がらなくていい、ぼくがいる。 これからはずっと、一緒だ……」
「やだああ〜〜〜」
「さあ、ふたりで旅立とう。 水の底にも、都があるだろうよ……」
「まて、ジョウイ!!」
「何ですか、止めても無駄ですよ、マクドールさん」
その目は潤んでいた。 坊っちゃんの理性の、安全弁が壊れた。
「死ぬな、ジョウイ。 おまえは美しい!!!」
「へ?……」
「おれと逃げよう!!」
どん欲なる友 2へ続く
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