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約束の地へ               H.12.02.29
 バナーの村は、相変わらずのんびりしたものだった。
 
 宿にたどり着いたとたん、グレミオは熱を出した。
「すみません。 毒虫に刺されるなんて……」
「気にするな。……39度か」
「私はここで待っていますから、カイル君と坊っちゃんは先に行ってください」

 新同盟軍リーダー、カイルは、これを聞いて首を振った。
「でも、本拠地に行けば診療所もあるし、そこで休んだほうがいいですよ」
「そうだな、そのほうが安心だ」
「これくらいで、ご迷惑をかけるわけには……」
「何をいってるんですか、水臭い。 ぼくたちピーを握り合った仲じゃないですか(^_^)」
「カ、カ、カイル君。大人をからかうもんじゃありませんっ」
「…………カイル。 ソウルイーターの力を見てみたいのかな?」
 するとカイルは、にっこりして「ご遠慮します」と言った。


 瞬きの手鏡を使えば、バナーの村から本拠地までは、ほんの一瞬で移動できる。
 あっというまに、三人は本拠地のホールに立っていた。

「りっぱなものですね……」
 磨き抜かれた石の床、高い天井、大理石の柱。

 壮麗な城のようだ。
 隠れ家のようだった、トラン湖の城とはずいぶん違う。

 感に堪えないように、グレミオは当りを見まわした。
「グレミオさん、診療所はこっちですよ」
 長い回廊を渡りきると、応接間らしき一角がある。
 その横が診療所だった。

 ドアを開けると、診療所は留守だった。
『食事中、すぐ戻ります。具合の悪い方は、中でお待ちください』とプレートが下がっている。
「先生、留守か。 珍しいな。グレミオさん、中で寝ていて下さい。 先生にはちゃんといっておきますから」

 ベッドで休んだグレミオを残して、二人はレストランに向かった。
 ホウアン先生は、ちょうど食事を済ませたところだった。

「先生、休憩中すみません、ちょっと病人が出たんです。 今、休ませてもらってます」
 カイルが呼びとめると、ホウアン先生は愛想よく笑って答えた。
「わかりました、すぐ参ります……こんにちは、リアム君」
「先生、おれたち出かけるけど、グレミオのことよろしくお願いします」

「あの……グレミオさんが、こちらへ来ているんですか?」
「ここに来る途中で、毒虫にやられてしまって、熱が高いんです」
「……………………」

 なぜかホウアン先生は、心ここにあらずといったていであった。
「先生?」
「あ、失礼。 大丈夫、よく効く薬がありますから、任せてください」
「よかった。 これで安心して出かけられます」
「じゃ、私はこれで」
 そそくさと診療所に戻る先生を見て、リアムは感心していた。
「さすがは名医だな。 自分の休憩より、患者優先なんだな」
「これで一安心ですね。 じゃあ、出かけましょう、マクドールさん」


 診療所のドアの前で、ホウアンは立ち止まった。

(いけない。顔がにやけてしまう……鏡、鏡)
 ホウアンはポケットから手鏡を取り出した。

(やっぱり鼻の下が伸びている。 こんなすけべそうな顔では、下心丸見えじゃないか。いや、確かにすけべ心も下心も、おおありなんだが)
 ホウアンはため息をついた。

(かといって病人にいきなり襲いかかるというのは、私の医師としての倫理にもとる)
 ホウアン医師も、あれからずいぶん成長したらしい。

 迷った末に、ホウアンはようやくドアを開けた。
 白いシーツに、ふわりと広がった金色の髪が目に飛び込む。
 ベッドにいるのは、まさしくあの十時傷の若者ではないか。
 
 鋭い三白眼でホウアンを睨みすえた、長身でやせぎすの、あのグレミオだ。
 ホウアンの超好みであるところの腰つきを持った、トラン共和国から来た男。
 
 彼に笑われて、ホウアンはせっかく包茎手術を受けたというのに、一度たりともその成果を披露しないまま、逃げられてしまったのであった。
 
 どうしたことか、ますます容色に磨きがかかっているのだった。
 医師はごくんとつばを飲みこんだ。

(これはぜひとも、モノにせねばなるまい……)

 見てしまっては、医師ホウアンの下半身には人格などない。
「……飛んで火にいる夏の虫とは、このことですね……」

 異様な気配に、ふとグレミオは目を開けた。
 信じられないというように、青い目を恐怖に見開いている。
 おどろきのあまり、声も出せないようだ。

「大丈夫、私がちゃんと直してあげます。 すぐよくなりますからね。 それまでは私もガマンして、紳士的に振舞うように努力いたしますから……決して、あなたの股間に電流を流したりはしませんから、ご心配なく……」
 耳元でかき口説くホウアンを、グレミオは口をぱくぱくさせて見上げていた。


 そのころ新解放軍リーダー、カイルと、リアム坊っちゃんは、天山の峠に向かっていた。

「ちょっと待ってください、マクドールさん」
「どうした?」

 カイルは、リアム坊っちゃんに、双眼鏡を渡した。
「……これで、誰かいるか見てくれますか? 向こうの方角です」
 思い詰めたような表情だった。
 首を傾げながらも、リアムは双眼鏡を覗いた。

「……いるよ。 一人だ」
「どんな人かわかりますか」
「……長い金髪の、背の高いやつ。 青いシャツを着てる。 もしかしてあれが、ジョウイか?」
「たぶんそうです」
「すぐに会いに行くんだろ? おい、どこに行くんだ。 そっちは今来た方角……」
 カイルは、逃げるようにキャロの方向に歩き出した。
 リアムは追いかけて、その腕を捕まえた。

「どうしたんだよ」
「会うのが怖い……」
「友達だろ?……まあ、敵の大将だけどな。 わざわざ会いに来たのは、話をするためじゃないのか? 一人で会うのが怖いっていうから、おれが付いてきたんだぞ」
「そうです」
「だったら、なんで」
「ジョウイの性格だと、ぼくと一対一で、決着をつけようとするでしょう」
「お前は強いから、大丈夫だ。負けないよ」
「マクドールさん……」
「ど、どうしたんだ、おい」

 カイルはふと体をかがめ、リアムにすがるようにして抱きついた。
 頭をぐいぐい腹に押し付けてくる。
「マクドールさん!」
「カイル、悪ふざけはやめろ」
「振りほどけば?」
 
 子犬のようなあどけない目が、リアムを見上げていた。
 むげに投げを打つのがためらわれるような、すがるような目だった。

「殴ったりしないよね。 マクドールさんいい人だもん」
「いい人って……買かぶりだよ」
「ねえ、ぼく寂しいんだ。 もう本当にひとりぽっちで、すごく寒いんだ」

 どこか幼さの残る声でこんなことを言われると、思わずほろっと来そうになる。
 突き放せない。

「この寂しさ、マクドールさんにはわからないだろ」
「そんなことはないけど」
「わかってくれる? やっぱりマクドールさんいい人だから。ねえ、ちょっとだけでいいから」
「ちょ、ちょっとだけ、って」
「とぼけないで。 ねえ、ここで。 いいでしょ」
「わわわっ!! 変なところさわるな!」
「怖がらないで。 乱暴にはしないからっ!」
「ええい、かわいそうと思って聞いていればいい気になりやがって!!」
 振りほどこうとするが、なんとそれができないのだった。
 護身術のたしなみがあるリアムなのだが。

「そんなばかな……」
「ふふっ、ぼくが道場で育ったのを知らないの? 武術なら一通りのことはできるんだよ。もちろん柔術だってね。ほどけるはずないでしょう」
「くっ!!」
「さあ、ぼくに天国を見させてください……」
「い、いやだっ!!」

「どうして、そんなにいやがるんだよ。マクドールさんならわかってくれると思ったのに」
 ついに、カイルはいらだったような声を上げた。
「ぼくはもうすぐ、ジョウイに会う。 そして殺されても、抵抗しないつもりだ」
「…………え?」
「一切、抵抗しない。 ジョウイが心を開いてくれるまで説得するつもりだ。 仲直りしようって。でも怖い。 怖くて怖くて……」

 リアムは虚を突かれて、カイルの顔をじっと見つめた。
 黒い目に涙がにじんでいるように見えるが、錯覚だろうか。

「殺し合いなんか大嫌いだ。 どうしてリーダーなんかできたと思う? 死ぬのが怖い、大事な人が死ぬのがイヤだ、だから戦えたんだ!!」
 
「そ、そうか。 まあ、誰だって死ぬのは怖いけど……」

「ぼくだって、怖いよ。それに、ぼくは、童貞のまま死にたくない!!
「ど、童貞?……冗談言うな」
「冗談でこんなこと言えません!」
「グレミオ相手にあんなこと……」
「途中で振り落とされちゃったでしょ」
「でも、仲間には……女の子、いっぱいいただろ? 男好きな男もいただろ?」
「…………」
 カイルの瞳に、ぶわっと大粒の涙が浮かんでくる。
「泣くなよ、おい。 わかったから」

 声もなく泣くカイルに、リアムはついにほだされてしまった。
「わかったから。 おれでよかったら相手になるよ」
「ありがとうございます!! では!!」
 カイルは元気よく叫んで、性急にリアムを押し倒そうとした。
「み、道端でヤルのか?」
「だって、誰もいないし」
「それじゃまるで……せめて、ちょっとわき道に入るとか」
「あ、あちらに格好の草むらが見えます!! 行きましょう!
(もしかして……おれは道を間違ったのではないだろうか?)
 急に元気になったカイルに引っ張られながら、リアムは後悔しかけていた。


(こいつ、あんなこと言ったけど……)
 カイルにキスされながら、ぼんやりとマクドールの御曹司は思った。
(どうしてこんなにキスが上手いんだ?)
「マクドールさんの口は、甘い味がする……」

 かさかさしたくちびるを舌で湿して、カイルは何度でもキスをしてくる。
 まだ子供っぽいくちびるはやわらかいが、舌の動きは少しずつ大胆になっていく。
 頭がくらくらしてきて、リアムはカイルの肩をつかんだ。

 脇から手をさし入れて、背中に触れる手つきも、迷いがない。
 もう片方の手は、ためらいなく脚のあいだに忍びこんでいる。
 
 こいつの両手は、同時に全く違う動きをするらしい。
 さきほどリアムを羽交い締めにした、乱暴なカイルとは思えないほど、その手の動きは物柔らかだった。
 優しい中にも、リアムの感じやすいところを的確に探りあげてくるのだ。
 不覚にも声を上げてしまいそうになるのをこらえかねて、リアムは目をつぶった。

 そうか、強くさわる必要などないのだ。 今度グレミオにもそうしてみよう……。
 しばらくリアム自身を愛撫してから、カイルの手は後ろにさまよってきた。
 カイルの指先が、体の中に入るすきをうかがっている。

 どんなに興奮していても、グレミオは絶対にそういうことはしようとしない。

 それは、ぞっとするほど不快だった。 指だけなのに痛い。
 血が逆流するような不安がこみ上げてきて、リアムは思わず息を止めた。
 逃げ出したい、と思う。

(……どうしよう、グレミオ? どうしたらいい?……助けてくれよ……)
 
「そんなに不安そうな顔をしないで下さい」
 カイルの声にはっとして、リアムは懸命に気丈な声を作った。
「気にするな……ポケットの中に傷薬があるから使ってくれ」
 するとカイルは愛撫を中断して、リアムを強く抱きしめてきた。
「マクドールさん、震えてる……やっぱり怖いんですね」
「いいから、さっさとすませちまえ!」
「動物じゃないんだから、ヤルだけじゃね……」

 なんと勝手な言いぐさであろうか。

「こんな場所でやろうってんだから、充分動物的だよ!」
「ぼくはね、セックスは人間らしく、思いやりをもってするのがモットーなんです」
「そうか……思いやりか。 やっぱそれが大事だよな」
「……………………」
「おい、ちょっと待て。 今なんて言った……」
「あははははっ!」
「だ、だましたのかっ!」
「童貞では死にたくないって、あれは一般論として言っただけ。ぼくが童貞ですなんて、一度もいってませんよ?」
「!!!!!」
「ひっかかった。 マクドールさんかわいいっ」
「ひどいぞっ!! おれは、おれは……死、死ぬ思いで……!」
 鼻の奥が、つんと痛くなってくる。 涙が出そうだった。
「ありがとう、マクドールさん。 これでぼくには充分です。 あなたのこんな顔を見られただけで満足です……」
 抱きしめたまま、カイルはなだめるようにリアムの体をゆすった。
「これで、いつジョウイに殺されてもいい」
「……」
「だから、この人たちに、もとの場所に戻るように頼んでくれませんか?」
「……この人たち?」
「もう悪さはしませんから、安心してソウルイーターにお帰りくださいってね……これだけギャラリーが多いと、さすがのぼくも勃ちませんよ」

 おそるおそる見上げたリアムの目に、怒り狂ったテッドの顔が飛びこんできた。
 ぎょっとして見まわすと、父テオ、オデッサ、そして懸命に訴えるような顔をした、グレミオもいる。
 四人とも透けるような姿で、二人を囲み、覗きこんでいた。
 そして次の瞬間、かき消すように消えたのだった。

 カイルが感心したようにつぶやいた。
「きっと本拠地で、グレミオさん、心配してますよ」


 本拠地の診療所のベッドにて。

 ホウアンの手厚い看護を受け、精神的ストレスで熱がよけいに上がってしまい、実はそれどころではないグレミオなのだった。
 ホウアンは体温計を見て、首を傾げた。
「40度……」
「う〜〜〜〜」
「ど、どうしたんでしょうね。 薬が効かないなんて?」
 ホウアンは白い手をグレミオの額に乗せて、
「冷たくて気持ちいいでしょ」などと言う。

(ぼ、坊っちゃん。 早く帰ってきてくださいね……ううう……)

無責任に終わり。 ホウアン先生とグレさんの、「ラブ・クリニック」へ続く

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ぼーいずらぶ? ぼーいずさぶとどう違うんだろう?