家出娘2
夜が更けると、一面の星空だ。暗闇はあくまでも暗い。
森のほうから、突然鋭い叫びが聞こえてきた。フレアは恐ろしそうに身をすくめた。
「あの泣き声はなに?」
「カエルだよ」
「カエルがあんな声で鳴くの?」
「そう。だけど、ごく小さなカエルさ。弱いから、声で威嚇してんのかな。よくわからないけど、食えないのは確かだ。毒があるからね」
フレアはくすくす笑った。
「それは大事なことよね。食べらるか食べられないか」
海のほうで、何かがぼちゃんとはねた。フレアはびくっとした。
「あれは魚よね、きっと」
気丈そうに見えて、怖がりのところもある。やっぱり、女の子なんだ。
「腹もいっぱいになったし。起きてもしかたないし、もう寝ちゃうだろ? 明日早起きして島を見たらいい」
フレアはちょっと不安そうな顔になった。
「そういえばこの島は宿屋もないわね」
おれは、自分の粗末な小屋を指差した。
「中にハンモック吊ってあるから使っていいよ。おれが使ってるやつだけど、気にしなければ」
「き、気にはしないけど」
フレアはますます不安そうな顔になって言いよどんだ。おれは、あわてて付け加えた。
「おれは外で寝るから。焚き火の番をしとかないと、夜中にモンスターが来るかもしれない、安心してゆっくり寝なよ」
そういうと、フレアはほっとしたように「ごめんね」と言った。
どれくらい時間がたったのか。ふと、小さな水音がして目がさめた。
砂の上をぺたぺたと小さな音がする。目を凝らすと、波打ち際に、ほっそりした金髪の娘が立っているのが見えた。
髪は濡れて肩に広がり、大きな青い目には人懐こい笑みを浮かべている。
「イリス!」
両肩に垂れ下がる鰓が、飾りのように輝いている。足を覆う鱗が、青い螺鈿のように月の光を反射していた。
「リーリンか」
「焚き火が見えたから、来てみた。イリス、今日は小屋で寝ないのか?」
「ああ。お客さんだからな。ハンモックひとつだけだし」
リーリンは焚き火から少し離れて、行儀よく足をそろえて座った。
「お客さんって、女の子か?」
「そうだけど。なんでわかるんだ?」
小さな人魚は、ちょっとむくれて横を向いた。
「やっぱり、女の子なんだ! イリス、いやらしい!」
おれは困ってしまった。
「女の子って、フレアだよ。家出してるんだ。」
「家出?」
「うん、それで、ちょっと困ってるんだ。フレアは明日もここにいると思うけど。なんか二人でいると、間が持てないんだ」
「あ、そう!」
「だからさ、リーリン。悪いけど明日だけ、お姫さまの相手してくれないか?」
「イヤだ」
リーリンはぷいと横を向いた。
「リーリンのためには困ったりしないくせに。イリス、たまには、少し困ったらいい。」
小さな人魚はずいぶんな剣幕でそういうと立ち上がり、おぼつかない足取りで砂浜を歩いて、水の中に飛び込んでしまった。
彼女の青いしっぽが、月光の下できらきら輝いては、派手に水しぶきを上げている。水しぶきの高さで、彼女の怒りが見て取れようというものだ。
「……結局怒らせちまったか」
深いためいきをついた。しかし、人魚が座っていたところをふと見やると、輝く指輪が落ちていた。
「マジックキャンセラーだ。イリスにやる。フレアさまにじゃないぞ!」
人魚の少女はそう叫ぶと、再び海のそこへ消えていった。
家出娘 3
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