家出娘 4
大人しくなってしまったフレアを連れて、洞窟の奥へ奥へと進んでいった。幸い、モンスターも出てこなかった。
「こんな洞窟の中に、温泉があるなんて不思議ね」
そう言っていたフレアも、温泉に着いて、その水を一口掬って飲んでみて、納得したようだった。
「なんだか気分が良くなってきたわ」
「だろ? これにつかれば、毛虫に刺されたのもきっとよくなるよ。あ、おれは外で見張ってるから。安心して入りなよ」
「ありがとう、イリス」
「嫌じゃなかったら、温泉から出たらコレを着たらいい」
そう言って自分の上着を脱いで、岩に引っ掛けた。
フレアをそこに残して、おれは部屋に戻った。足元に彼女の服が脱ぎ捨ててある。これにも、まだ毛虫の毒が残っているはずだ。
だけどフレアは、毛虫が這ったシャツには絶対に触れないだろう。
おれはフレアの服(および、その下に隠れていたブラ。それだけ残しておくのも変だから)を海水でよく洗い、仕上げに汲み置きしておいた真水ですすいで、固く絞って日陰に干した。そういえば、スノウが仲間になったときだ。夜、自分のと一緒に スノウの服やら下着やらを洗濯していて、エレノアさんに叱られたことがあったっけ。
「あんたはもう小間使いでも、従僕でもないんだからね」
軍師は怖いので、「おれはこれが楽しくてやってるんです」とは言えなかった。
赤いブラウスを見ながら、ため息が出た。これがスノウの服だったら、どんなに幸せだったろう。
スノウとおれの洗濯物を(もちろん下着も含めて)同じロープに並べて干すのが夢だった。
別にオベルでなくてもいい。ラズリルでもよかったんだ。そうして普通に暮らしたかった。
すべて終わって自由の身になって、好きなだけスノウと居られると思ったのに、つまらない邪魔が入って、とんだ回り道だ。
まったく、ついてない。
二度目のため息をついたときだった。
場違いな厚着をした、髪の黒い男が見えた。そいつはこの世の心労を一身に背負ったような足取りで、浜をふらふらと歩いてくる。
おれとスノウの、不幸の元凶、もとい、デスモンドだった。スノウに止められなかったら、剣の錆びにしてやったはずの男だ。
ちょっと見ないうちに、デスモンドの野郎はげっそりやつれていた。目の下には隈、アゴにはみっともない無精ひげ。フレアのことが心配で、一晩で老け込んだのに違いない。
「あの、イリス様。うちのフレア様をご覧になりませんでしたでしょうか」
その悪びれない様子を見ていると、無性に腹が立ってきた。フレアがそんなに心配なら、スノウが心配だったおれの気持ちもわかりそうなものだ。
おれは洞窟のほうをアゴで指した。
「フレアなら、今風呂に入ってるよ」
「ああ、風呂に……」
デスモンドの黒っぽい目が、突如、節穴のように空ろになった。視線の先には、きれいに洗って風にひらめく洗濯物があった。
「そ、それは、フレア様のお召し物!」
「あ? ああ。いろいろあって、汚れたんで洗ったんだ。おれが」
フレアのシャツの横には、純白のブラが風に揺れていた。
「いろいろあったって、何が……あったんですか?」
「さてと。おれもフレアと一緒に一風呂浴びてこようかな」
おれはデスモンドを完全に無視して、洞窟の方角へ歩き始めた。
家出娘 5
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