片恋騎士団 2



数日後、ケネスはミドルポートに出かけたおり、珍しいものを見つけた。
道具屋のショウウィンドウに飾られた、美しい絵皿だ。
芸術に興味のある男ではないにも関わらず、見つけたとたん目が離せなくなった。

プラチナ・ブロンドの幼児が、美しい貴婦人に抱かれている。その横にはヒゲを蓄えた貴族の男が、貴婦人に寄り添っている。
まだ若いフィンガーフート伯爵だった。

ケネスは迷わず道具屋に入り、急いで尋ねた。
「表に飾ってある絵皿だが、あれは売り物なのか?」
主人は寄ってきて愛想良く答えた。
「きれいだから飾っているのですが、よければお売りしますよ」
「いくらだ」
すると道具屋は「3万ポッチ」とふっかけてきた。
「3万ポッチ! 高いな。1000ポッチくらいならと思ったが」
道具屋の主人は大げさに両手を広げて抗議してきた。
「だんな、いくらなんでも値切りすぎですよ! せいぜい2万ポッチですな。これ以上はまけられません」
ケネスは怖い顔をして見せた。
「知ってるか? あれは盗品だぞ。先日、ラズリルの旧伯爵邸から持ち去られたものだ。お膝元で盗品を売買しているなどと知れば、ラインバッハ殿はなんというかな……」
そして自信たっぷりにこう付け加えた。
「ラインバッハの若様は、おれの戦友なんだ。このことを知らせてやったほうがいいのかな?」
店主は見る見る顔色を変え、「1000ポッチでいいです」と言うと、絵皿をケネスに押し付けた。


さてケネスは、友人への贈り物を手に入れることができた上に、本来の用事もまずまず順調にこなすことができた。
今回の出張の目的は、有能な若者をラズリル海上騎士団へ斡旋してくれるよう頼むためだった。
かつて仲間であったラインバッハは、「斡旋となるとわれわれにも責任が生じる。海上騎士団はやはり危険な職場ですからね」と首を振った。
ただ、ミドルポート島内で騎士団への勧誘活動をすることは、快く了承してくれた。島民の自由意志であれば、冒険を選ぶのは自由だというわけだ。そのかわり万一命を落としても、ラインバッハ家は関知しない。

さらに収穫があった。ラインバッハの紹介で、ミドルポートの中堅幹部と親しく話すことができたことだ。
ウィレムと名乗るその男は、オベル王のような堂々たる体躯を、レース飾りのついた黒いサテンの服で包んで現れた。波打つ赤毛を一つにまとめて、背に流している。全体の雰囲気は、優雅というより、海賊の親玉のような威圧感がある。
だが話してみると、気さくな人物だということがわかった。

ケネスはまず「ラズリルとミドルポートで水難訓練をしたらどうか」と言ってみた。水難訓練は軍事訓練の婉曲的な表現だ。
すると、ウィレム卿は「それなら、オベル、ラズリル、ミドルポートの3国でやったらどうだ。もちろん海賊島も加えて海戦の訓練だ。手の内を見せ合ってれば、互いに攻めようという気にもなるまい」と、さらに大げさな話をぶち上げたのだった。

「敵であったクールーク皇国が瓦解した今、ラズリルの仮想敵は海賊? 巨大なモンスター? いやいや、安心していてはいかんぞ。例えば、ラズリルはミドルポートに突然攻められて何日持ちこたえられる? あの城塞はどれくらい強い?」
ケネスは思わずウィレムの顔を見上げた。日に焼けてなめし革のような額には、戦場で受けたらしい古傷もある。
「ミドルポートが、ラズリルを攻めて得があるんですか?」

ウィレムは、若い相手と見てなのか、教え諭すように言った。
「極端な例えで悪かったが。いいか、クールークは遠かったし、連携が悪かったので助かったようなものだ。クールークの次にヤバいのはどこか、いつも考えているべきだ。そしてオベルは案外遠い……何かあっても明日助けに来てはくれない」
ケネスは思わず、聞き返していた。
「何か情報でも?」
ウィレムの答えはこうだった。
「自分で調べるんだな。それも君の仕事だ……といいたいところだが。そうだな。ラズリルにはミドルポートの防波堤になれるくらい強くなってほしいものだ、とだけいっておこう」
幹部の意味ありげな言葉は、若いケネスの胸に重く残った。ケネスは一抹の不安を抱えて帰途に着いた。

ラズリルについたときは早朝だったが、島の周辺にひどく霧がかかっており、危険なのですぐには接岸できなかった。
やむなく小1時間待って、霧が晴れたところでやっと上陸できたのだった。



片恋騎士団 3

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