ホウアンの手記100/11/26
軍師に強姦されかけた夜から、一週間が過ぎようとしているが、いつまでも悩んでいる私ではない。
私は立ち直りの早い男なのだ。
実害はなかったのだから、ことを荒立てる気持ちもない。
「私、あやうく強姦されかけたんですけど。」なんて言っていく場所もない、ここはミューズではないのだから……。
いや、十八歳未満ならともかく、成人男性にはミューズにおいても、性的被害を訴える場所はなかったのだった。
この荒削りな同盟軍では、いうまでもない。
女性の性的被害がないのは、リーダーのカイルがそういうことに厳しいおかげなのだが、男に関してはそういうお達しはない。
あんなことが知れ渡ったら、女にあぶれた兵士に尻を狙われるのがおちだ。
ともかくシュウ軍師に隙を見せぬよう、細心かつ如才なく振舞う、これしかない。
間違っても二人きりになどならぬよう、しかし怒らせてはならない。
彼は下半身に人格のない男かもしれないが、なんといっても、ここでは一番の実力者、なのだから。
不愉快な気分といった。
一番不愉快なのは、奴に軽く見られたということではない。
好みでもない相手に迫られて、浅ましく反応してしまったという事実だ。
私はこの歳まで、不本意なセックスはしたことがない。いやな相手とは絶対にごめんだというのに。
忘れるに限る、あれは一過性の、薬に支配されてのことだ……。
それにしても、あんなことがきっかけで、勃起障害が治るとは意外だった。
ミューズが落ちたあと、全く不如意だった男性機能が、図らずも治ってしまったのだ。
いや、あやしげな薬が効いただけかもしれないが、ともかく。
数日間というもの、私は阿呆のように、十代の若者のように発情しつづけた。
パートナーがいないのなら、自分で処理すればいい、こんな簡単なことはないようなものだが、そうしようとしたとき……具体的にはイクときに、あろうことか奴の体温を、見かけより厚い胸板、息の熱さ、そして骨ばった指の感触を思い出してしまっ……!
ああ、いやだ!
思い出しても気分が悪い。
だが、思い出したくないことにかぎって、どうしても忘れられないものなのだ。
自分で慰めようとすると、「きもちイイか、先生?」と奴の声が聞こえてくるのだ。あのとき、奴がささやきつづけていた声が。
後生だから、誰かこの声を止めて欲しい……。
あまりにキライだと思うと、かえって引き寄せられることがある、という。
こいつとだけは絶対寝たくない、と思ってると、大抵、そいつと寝てしまうことになる、と不幸な性生活を語ってくれた友人がいた。
私にはそういうことは起こらないことを祈りたい。
私はこの歳まで、気に染まない相手とコトに及んだことはないといった。
義理や成り行きででセックスするなんてご免こうむる。
そしていやなことは断固拒否する。どうってことない体だけれど、それははじめの恋人の影響かもしれない。
リュウカン先生のもとで学んでいたとき、たしか十六か十七だったか、はじめての恋人ができた。七つも年上の兄弟子で、優秀な男だった。
彼はどういうわけか私を気に入り、けして無体な真似はせず、それこそ掌中の珠のように大切に扱ってくれた。
しかし私はあまりに若く、その男の思いにきちんとこたえるすべを知らなかった。つまりセックスが下手だった……一方的に奉仕されるだけの関係、だったかもしれない。
十代で兄弟子とデキたが、相互オナニーしかしなかったし、相手が郷里に帰るときに別れた。数年して、その兄弟子は親の決めた婚約者と結婚した。
……具体的に書くと、たいそうそっけない顛末ではあるが。
そのときになってやっと気づいたのだが、二人に将来がないから、兄弟子は私に無理強いしなかったのだ。
そのように大切にされた自分を、粗末にするわけにはいかない。
そのときは悲しくてたまらなかったが、年月を経て、今となってはいい思い出だ……。
ただそれ以来、必要以上に自分を大事にしすぎて、バージンの童貞のままここまで来てしまった。
兄弟子としたようなことは、他の相手と山ほどやったが、それ以上のことは誰にも許さなかったし、求めることもなかった。
あの金髪の男とあうまでは。
2へと続きます。注:オリジな中年おやじキャラが出てきます
軍師医師部屋トップ