男の子の育て方 1      
坊っちゃんは12歳、お年頃
 グレミオは、坊ちゃんの父テオに、どうしても相談しなければならないと思い詰めていた。
 その夜、坊ちゃんは、泊まりこみの耐寒訓練で留守だった。
 意を決して、グレミオはテオの書斎のドアをノックした。

「あのう、テオ様」
「ん?」
 テオはグラス片手に、書物に目を通していた。
「折り入って、ご相談したいことが」
「何だ、深刻な顔をして。赤ん坊でもできたか
 いつもながら、下手な冗談だ。だからオヤジと呼ばれるのだ。
 黙っていれば、いい男なのに。

 付き人は憮然として答えた。
「……私は男ですから。そういうことは、ソニアちゃんに聞いてあげてください」
「わかってる。冗談じゃないか、そんなに怒った顔をするな。で、何だ?」
「坊ちゃんの、ことなんですけど」
「うん?」
「……」
 やっぱり聞きにくい。
「どうした、言ってみろ」
「のぞくつもりはなかったんですが、偶然通りかかったときに見てしまったんです」
「うむ?」
「ご自分で、坊ちゃんが、あの」
「はっきり言わんか、ほれ」
 付き人は、緊張のあまり、声が裏返ってしまう。
「だから、坊ちゃんがご自分のお坊ちゃんを、その、お慰めしているところを、ですね!」
 テオはあっけにとられたようにしばらく沈黙して、それからお義理のように少し笑った。
「リアムも十二歳だからな。マスかきくらい当然だろうが」
「そ、そうですか?」
 テオは鼻で笑った。
「おれは十三歳で女がいた。次の年には男もできた。実戦で鍛えられたのさ」
 テオに相談したのは間違いだったもしれない。付き人はなんだか頭が痛くなってきた。

「……でも、自分ですると頭が悪くなるって……言いませんか?」
「自分で、なにを?」
「……だから、あの、自分で」
「お前はしないのか?」
「……テオ様」
 テオはグレミオの腕をつかんだ。変な展開になってきた。
「どうなんだ、グレミオ」
「ちょっと、はなしてください」
 グレミオがあらがって、振りほどける相手ではない。
 ますます抱え込まれる結果になってしまう。

「お前は何歳くらいから自分でやるようになった?」
「……言わなきゃいけませんか?」
「言えよ」
「十七はとうに過ぎていました」
「それで頭が悪くなったと思うか?」
「頭が悪いのは、もともとです」
「で、どんなふうにお前は自分でヤルんだ?」
「テオ様」
「ここでやってみろ」
「か、勘弁してください、テオ様」
「お前は、ここに来たときは背丈ばかり高くて、思いきり発育不良だったぞ、ここが」
 テオは付き人の下半身を探った。付き人はあわてて手を払いのけた。

「この程度まで育ったのも、おれの手入れのおかげだ」
「テオ様、酔ってるんですね?」
「だから、おれの目の前でやってみせろ」
「どーしてそうなるんです? そんな恥ずかしいこと、できませんよ」
 テオは笑い飛ばした。
「何をいまさら恥ずかしいなどと、しおらしげに」
「わかりましたよ、やりゃあいいんでしょ、やりゃあ

 ここから先は、残業手当も出ない。
 付き人は仕方なく、服の上から自分の下半身を、二三回なでた。
「はい、おしまい」
「真面目にやらんか」
「真面目にやることじゃないですよ。もう失礼します」
「ちゃんとヤルまで帰さん」
「……テオ様」
「脱げ」

 付き人はため息をついた。テオは酔っている。
 すなわち変態オヤジモードなのだ。
 変態オヤジに付き合うには、こちらも変態青年で行くしかない。
「わかりました。解説つき実演です。実際、おもしろくも何ともないと思いますけどね」

 付き人は執務机に腰をかけた。ちらっとテオを見やる。
「私のやり方は、ちょっと変わっていて、まず中指をおっ立てて、ですね」
 付き人は、テオに手の甲を見せて中指を立てた。
「ほほう、この私にファック・ユウとはいい度胸だな」
 付き人は、指の付け根から先に向かって、ぺろぺろ舐め始めた。
「うん、なかなか、いい味です」
「ふん」
 付き人は指の腹に沿って、、首を傾げながら唇を這わせた。
「いろいろ想像しながら、こんなこともします」
「何を想像するんだ?」
「今までに食ってきた、いろんな男のモノを、です」
「あばずれめ」

 それから、指先を口に含み、軽く音を立てて吸い始めた。
「指先をこんな風に吸うのも、いい感じです」
「ふん」
「この辺まで来ると、私の(不肖の息子)もなんだか元気になってきますので」
 付き人はベルトをゆるめて、ズボンを下ろした。
「なるほど、不肖の息子だがあまり元気そうではないぞ」
「最近どうも疲れ気味なんです」
 右手をUの形にして、不肖の息子、と呼んだモノを軽くはさみ、何度か往復させる。
「この調子で、そうですね、十分くらいかかるかな。 ……もういいでしょう?」
「それだけじゃないだろう?」
 テオはしつこかった。なにかいやなことでもあったのだろうか?
 それで哀れな奉公人をいたぶって、憂さ晴らしをしているのではないのか?

 奉公人グレミオはがっくり肩を落とした。
「……坊ちゃんの相談をしたかっただけなのに」
「やたらと女をはらませるな、病気に気をつけろ、とだけ言っておけ」
「……そんな無茶な」
 付き人は頭を抱えた。
「で、お前はそれからどうヤルんだ?」
 なんてしつこいオヤジなんだ。
 それでも、グレミオはテオが好きなのだから、始末に負えない。
 奉公人は左手をひらひらさせて見せた。
「お察しのとおりです。ああっ、いけない私の手は、勝手に後ろに回ってしまう」
「ほらほら、やっぱり」
「こんな風に、指をお尻の間に……」
 付き人はちょっと顔をしかめた。
「……ちょっと痛いけど、それなりにいい感じです。でも疲れるんで、たいてい途中でやめますけど」
「じゃ、おじさんが手伝ってやろう、ボウヤ」
 何かいい返すまもなく、付き人は机から引き摺り下ろされた。


 付き人は執務机に押し付けられ、後ろからテオに捕まえられた。
 テオは一言の断りもなく、勝手知ったるグレミオの体内に侵入してきた。
「自分でやるのとどう違う?」
「……ソニアちゃんに言いつけちゃおうかな」
「かえってぶった斬られるぞ、お前」
 テオがふいに激しく動いたので、グレミオはあやうく叫びそうになったが必死でこらえた。
「テオ様、ちょっと痛いです、テオ様。もうすこし、ゆっくり」
「どうなんだ?」
「あ、テオ様……」
 テオの熱い息が首に落ちてくる。彼の指が髪をくしゃくしゃにする。
 付き人はぼうっとなった。
 机にへばりついたまま、立っていられなくなりそうだった。
「……くらべものに、……なりません、テオさま……」
「当然だ」


 そのとき、どこかで呼ぶ声がすると思った。 遠のきかけた意識が、瞬時に元に戻った。
「坊ちゃんが帰ってきました」
「おれには聞こえなかったぞ」
「坊ちゃん、ですよ。どうしたんだろう? 行ってみます」
 付き人は額の汗をぬぐいながらつぶやいた。

「空耳だよ」
「グレミオにはわかるんです。お願いだから、はなしてください」
「だめだ、いいところなんだから」
「お願いです、テオ様!」
「だめだ!!」
 テオはいっそう激しく体を動かした。付き人はもう、生きた心地もしない。
 絶対坊ちゃんだ。万一ここに来たら?
「おーい、グレミオ。いないのか?」
 今度こそ坊ちゃんの声が、はっきりと聞こえた。
「ただいまあ、父さん」
 足音が近づいてくる。付き人は必死にもがいて、テオから逃れようとした。
 さすがにテオも慌てて、付き人から体を離した。
 付き人はとっさに、執務机の中に隠れた。
 テオが身じまいしていすに座ると同時に、ノックの音がして、リアム坊ちゃんが顔をのぞかせた。

「父さん? いたの?」
「リアム、お帰り。どうした? 今夜は学問所で泊まるんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、ひとり具合が悪くなってさ、家まで送ってきたんだ。またすぐに戻るよ」
「そうか。どうしたんだろうな?」
「持病の胃痛だって」
「そうか」
「グレミオは? 探したんだけどいないんだよ」
「出かけたようだが」
「……父さん、どうしたの? 顔が赤いよ」
「あ、ちょっと飲んでいただけだ。何でもない」
「なら、いいんだ。じゃ、また戻るよ。外に友達も待ってるし」
「ああ、気をつけてな」

 リアム坊ちゃんが玄関を閉めて出ていった。
 子供たちの、にぎやかな笑い声が遠ざかっていく。
 付き人は息も絶え絶えに、髪振り乱した哀れな姿で、机の下から這い出した。

「はあ、テオ様。私はもう心臓が止まるかと思いました」
「……そんなによかったか?」
 付き人はテオのたわごとを思いきり無視した。
「坊ちゃんに気づかれなくてよかった、本当に……じゃ、私はこれで」
「ちょっと待った」
 付き人は二の腕をつかまれて、引き戻された。
「じゃ、私はこれで、じゃあないだろ、グレミオ。まだいいじゃないか」
 テオがブランデーのいい匂いのする顔を近づけてきた。
 その前髪には、ちらちらと白いものが見える。付き人はふいに胸が締めつけられた。

 自分の前では馬鹿ばっかり言っているけど、お城では苦労が絶えないのだろう。
「テオ様、ちょっと白髪がでてきましたね……髪が黒いから目立つんですね」
「おい、気にしていることを」
「もう立派な中年ですね、テオ様。もうすぐお腹も出てきますよ」
「中年といったな」
 それから、奉公人はテオに頬を寄せてささやいた。
「帝都で一番かっこいい、が付きますけどね」
 
END
困った親たちだ。
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