ロッカクのお勧め料理      H.12.02.26
 深い森に囲まれた、隠れ里に雨が降る。

 ここは忍者の里ロッカク、ハンゾウの屋敷の、薄暗い離れ。

 リアム・マクドールは年長者の威厳を持って、新同盟軍リーダーをたしなめた。
「やめろよ、カイル」
 カイルは、薄く笑って首を振る。
「ぼくを止めようたってだめですよ。 この感触……くせになりそう」
「へんなやつ」
「汁気たっぷり、こんなにぼくの指にしっとりと……」
「悪ふざけは、そのへんで、やめとけ」
「ほら、もう指が根元までぶっすりと……」
「いいかげんに、やめろ。 裂けたらどうするんだ?」

 カイルはくすっと笑った。
「そうなったら困りますね。 グレミオさんが怒るかな。……ホンモノ、入れてみようかな」
「よせったら! 使い物にならなくなるじゃないか」
「マクドールさん、困った顔してる。 もっと困らせてやりたい…………」


「まさか、いつもこんにゃくでマスかいてるなんて冗談言わないよな?」
「んなわけないでしょう。しゃれです、しゃれ」

あっ、これ! ちょっと目を放したすきに!!
 二人の頭上から、すこし高めの声が飛んできた。
 グレミオがあきれ果てて、カイルを見下ろしていた。
 両手には、鴨、ねぎなどの食材を抱えている。
「食べ物で遊ぶと、ばちが当るんですよ、カイル君」
 グレミオは厳しく言うと、カイルの手から山芋こんにゃくをひったくった。
「……あ〜あ。穴あけちゃって。 田楽にするつもりだったのに。しかたない、おなべに入れましょうか」

 グレッグミンスターからバナーへ抜ける山道は、険しい。
 途中雨に降られて、逃げ込んだロッカクの里だったが、ここには宿屋もない。
 泊めてもらうとすると、ハンゾウの屋敷の離れしかない。
 とにかく離れの土間で、食事の仕度をはじめたのだった。


 味噌仕立ての鴨なべと、酒で体を温め、三人は早めに床をとった。
 お酒のおかげか、グレミオはすぐに眠りに入った。

 どれくらい、眠っていただろうか。
 ふと足元に冷気を感じて、グレミオは体を縮めた。

 しなやかな体が、足元から這い登ってくる。
 ふくらはぎと、ひざに優しいくちびるを感じる。
 それからゆっくりと、大腿を上に向かって、体重が移動をはじめる。
 かけ布団がわずかに動いて、暖かい空気が顔にかかってきた。

 手を伸ばすと、布に包まれた形のよい頭に触れる。

「坊っちゃん……」
 ふと布団の中から手が伸びてきて、グレミオの口に触れた。
 静かに、というように口を縦に封ずる。
 真っ暗で、見えてはいないだろうが、グレミオはうなずいた。

 坊っちゃんもこらえ性がない。
 となりにカイルも寝ているのに、我慢ができなくなったのだろうか。
 でもずいぶん長いこと、離れていたのだから、無理もない。

(坊っちゃん、かわいい……)
 思わず顔がゆるんでしまう。
 布団といっしょに貸してもらったゆかたは、寝ているうちに足がはだけていた。

 袖は通したまま、帯を解くと、すぐに裸同然の状態になる。
 リアムはどうやら、すでに裸になっているらしい。
 服を着ていたときは気づかなかったが、少しふっくらしたのだろうか。

(坊っちゃん……)
 なめらかな手足が、グレミオの四肢に絡みつく。
 声が漏れそうな口をおさえて、いけない付き人は脚を少し開いた。
 熱い舌が「付き人の秘密の場所」にたどり着き、音も立てず吸い始めた。

 何かを着たままリアムと抱き合うのは初めてだ。
 誰かがいるところでこんなことをするのも、初めてだった。
(カイル君が起きたら恥ずかしいじゃないですか……)
 それなのに、その恥ずかしさを想像するだけで、恥ずかしいところが、もっと恥ずかしい状態になっていくのだった。
 かすかに布団が動く気配が、よけいにその恥ずかしい状態を高めていく。

(坊っちゃん……もう我慢できません……お願い……)
 心の中でささやいて、グレミオは大胆に膝を立てた。
 しなやかな体はすばやく移動して、グレミオの脚を抱え込んだ。
 非常に固くなったものが、焦らすようにグレミオのいけないところに触れる。
「あ……あっ……」
 思わずグレミオは小さく声を上げて、布団の奥に潜む、リアムの頭をつかんだ……

「え?」
 勘違いだったのだろうか。
 頭巾に包まれた頭に、固いものを巻いているような……。
 もう一度、落ち着いて触れてみる。
 なめらかな額には、わっかのようなものがぐるりと……。

 驚いて頭巾をひったくってみると、坊っちゃんのものとはどうも感触が違う。
 おそるおそる、グレミオは相手の脚のあいだに手を伸ばした。
 肩幅も同じくらい、体格も似ているが、その部分のカタチが違うような……。

「ひ、ひ、ひえええっ」
「しっ、静かに!」
(そ、その声は、カイル君〜〜〜)
(今ごろ気がついたの? 鈍いなあ)
 グレミオは必死にカイルをはねのけようとした。
 しかし少年は、暴れ馬を乗りこなすカウボーイのように、まったく動じないのだった。

どきなさいっ、このエロがきっ
(何をいまさら。 さっきまで腰振ってたくせにっ)
(放してくださいって)
(……え、いいの? もうこんなに勃ってるのに……)
(ほ、ほっといてくださ……やめなさい!)
(もう遅いです)
(!!!!)
ぼくのトンファーは、もう止められないよ……
(や、やめんかいっ。 き〜〜っ)

 そのとき、さっと雨戸が開けられ、月明かりが部屋にとびこんできた。
「楽しそうだな、二人とも」
 冷たい声が頭上から響く。
 恐る恐る見上げると、ゆかたを着た坊っちゃんが、見下ろしていた。
 その手には、天牙棍。
 その鋭い視線の先には、半裸で抱き合う、グレミオとカイルがいるはずだった。

 カイルが舌打ちをする。
「ちっ、邪魔が入ったか。いいところだったのに」
「黙れ、間男」
「坊っちゃん、助けてください!」
「グレミオ。 楽しむのはいいけれど、おれのいないところでしてくれ」
「リアムさまっ!! ちがうんですっ」
「じゃましたな。 ちょっと散歩してくるから、ごゆっくり!」
 ぷいと坊っちゃんは顔をそむけて、部屋を出ていってしまった。

「坊っちゃん……うう……(涙)」
じゃあ、そうさせてもら…………」
 カイルが先ほどの続きをはじめようと、あやしい動きをはじめた瞬間、
「えいっ!!!」
 グレミオはカイルの金的を蹴り上げたのだった。
「ううっ!!!」
 苦痛に声も上げられず、のたうち回る少年を残し、付き人は部屋を飛び出した。
 

 外に出るまえに、グレミオは、はだけた前を合わせた。
 それから帯を巻きなおす。

 月が照らす裏庭に、坊っちゃんは天牙棍をもって立っていた。
 グレミオが近づくと、ちらっと見たが、すぐにそっぽを向いてしまう。

「坊っちゃん……」
「話しかけるな!!」
「すみません」
 グレミオは恥じ入って黙りこくった。

 しばらく沈黙が続いた。 ふいに、たまりかねたようにリアムが怒鳴った。
「黙ってないで何とか言ったらどうなんだよ!!」
ナント
「何だと?」
「だから、ナントカ。 今、ナントカ言えっておっしゃったでしょ?」
「……あいかわらず、おっさんぽい冗談が好きだな」
「すみません、おっさんですから。 私は」
「浮気者!」
「はい。 でも、ちゃんと自力で解決しましたよ」
「解決?」
「カイル君の急所を蹴り上げてやりました」
「ひどいやつ」
「週一度でも、道場に通ったかいがありましたよ」
 リアムはじっとグレミオを見つめていた。

 リアムはふと視線を外して、薪小屋に顔を向けた。
「扉が開いてるな」
「開いてますね」
「…………何を考えてる?」
「坊っちゃんと同じことを考えてます」
「…………やらしいやつ!」
「やらしいんです、私は」
 そして二人は、薪小屋に忍び込んだ。


 月光の差しこむ薪小屋の土間で、息を殺して恋人たちは抱き合う。
 ことばのかわりに、体で交わす会話で、わだかまりがとけていく。
 小さな疑いも怒りも、肌の熱さと、吐息の熱さが蒸発させてしまう。
 体は嘘をつけないから。

(おお、すっげえ)
 このさまを、先ほどの金的ショックから立ち直ったカイルが、すっかり感心した面持ちで覗いていた。
 二人はそれに気づいているのか、いないのか、狂おしく求めあい続けている。
 彼らの体からは、蒸気が立ち上っている。
 吐く息が白いのか、それとも二人の肌から放たれる蒸気なのか。


「あ、あ、あああっ……坊っちゃん、もっと奥まではいっ……んんっ!」
「えい、えい、えいっ! これでもかっ」
「坊っちゃん、そ、こ……すご……いっ!! はああっ!」
「グレミ……すごく……すごくいいぞ……」
「ぼ、坊っちゃん、ああっ、坊っちゃん!……」
「だめだっ、泣いてもまだ許さないっ!! 根性で持ちこたえるんだっっ!!」

(……よし。 今度ヤルときに使わせてもらおう。 このフレーズ)
 転んでもただでは起きない、カイル少年はにやりと笑った。

 親友ジョウイの待つ、約束の地は、はるかに遠い。

END そして三人は本拠地経由、約束の場所へ。

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ロッカクのお勧め料理。 やはり山の幸を使った料理でしょうか。
寒いときは、やはりなべ料理と熱燗、お口直しは冷たいみかん。
さぶを読んだあとのお口直しは、やはり「甘々」でしょうな。