波類間ユンタ  

12
小嶺の語る。


赤い元結で高くまとめられた髪が、ゆっくりと壊れ、畳の上に柔らかく広がる。
私のしていることは、不義理の極みだ。裾を割って、大腿に触れてみた、迷いつつ手を上へと滑らせるが、手の甲に下帯が当たったときは、さすがに狼狽したものだった。
里之子は「どうした、カマデー」といいながら私の手を取り、肌帯に押し付けたのである。
柔らかな布が、はっきりと高ぶりを指に伝えてくる。もちろん、既にかなり濡れているのである。それは私がした仕事だ。
私は嬉しかった。天にも昇る心地がした。
(あの冷たそうな与人が、私のすることで佳い心地になっておられる)
布は、細い紐で腰にきつく結ばれている。私は丁重に紐を解いた。他の男の高ぶりは始めて目にしたが、恐ろしさも嫌悪感もなかった。
白皙の与人が、顔に似合わぬたくましいものをお持ちであることも、布の上から触れて既に知っていたので取り乱しはすまい。最善と思う、自分が最も望むことをしたのである。
男と睦みあう技など持たない。
体を重ねて動いて、里之子のものに私のを重ねて、それだけでいい。不慣れなことをして里之子を傷つけるくらいなら、抱き合うだけで幸せである。事実、それだけで私は気を遣りかけていた。

「カマデー」
長い指が、里之子と私の腹の間に差し入れられた。
誘うように私の茂みをなぞり、一物を手で確かめ、「猛々しい。見たことも無い寸法だ。いや、若いからこうなのかな」と独り言を言われた。
「だが、成せば何事もならぬことは無い、成さぬから成らぬのだ。どれ、やってみるか」
これも独り言なのだろうか。

それから里之子は、呆然とする私の手を取り、自らの尻に導いて、至って冷静に言われた。
「少しずつ指で慣らしてくれ。そうすれば入るから」

嗚呼。里之子よ、哀れで愛しい里之子よ!
あなたを「慣らして」くれた相手とは誰だ。
母は農婦であっても、父は富貴な家の人だ。嗣子に望まれて首里に迎えられ、楽童子に抜擢もされ、光の中を歩いてきたはずではないか。
それなのに。苦界を歩いてきたもののような言葉だった。
誰と私を比べているのだ。その若さで、いったい何人、男を知っている?

頭の中は真っ白だった。
突然、激しい怒りが湧いてきた。里之子にではなく、相手の男たちにである。どうせ碌なものではない。
そいつらを里之子の記憶から追い出すのだ。
「どうした? カマデー」
怪訝そうな声に「御免!」と答えて、里之子の脚を抱えあげ、無理やりに体を開かせた。
「待て、カマデー。だから慣らせというのに」
狼狽した声。いや、聞きはしないのである。もはや手篭めである。
「あっ、カマデ……ぐっ……あがっ!」
口から漏れるのは、ただ押し殺した苦痛の声だ。その声を手でふさぎ、体を突き動かそうとした。激しく動けるはずもないが、無理無体でも動くのだ!
里之子の肉の中は熱く、行き止まりがなく、私を食い締めつつ、りきんで追い出そうとなさる。

あっという間に気を遣りそうになるのを、必死の力でこらえた。
里之子は取り乱し、「苦しい、腹が裂ける。もう少し優しく出来ないか」と口走る。
「こんな扱いは初めてか、拙者、乱暴ものゆえ!」
「カマデー、この痴れ者(ふりむん)()が、何を怒っているのだ」
罵倒を唇で塞ぎ、激しく揺さぶると、里前は大きく震えて、気を遣ってしまった。そして、仕返しのように私を締め付けてくる。
なんと酷い有様だ。かかる無茶な交わりで、気を遣ってしまう里前が、愛しくてならぬ。
だがまだ許さぬ。
「あなたのお相手だった方々と、拙者とどちらが好きか、里前」
「お前だ、お前がいいに決まっている」
そうして私の腹に、高ぶったものをつぶされながら、「ああ、良い。許してとらせ」と涙を零された。許しを乞うべきは私のほうなのに。
それでも、里之子は最後まで拒まない。時折動きを止めると、さらなる責め苦をせがむように、腰を掴んでくるのである。そのようにして3度達した後、里之子はすとんと眠られた。
さすがにそれ以上の狼藉は出来ず、一番座の奥座まで抱えていって、布団に寝かして、私も里之子の横に休ませて貰った。


丑三つ時であったろうか。ふと目覚めると、里之子の胸の上に、蛍の光が見えた。
既に6月も終わりで、珍しいことだ。季節におくれた蛍だろうか。
私は夢うつつで、「外へ行って遊べ、蛍。ここにお前の友は居ない」と声を掛けた。外へ行くには戸を開けてやらねばならぬ。だが、起き上がるのも億劫だった。
蛍は相変わらず、静かに光り続ける。淡い光が、里之子の寝顔を浮かび上がらせていた。その顔を見ると、何か温かいものが胸に溢れてくる。
まつげは長く、口元はあどけない。私は本当に見とれたが、蛍はあまりに明るかった。これでは眠りを妨げてしまう。
そっと虫を捕まえようとすると、蛍はふと光を消して、消えてしまった。


僅かにまどろんだと思うと、もう夜明け前だった。
障子が白みかけている。私は里之子を起こし、「お髪を結わせてください」と申し出た。
里之子はゆっくりと起き上がり、「久しぶりに夢を見ず、よく眠れた」と仰った。
私は(どこか痛くないですか)という問いを引っ込めた。あのように激しく交わったのだから、身の内に苦痛がないわけがない。しかし里之子が「よく眠れた」とやせ我慢をされる以上、私にはそれ以上何もいえない。
起き上がった里之子の長い髪を、用心深く櫛で解かした。元結で縛ってから巻きつけて髷にし、前と後ろから簪で止める。手馴れた仕事である。
手鏡を覗き、出来上がった髪をそっと撫でた里之子は、「上手だ。髪結いにでもなれるな」と言われた。
私は「父を看病しているときに、よく結っていたのです」と答えて、井戸へと向かった。
湯を沸かしている時間はない。盥に水を汲んで奥座に戻り、冷たい水で手ぬぐいを絞る。それから自分が散々に汚した肌を、そっと清拭していった。身の汚れは拭き取れても、付けた痣は何日も肌に残る。
「申し訳……ありません」
もはや謝るしかない。
「何を誤ることがある?」
「このような無理強いを」
不意打ちに顔を挟まれて、深い口付けを与えられた。収まっていた熱が一瞬にして蘇る。
清めるための手ぬぐいも取り落とし、気がついたら膝で裾を割られ、それだけではない。喉に冷たい硬いものが当てられていた。
「私が嫌だと思ったら、」
懐剣であった。昨夜、里之子が胸に抱いて横たわっていたものであろう。
「これを使ってでも逃れていたさ」

里之子は私の首筋を刃で愛撫しながら、「溺れるものは藁をも縋る、昨夜お前が私を抱いたのもそれと同じだ。恋ではない」と冷たいことも言われるのだ。
「まあ、溺れ死にかけているのはお互い様だからな。傷の舐めあいだ。慰めあうのも悪くなかろう?」
朝飯に私の舌を所望するというほどに、執拗に口を吸う。昨夜の仕返しのように、手で私のものを掴んで、悪戯をなさる。その間にも障子はますます明るくなっていく。
「もうすぐ夜が明けます、どうかもう、」
手をそっと押さえたが、完全に動きを封じる気にもなれなかった。傷の舐めあいというのは、なんと快美なのだろう?
里之子は楽しそうに、夜明けを称えるオモロを口ずさみんでおられた。
「明けもどろの花の 咲い渡り……あれよ、見れや。清らやよ」

ようやく与人の着付をさせていただいたとき、既に日は高く上がっていた。
結んだ帯に扇を挿すと、端正な与人の出来上がりだ。里之子は剣を手に持って、弄んでおられた。黒塗りで螺鈿細工、七色の房飾りのついた、美しい懐剣である。
「それはもしや清国のお使いから下賜されたのですか?」
「いや、それは小太郎が」
里之子は少しためらったが、こう付け加えられた。
「薩摩在番仮屋に勤めていた坂口小太郎どのの贈り物だ。……和歌の師で、小太刀の手ほどきしていただいた。不幸にも亡くなったので、これはいわば形見だ」
しばらく苦しい沈黙があり、それに耐えられなくなって、「いわゆるあなたの兄者か」と言った。
里之子は懐剣をしまいこみながら、「小太郎は大きな存在だったが、念兄であったことは一度もなかった」と言われたのである。
私は寝過ごした間男よろしく、与人の屋敷の一番裏座をそっと抜け出した。

世界が変わったと気づいたのは、歩き始めて直ぐであった。垣根に纏わりつくアカバナーは、あの燃える赤を取り戻していた。それはまさに、私が里之子の肌につけた傷の色。
松の葉も阿壇も、もはや灰色ではない。芭蕉の葉も瑞々しい緑だ。
世界は再び、多くの色に満ちていた。
私は青い空を見上げた。東の空に、明けもどろの花と歌われた太陽(てぃだ)()が、燦然と照り輝いていた。

波類間ユンタ 13
若者小説
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2007/6/13