| 波類間ユンタ |
21
小嶺の語る。
転がり込んだ寺の小さな部屋で、里之子は昏々と眠り続けた。次の朝が来ても、日が暮れてもまだ目覚めなかった。額に汗を浮かべ、熱にうなされている。
このまま、二度と目覚めないのではないか。
不安を振り払うようにして看病を続けた。熱のある額を、井戸水で冷やし続けた。この寺の迷惑を思いやる余裕もなかった。番犬のように寝ずの番をして二日。一瞬、とろとろと居眠っていたらしい。
里之子のささやくような声に、飛び起きた。
「小太郎」
里之子が布団の上で半身を起こし、暗い壁を見つめている。
ぞっとした。熱が頭に回ったのか、七つの魂を道端に全部落してきたか、それとも、死んだ念兄が迎えに来たか。
「思左!! 死人に耳を貸すな!」
そう叫び、里之子を抱きしめた。しばらくして、里之子がくぐもった声でうめいた。
「……苦しいぞ、カマデー……それに、汗臭い……」
うれしさに涙が零れそうだった。
「すみません、つい。いま白湯を頂いてきます」
本当に、そのときのうれしさというものは、まったく例えようも無かった。波類間のものなら、「
襖を開けたときに、「ひぃっ」と叫ぶ声がした。目の下に、小柄な僧が震えている。
「あの、お客人です。薩摩のお方で。ご案内しても?」
その客人たちは、もう目の前に居たのである。頭職の別宅で会った薩摩の医者と、それから、見たことも無い大和の侍である。
「玄庵どの。何の御用でしょうか」
医師は微笑み、包みを持ち上げて見せた。
「この品を届けに参った。中身は無事でしたよ。よかったですな、割れていたりしたら、切腹ものだ」
在番奉行の引き出物だった。すっかり忘れていた。忘れていたというより、頭になかったのである。私は歯をむき出して笑ってやった。
「それはご親切痛み入ります」
だが薩摩医者は、役に立たない焼き物を持ってきてくれただけではなかった。
「もうひとつ。こちらのお若いかたが、与那城どのとお話したいというので、お連れ申した」
玄庵の連れは、確かに若者であった。年の頃は里之子と同じくらい、白皙の、内気そうな面立ちの若者であった。
話をしたい、といったわりには、若者は何も言わない。ただ里之子を見つめるばかりだ。里之子は戸惑ったように、若者の視線に耐え、ただ黙っていた。
医師が咳払いをして口火を切った。
「昨夜、あなたたちは薩摩の侍相手に大暴れをし、大やけどを負わせた」
「薩摩の男どもは見かけたが、侍などではありませんでした」
「ほう」
「その輩ども、われらを刀で脅して、与那城与人を辱めようとした。獣以下のならず者だ」
医師は腕組みをした。
「だから、返り討ちにしたというわけか?」
「われらは簪以外、身に寸鉄も帯びてはおりません。丸腰でどうやって返り討ちにできるんですか。気に入らないのなら、
一気に言い切ると口をつぐみ、相手の反応を待った。
玄庵は「少しは学んだようだな」と笑った。ぞっとするような笑みであった。
「例の中間、命には別状ない。今回の件は、使用人の不始末だ。そちらが黙っていてくれれば、坂口の家も訴え出るようなことはない。与那城どのと亡き坂口小太郎との縁に免じてどうかこの件は、内密に願いたい」
そういうと、傍らの若侍を見た。
「それでいいですかな、坂口どの」
するとその若侍は、何事か、私の知らぬヤマトの言葉でさえずったのである。
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2007/10/24