| 波類間ユンタ |
24
小嶺の語る。
翌朝はやく、そっと宿を出た。
ならず者に襲われた場所を探すのである。
その場所は直ぐにわかった。提灯の燃え残りや、脱ぎ捨てられた草鞋などが放置され、土も、黒く焦げていたからだ。私はその前で座り込み、与人の着物を膝の上に乗せた。
頭を垂れる。
「
遠い昔、母が私にしてくれたのと同じ、唱え。
唱え終わると小石を三個拾い、宿に戻り、与人を起こした。
「具合が悪いのは、魂を落されているからですぞ」
与人は、気だるそうに言い返してくる。
「お前が昨夜、無体をしたから……」
私は構わず、与人の肩に黒朝を羽織らせ、小石を与人の胸に押し付けた。
「男の拝みが効くか」
「拝む前に疑うものではありません! 効果が減じます。拙者を信じてください」
そういうと、精魂を込めて拝みに拝んだ。
霊力もない私だが、まごころは通じるものだ。
与人は、「胸が軽くなった。お前のおかげだ」といったのである。
さらに一日、風も適い、帰島する準備が整った。ようやく波類間に戻るのである。
加子が、とも綱を解いて岸壁を蹴る。船が船着場を離れて行く。
与人は目を伏せて、岸を眺めていた。肩が擦れ合うほど、着物に焚き染めた、甘い香りがわかるほど近くにある。与人は私を避けなかった。
「今度来るときは、御用米、御用布を携えて参りましょう。布は少々遅れておりますが、脅し上げてでも織らせねばなりません。幸い、作物の出来は順調です」
お役目にかこつけて、何かと話しかける。
親しさが閨だけのものとは思いたくなかった。
「本当に、豊作であればいい」
与人はぽつりと呟いた。
「食べ物が余るほどあって、村のものが……生きていてよかったと思えるように」
その村人の中には、子供だった与人を捉えて、海に流そうとしたものもいるだろうに。その中には、今も与人を殺めようとしているものすら居る。
「ジラーですが、なるべく早く捕らえておきましょう。泳がせて証拠を集めている間に、また何かするかも知れません」
「報告せず、穏便に済ませられないだろうか」
これには、私も驚いた。
「あなたに生き邪魔を送ったかもしれない輩を、許すと! いいですか、あれは死罪にも値する……」
「妹のウサーが生きている、しかも石垣島で果報な暮らしをしていると知れば、ジラーも心が穏やかになるだろう」
与人の指が、私の手のひらに触れ、撫でる。思わず応じてしまいそうになるが、もちろんジラーのしたことを見過ごすことはできない。
生き邪魔を送るのは大罪。庇っても罪になる。
与人は甘い。甘すぎる。
「ジラーを庇うなど、ハブを胸元に入れるより危険です」
与人は私の手を握り締める。抗しがたい目で、私をじっと見つめる。嗚呼、私などに色仕掛けをしてどうするのだ。
「ウサーを、悲しませたくない」
私は唇をかみ締めた。
(年増の妾のほうが、私より大事か?)
その場で甲板に押し倒して、わが思いのほどを、思い知らせてやりたい。
「いいでしょう。ただし、これからは私の宿に住んでいただきます。狭くても我慢してください。そして、ジラーには油断なさいませんよう」
「わかった」
与人は、ほっとしたように笑顔になる。
まるで蜘蛛の巣に引き寄せられる、
波類間ユンタ 25
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2007/12/10