波類間ユンタ  

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与人の語る。


お懐かしき母上様。

本日、我が生まれ島へ戻りました。
波類間は美しい場所です。
ひとが苦痛に満ちた生活をしていようとも、誰も私を覚えていなくとも、この世で一番美しく有難い場所です。
群れ星が落ちそうなほど、手でつかめそうです。
首里とはまた違う星空。
清らです。
ここに逃がして下さった主上のお情けを、ありがたく思います。
たとえ母上がもうこの世に居なくとも、帰れたのは無上の喜びです。もう何も恐れません。ここに帰るために私は生きてきました。もはや生きてこの島を出るようとは思いません。しばし与えられた時を、わが生まれ島に捧げたいと思います。

どうか安んじて眠られませ。折を見て母上の墓所を作ります。長く墓守をすることは出来ないかもしれませんが、出来る限りのことは致します。
あなたはいずこにお眠りなのでしょうか。夢になと教えてくださませ。

手習いを始めた7つの頃から、渡せない手紙を書き続け、ついには箱に一杯となりました。
母上にお見せすることは、ついにできなくなりました。
この墨が乾いたら、他の手紙と一緒に庭で燃やし、あなたへの送り火と致します。

思左


小嶺の語る

甲高い拍子木の音に、目が覚めた。
カンカンと拍子木を叩くのは、耕作筆者だろう。百姓らをたたき起こすためだが、ついでに私もたたき起こしてくれる。
二日酔いだが起きねばならぬ。鏡も見ずにカタカシラを結いなおし、水を飲んだなり、汚い草履を突っかけて外に出た。

村の中の畑では、すでに百姓らが雑草を引いている。彼らが勤勉に働いているのを監督しなければならない。私はただ野良犬のように道を歩く。役人という身分のおかげか、親からもらった怖いツラのおかげか、睨みは効いているようだ、と自分ではと思っていた。

その日はいつもと違っていた。おなごらが袖を引き合い、忍び笑いをしている。私が睨むと、慌てて笑うのをやめた。だが通り過ぎるとまた、くすくすと笑うのだ。居心地が悪い。

ジラーの家の畑までくると、中年の農婦が飛び出してきた。必死な顔をして私の足にしがみ付く。
「目差主、私の娘は飯炊き、繕い物、機を織ることも出来ます。家のことはちゃんとしつけています。器量も悪くありません、どうか末永く可愛がってやってください」
私はしばらく呆然と突っ立っていた。何が起こったのだろうか。
女は私に構わず叫んだ。
「これ、イシ。こっちへおいで!」
すると小娘が走ってきて、農婦の影に隠れるようにして座った。見覚えのある娘だ。
「お役人様、イシは生娘だったのですよ。責任取って嫁にしてくださいませ」
私は頭を掻き毟った。昨日、水浴びの最中に飛び込んできた娘ではないか。一物を見られただけで嫁にせよというのか。
「そんな、責任取れといっても……」
「き、昨日、目差主はうちの娘に、お手を付けなさったではないですか」
二日酔いが辛いというのに、何故こんな目に会うのだ。恐れられているというのは大間違い、完全に舐められているではないか。
「おい、そこの小娘。嘘ばかり吹聴しおって、許さんぞ!」
そういって凄むと、娘は泣きそうな顔になり、母親の袖を引いた。
「母ちゃん、やっぱり嫌。同じことなら、与人様のほうがいい。金持ちそうだし、キレイだし」
「同じこと、だと?」

すると母親は「この阿呆」と娘を叱った。それでやっと気づいた。つまり母親が娘を焚き付けているのだ。口減らしをしたいのか。
「失せろ、この! 行くなら勝手に与人のところでも行きやがれ!!」
そう怒鳴りつけると、この母と子は慌てて逃げていった。その後姿を見ると、疲れが込み上げてきた。もしかしたら私は、かなり舐められているのか。

能天気な耕作筆者と、睨みの効かなくなった私と、キレイなだけの与人と……。これで税を納めてもらえるのか?

暗澹たる気持ちになる。だが私は気を取り直して、織女たちの働く織小屋へと足を向けた。
波類間ユンタ8
若者小説
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2007/04/18(Wed)