手をつないで眠ろう 1 00/12/25
金曜日、酔った勢いで、坂東さんはおれの家に「お泊り」してしまった。
二人で眠り込んで、目が覚めたらなんと11時になっていた。 それから、おれの横で、丸くなって寝てる坂東さんの可愛い寝顔をたっぷり楽しんだ。
上半身は裸だ。 ゆうべめちゃくちゃしたあと、二人とも疲れて、裸のまま眠ってしまったんだ。
……とてもいい朝だ。
あったかいベッドも、坂東さんの体温も恋しかったけどおれは起きて、朝飯を作り始めた。
目玉焼きを焼いて、コーヒーを淹れるだけだったけど。
それから坂東さんの方にかがんで、おれはささやいた。
「ご飯にしますか、お風呂にしますか。 それとも、おれ?」
ぱち、と坂東さんは目を開け、びっくりして飛び起きた。 寝ぼけ顔も、寝癖も可愛い。
「な、何時だ」
「11時ですよ、朝の」
「学校が!! 学校の時間に遅れちまった!」
珍しく素っ頓狂な反応で、おれは吹き出した。
「今日は祝日ですよ、天皇誕生日」
「あ……? ああ、そうだったっけ」
「夢でも見たんでしょ?」
「いや……おれの弟の、その……学校のな……」
知らなかった。 坂東さんに弟がいたのか。
「坂東さんの弟って、いくつなんですか」
「いま16歳。 写真見る?」
「見たい」
大切そうに、手帳から取り出した写真を見て、おれは言葉に詰まった。
車椅子に座って、にこにこ笑っている、男の子の写真だ。 横から坂東さんが身体を支えている。 自分で座っていることができないのか。
「裕輔っていうんだ。 父親が違うからあんまり似てないだろうけど」
「毎日送ってるんですか……」
「ああ、お迎えは母親がしてるけど、朝は通り道だし、おれが送るんだ」
そうだったのか。
だからあまりいい顔をされない、マイカー通勤をしてたんだ。
「遠いなら独身寮に入れっていわれたんだけど、支店長に頼んで自宅通勤になったんだ」
「そうだったんですか」
「はじめて喋ったのは、8歳のときだ。兄ちゃん、って呼んでくれたときはうれしかったよ」
「…………」
「最近はたまには憎まれ口もきく。でも平良には何言ってるのかわかんないかもな。でも、憎まれ口を利けるほど、ものがいえるようになったんだから」
そのときの坂東さんは、弟さんに嫉妬してしまうくらい、優しい目をしていた。
「母親が再婚したとき、おやじとははじめうまく行かなかった。 やっぱり難しいところもあるのさ。裕輔が産まれて、みんなで協力してがんばってきた。いい親父だ。今はいい家族なんだ」
そうだったんだ、と思う。
仕事にかける気迫が、人と違うのはそうだったのか。
自分が家族を支えなくちゃって……。 ずっと弟を見なくてはと思ってるんだ。
小さいころからずっとがまんして、家族を背負って。
耐えきれなくなると、ハッテン場で憂さを晴らして。
そしてまた、仕事と家の往復……。
「話してもらって、うれしいです」
おれは、トーストにバターを塗って、坂東さんに渡した。
「裕輔のこと、支店長と次長にしか言ってないけど……」
「あ、誰にもしゃべりません」
「そうじゃなくて」
先輩は照れたように笑った。
「平良にはなんでも喋れるような気がする、おれ」
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