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Love Me Tender 〜ヤサシク愛シテ〜 (後) 2000/8/19
坂東さんのあとからシャワーを使って、なぜかまた全部服を着こんで部屋に戻ると、先輩はふざけて、素肌の上におれの背広を羽織っていた。
先輩はおれより小柄だから、肩は落ち、袖も少し余っている。
「平良は青い背広が好きなんだな」
「……センスないから、こればっかりで」
「そんなことはないけど。 短パンのほうが似合ってるかな」
するっとジャケットを脱いで、ハンガーにかけてから、坂東さんは目のやり場に困っているおれに「おいでよ」と言って、手を引いてベッドに引っ張っていった。
今使っているベッドは、ロングサイズだけどシングル幅で、二人も寝ると狭くてしょうがない。
「狭くてすみません……」
「ん? これだけあれば充分だよ」
先輩がすぐにおれの上にまたがったので、狭さは問題にならなくなった。
これで解決だ。
ってホッとしてる場合じゃない。
やっぱり先輩が上なんだ。 いまさらだけど、うすうすは覚悟してたけど、やっぱりおれが下なんだ……ああ。
確かにおれが上になったら先輩は重いだろう。
こっちのほうが背も高いし、体格もごついんだから。
これでいいんだ。うん、これで……。
それで坂東さんが気持ちよくなるのなら、それで本望です。
……………………。
せ、先輩。 やさしくしてね? お願いだから。
「平良の乳首の横、ほくろがある……なんかえっちいな」
先輩は、そのえっちい乳首を口に含み、ごく軽く噛んだ。
「ひっ……」
「感じやすいんだ。 おれはだめだもん、ほぼ一点しか感じない」
そのほぼ一点を愛撫しようとしても、坂東さんの触り方がうまくて、それができないくらい感じまくってしまう。
どうしてわかるんだ、といいたいくらい、坂東さんの手はおれの弱いところを知っていた。
ちょっとでも動くと、このベッドはギシギシと大げさな音を立てる。
おれを組み敷いて坂東さんが動くたび、ベッドがあられもない悲鳴をあげる。
ああ、まただ。 ギシギシって。 もう、恥ずかしい。
こういうときのことも考えて、本当にもう少しましなやつを買っとくんだった!
「す、すみませ……坂東、さん」
「なにがすみません?」
「この、音……恥ずかしい、から……」
「ん……どの音? この音か?」
坂東さんがおれのを扱くのを速くすると、ぐちゃぐちゃといかにも恥ずかしい音がした。
おれが身をよじると、またベッドがきしんだ。
となりの人がエロビデオ見てるのも筒抜けなのに。
これ絶対聞こえてるよ。
日曜の夜だから、みんないるだろうし。
「それじゃないです、こ、このギシギシって音が! いかにもやってますってかんじで。 ここ、壁薄いからっ」
「やってるんだから仕方ないじゃない。みんなやってることだよ」
「ばんどうさん! したでやりましょ、下で!」
「畳の上なんてダメだよ。 背中とお尻すりむくよ、平良がだけど」
「そ、それもちょっと」
「大丈夫。 すぐに聞こえなくなるから、そんなの」
それは本当だった。
坂東さんの柔らかい唇に大切なところを包みこまれ、その舌に愛撫されると、頭の中は白く濁って何も考えられなくなってしまって。
「も……出そう」
すると坂東さんはぱっと口を放してしまった。
「まだダメ。 一緒にイこうね、平良」
「うっ……そ、そこはっ!!」
先輩の舌が、おれの、ああ、アナに!!
「だめですっ!! き、汚いですよおっ!」
「ん」
「ん、じゃないです! だめ……あっあっあっ……」
「しっかり感じてるじゃない」
細い指が、尻のアナを撫でまわしている。 力が抜けていくような、ぞくぞくするような、不思議な快感がそこから湧きあがっていった。
「うん。 そうして力を抜いていて」
力を抜くまでもない、もう膝に力が入らなかった。
どれくらいそこを愛撫されていたのか。
坂東さんが限界までおれの脚を広げ、のしかかってきたときも、半ばもうろうとしていた。
「平良」
坂東さんの白い顔が、すぐ近くにあった。
固い、熱いものがずるずるとおれを切り裂いて、這いあがってくる。 おれの体は勝手にせりあがっていったが、すぐにベッドボードに頭をさえぎられて、それ以上逃げられなくなった。
「い、た……ちょっと、待ってくださ……」
もう待てないらしくて、彼は性急におれを突き上げ、突き落とした。 起きようとしても起きられなくて、ただきゃしゃな体にすがりつき、叫び声をこらえていた。
そのときだった。
急に目の前が白っぽくなっていった。
恐ろしく鮮明な光景が、頭の中に広がっていく。
あの高校生の、それからやつの仲間の男たちの、激しい息づかいが耳元で聞こえる。
建築現場の資材のかげで、やつらはおれを殴り倒し、それからかわるがわるおれを犯した。
やつらの息の臭い、体の、精液の臭い……それからコンクリートの埃くさい臭い。
おれの上に降り注いでいくあたたかい尿の臭い。
それからカラになった財布を投げ捨てて、やつらは去った。
もう何年も経ったんだ。
カウンセリングだって受けて、とっくに克服したんだ。
おれは見た目も中身も、すごくタフで、しっかり立ち直って、就職して、こうして生きてる。
おれは平気だ……。 体にも傷一つ残ってない。
傷ついてなんかいない。 いつまでも傷けられてる義務もない。
だっておれは、なにひとつ悪くなかったんだから。
平気だ……。
気持ちは平気なつもりなのに、体がだめだって言う。
さいごまでやりおおせない……。
「平良? 平良!?」
坂東さんが心配そうに顔を覗きこんだ。
この優しい顔を見ると、大丈夫、平気だと思えるんだ。
仕事が苦しいときも、気持ちが滅入っているときも。
たぶん、これは一方通行の思いなんだろう。
それでもおれは、こうせずにはいられなかった。
「苦しい? ごめん。 あんまりつらかったらやめるから」
「……だいじょうぶ、です……」
おれは、必死に左手の中指を爪で押した。
先輩が教えてくれた吐き気止めのツボだ。
それでも吐き気とめまいはおさまらなくて、しまいに中指を噛んだ。
「平良、気分悪いんだろ? 体冷たくなってる……また吐き気するのか?」
「そんなことない、すごくいい……いい、から……やめないで……かまわないで続けてください」
「かまわないでって、それじゃあまるで」
何か言おうとしたのを坂東さんは飲みこんで、おれの手をとった。
「かわいそうに。 歯形がついてる……」
そして、もう動こうとせず、しっかりとおれの手を握り締め、抱きしめてくれた。
汗ばんだ先輩の体は温かくて、気持ちがいい……。
それからおれたちは、狭いベッドの中で、ただ黙って抱き合っていた。
結局、できもしないのに誘ってしまったんだ。
「坂東さん……すみません……」
「あやまることはない。 あやまるのは、おれのほう」
「え?」
「つい自分と同じように思って。 好きなように扱って……野蛮だった。気分悪くなるの当然だ。 平良、慣れてないのにな。 ごめんな」
「そんな」
「もう、すっごく嫌いになったんじゃないか」
ちょっとびっくりして坂東さんの顔を見た。 辛そうだった。
嫌われたら、辛いと感じてくれるのか。少しは、おれのことを好きだと思ってくれるんだろうか。
うれしくなって、先輩の薄い胸に顔を埋め、「もっと好きになりました」と言った。
Love Me Tender おわり。
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