Only You 18 2005年3月23日
平良は、電話が切れたときにかすかに身じろぎをした。どうやら目が覚めていたようだった。薄暗がりの中で、平良と目があった。黒い目が、不安げにおれを見つめていた。
「平良、あの電話だけど……」
例のストーカーなのか? おれはそう聞こうとして、ためらった。
「あの電話だけど、番号非通知を拒否する設定にしてるか?」
平良はぽかんとした表情で、おれを見つめていた。
「知らないのか? そういう設定にできるんだよ。迷惑電話はそうやって、ほとんど撃退できるんだ」
電話のほうへ歩いていきかけると、平良が血相を変えて、肩を掴んできた。
「み、見ないでください。見ちゃダメです」
「なんだよ」
「そんな機能はついてない電話です。それに、そうしたら番号を通知してかけてくるやつです。 だからなにをやっても無駄なんです」
そういいながら、平良はおれを羽交い絞めにして離そうとしなかった。
「だからってあんな! あんな汚い……我慢できるのかよ、平良は!」
平良はびくりと震えた。
「嫌だけど、しかたありません。相手もいつか飽きるだろう。いつまでも過ぎない台風はないんです。なんとかなります、きっと」
「それどころか、エスカレートしてるんじゃないのかっ。お前、新聞読んでるのかよ。ストーカーってのはな……」
平良はおれの言うことを無視して、手に力を込めた。それ以上おれが何か言うのを阻止するとでもいうように、平良は問答無用におれを押し倒した。
「おいっ、話はまだ終わってないぞ! 一発やってごまかそうってか!」
「そうしてほしいんなら、そうします」
「なにいってやが……このヤロー! 平良のくせに生意気に……うぶっ」
だいたい30秒ほどは抵抗した。いや、だいたい半分くらいの力でもって、10秒か。そんなもんだ。
その朝、平良は少しだけ、たがが外れていた。気の毒な階下の住人のことさえ、まるで気にも留めなかった。
「おれに会えなくて、たまってたんだな」
そういって挑発すると、平良はかるくおれを睨んで見せた。ゴムを取ってくる余裕もなかった。途中、何度か電話が鳴ったが、平良はそのたびにおれの耳をふさいだ。
「平良。あの電話を取って、おれたちの聞かせてやればいい」
少し挑発してやると、平良はいい感じに暴走してくれて、めちゃくちゃに体を動かしてきた。
こちらも、平良の隣人に気遣う余裕もなかった。
互いにぶちまけて、体の中も頭の中も、すっかり空っぽになったそのとき、突然平良は笑い出した。
「なんてばかだ。電話線を引っこ抜いとけばよかったんだ、なんで思いつかなかったんだろう」
確かに、平良は壊れかかっていた。体育会系の体力にものを言わせて、ほとんど休みもせずに第4幕へなだれ込もうという、前代未聞の暴挙に出たからだ。
「少し休ませてくれ」
「え、もう?」
平良は少し不満そうな顔をしたが、それでもおとなしく言うことを聞いて、おれにしがみついて眠り始めた。
台風一過というところか。
平良の癖の強い髪をなでながら、おれは自分のできることを考えた。
とりあえずお互いキモチ良かったから、それでいいというものではない。苦労して仕込んだかいがあったなどと喜んでいる場合でもない。
平良は半分壊れていた。飢餓に追い詰められた動物が、本能的に発情するのと同じだ。
静かな寝息を確認してから、おれはふらつく足で、ベッドからすべり出た。平良の電話機を見ると、携帯電話と思われる番号が表示されていた。番号を手近の紙切れに書き留める。
冷たい水を汲んで一気に飲み、それから、テーブルの上で充電されている、平良の携帯電話を手に取った。そのまま、それを自分のジャケットのポケットに滑り込ませ、かわりにおれのケータイを充電器に立てたのだった。
OnlyYou19
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