Only You 21 2006/06/07
ビデオには何人かの男の姿が映っていた。はっきりしないのだが、中学生か、高校生か。とにかく若い男たちだった。笑いながら、誰かを蹴ったり、殴ったりしている。
「何だ、いじめか? リンチか?」
「も少し見てたらわかりますよ」
桜間が囁いた。
手ぶれのひどい画面が唐突に乱れたと思うと、今度は地面近くが映っていた。男たちの足元に、男がうずくまっている。服が泥だらけだった。
次の瞬間、男が顔を上げた。
頭の中が真っ白になった。土に汚れたひどい顔だが、見間違いようがなかった。
「平良」
画面の中の平良が『助けてくれ』とつぶやいた。
「いやだ、止めろ! 消してくれっ」
「これからが本番なんですよ」
画面がひどく動いたかと思うと、次の瞬間には、下半身をむき出しにされた平良の姿が画面に映った。
平良は一言もしゃべらず、黙って下を向いて、「耐えて」いた。犬のように這いつくばり、辱められているというのに、一言も発しなかった。
『おい、見ろよ。こいつ、勃ってるぞ』
『うわ、きもっ』
『え、本物? しゃれにならねえよ!』
やつらはヒステリックに笑った。
『おい、桜間。どうするよ。もういいか?』
すると聞き覚えのある声が答えた。
『もちょっとお仕置きしてやれ。おれを変な目で見やがって気色悪いやつ』
誰かがまた、平良の髪を掴んで顔を上げさせた。
平良は目をつぶっていたが、もう意識がないみたいだった。目から流れる涙と、頭からの血が混じり、まるで血の涙を流しているようだ。
おれは窓に駆け寄り、開け放って、外に向かって吐いた。吐いても嘔吐感は止まらなかった。おれは敵に完全に背を向け、窓枠を掴んで、胃がひっくり返るほど吐いた。
「大丈夫?」
大丈夫じゃねえよ。
桜間が箱を手に近寄ってきて、ティッシュを差し出してきた。それで顔を押さえた。白い紙に薄く、血の色がにじんでいた。
「最後の放尿シーン、見逃しちゃいましたよ。巻き戻して見せてあげましょう」
おれは黙って首を振った。桜間は、薄情なんだね、と笑った。
「あんたの彼氏だろ、見届けてあげないの?」
こいつ、殺してやりたい。
だが短気を起こしたら負けだ。ここで負けるわけにはいかない。
「今のこれは犯罪だな、桜間」
「時効、過ぎてますけど」
「今お前がやってることも犯罪だ。平良に付きまとうのも電話をするのもやめろ。でないと、警察に相談するしかなくなる」
桜間は目を細めた。
「平良さん、何もしないよ。だってもともと自分が悪いんだ。」
「なんだと?」
やつは、立て付けの悪い窓を閉めた。
「冗談で誘っただけなのに、物欲しげについてきたから。ちょっと怖くなったんだ。それで友達に助けを求めた」
おれはもう何を言う気力もなくなってきた。言葉は費やすだけ無駄だ。
「ねぇ、支店で最初に平良さんに会ったとき、どれほど恐かったか、わかる? できたら銀行辞めてほしいと思ったよ。だけどさぁ。あの人、すごくしぶといんだ……」
胃がきりきりと痛んだ。
「お前が辞めたらよかったんだ。誰も止めやしないさ」
「なんで? なんでぼくが辞めなきゃならないの?」
ぬらり、くらりとまるでウナギを相手にしているようだ。
「お前を殺してやりたい」
桜間は「怖いな」と笑いながらメガネを上げた。
「そんなに平良さんが好きなんだ」
「あいつの名前を呼ぶな!」
おれは叫び、桜間の頬を殴りつけた。桜間はちょっとふらついただけだった。手はしびれて感覚がなくなったというのに、やつには効いてもいない。
「慣れないことしないほうがいいよ?」
近寄ってくる桜間に向かって手を振り回したが、掠りもしない。
「そういうのが好きなら、ぼくも遠慮しないから」
顔に衝撃が来て、部屋の隅まで吹っ飛ばされた。派手な音がしてふすまに穴が開いたが、知ったこっちゃない。ここの部屋の住人がおれを吹っ飛ばしたせいだ。
だがそれでは終わらなかった。近寄ってきた桜間に胸倉を掴まれ、往復ビンタを食らわされた。
脳震盪か何か起こしたのか、目が回って起き上がれなかった。その状態のおれを、やつはさらに殴りつけ、おれのベルトを外し、ジッパーを下ろし、ズボンとパンツを引き摺り下ろして、遠くへ投げ捨て、またおれの顔を張った。
もっと殴れ。顔が腫れるまで殴れ。この顔で警察に駆け込んでやる!
犯したければ犯せ。中で出せ。格好の証拠にしてやる。
だが桜間は顔の前に一物を突き出してきて、「しゃぶるの好きだろ?」と言ったのだ。おれは顔を背けた。好きだけど、こいつのは嫌だ。
「あれ? まだ痛い目にあいたいの?」
不意に桜間が嫌な顔をした。桜間の携帯電話がバイブレータ音を立てていた。
「誰だ、こんなときに」
舌打ちをしながら携帯を開いて、不機嫌に「はい?」と言ったあと、しばらく沈黙があった。やがておれに向き直り、ひきつった笑い声を立てた。
「盛り上がってきたのに悪いけど、用事ができたから行きますね。それじゃ」
そしておれの答えを待たずに階段を駆け下りていった。
なんだかわからないが、助かった。
めまいと吐き気が落ち着くと、這いずり回って自分の下着とズボンを探した。だが、部屋にも廊下にも、おれの服は落ちていなかった。
「畜生、桜間のやつ。どこへ隠しやがった!」
苦労して一階に降りていったときに目に入ったものは、切り刻まれた服の山だった。もはや服とはいえない。ぼろ布の塊だ。
そばには平良の携帯電話とおれの財布が並べてあり、小さなメモが残されていた。
『平良さんを呼びました。迎えに来てくれるそうですよ。ではお元気で。桜間』
どこまで根性が腐っているんだ、桜間。ではお元気って何だ、人のパンツを切り刻んでおいて。だが怒るのは後だ、とにかく何か着なくてはならない。
おれは台所のタオルを腰に巻き、もういちど2階に上がった。桜間のクローゼットはすぐに見つかったが、パンツもズボンもジーンズもなかった!
何かの悪い夢のようだ。桜間の部屋の横に、もうひとつ部屋があった。女の部屋のようだった。部屋の隅に三面鏡、そして小さなスツールがあり、タイツというか、スパッツをひっかけてある。
黒と黄色のヒョウ柄だった。しかもラメ入りだ。
桜間は上品ぶったやつなのに、その母親だか祖母さんは大阪のおばちゃんをやってるのか。
おれは、それでもスパッツを手に取った。この際、贅沢は言わない。下着はないから素肌に着るしかない。
それまで強姦未遂の犠牲者だったのが、変態男に成り下がるのか。だけど、桜間の家に平良が来るというのに、下半身裸で出迎えられない。
ありのままでいいのか。だけどスパッツと裸とどっちがましだろうか?
どちらも地獄だ。てろん、とした布地のスパッツを穿いたら、異様な感覚が体を包んだ。
ウエストは当然、ゴム入りだ。股間の辺りがラメでちくちくする。おれなら百年の恋も冷めるかもしれない姿だろう。
これでよかったのか、いや、いいわけがない。
「坂東さん!!」
下で平良の怒鳴り声がした。早っ。もう来たのか。
「ドコなんですか、坂東さん!! 無事ですかっ!」
おれは、控えめな声で、腰の引けた返事をした。
「上だ。2階。来てくれ。……よかったらだけど」
ドカドカと足音が近づいてくる。おれは目を閉じた。おれは、馬鹿だ阿呆だ。すべて自業自得だ……。
Only You 22
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