Only You 23 2006/07/08
月曜日は夜中まで仕事をしてて、平良に電話もできなかった。
翌日、駐車場に車を止め、遠回りをして古巣の支店へと歩いていった。
朝、戦争のように忙しい内勤に比べると、渉外係は暇だ。だから経費節減のため、外回りの清掃は渉外係がやっていた。
平良が出勤していれば必ず外にいるだろう。
そして、予感は当たった。
平良はやはり外にいた。プランターの前にしゃがみこみ、熱心に雑草を抜いていた。
足元には色あせた如雨露が見える。プランタの周りが少し濡れているので、もう水はやったのだろう。
店の前では、渉外係の塩田次長が丹念にホウキを使っていたが、平良より早くおれに気づいた。
「坂東じゃないか! なんだ、そのひでえ顔は。ケンカか?」
「いえ、ちょっと酔っ払って転んでしまって」
平良はあわてて飛んできた。
「遅くないですか、これから歩いて本店まで、10分はかかりますよ」と言い出した。
「走るから大丈夫だよ。遅刻にはならない」
だが平良は肩肘張って、「新入りがぎりぎりじゃまずいでしょ」と言うのだった。
「塩田次長、ちょっといいですか? 坂東さんを送ってきます」
「ああ。だがすぐ戻って来いよ。マクドで道草するな」
おれはあわてて逃げ出したが、バイクの平良にはすぐに追いつかれた。
「坂東さん! ほら、ヘルメット」
渡されたヘルメットを頭に載せると、バイクに乗り平良の背中にしがみついた。バイクは、支店から本店まで、渋滞する幹線道路を車の間をすり抜けて、飛ばしていく。
いい気分だった。
他人の目は、気にならなかった。
結局、人間ってのは他人のことなんか、それほど見てもいないし、気にもしていないものなんだ。
「ちゃんと寝てますか! 目の下すごいですよっ」
「そりゃこっちのセリフだ、心配させやがって!」
「それこそおれのセリフ! ほんとに心臓が止まりそうだったンですからっ」
言い合ってるうちに本店についてしまった。ヘルメットを平良に渡しながら、小さな声で聞いた。
「警察に行く気になったら、いつでも言ってくれ。おれも一緒に行こう」
平良は小さく首を振った。その顔には疲れが見えるが、以前の険しさがなくなっている。
「警察には行きません。あいつ、仕事辞めて、東京に行くって」
耳を疑った。
「冗談だろ!」
「ほんとです。公認会計士を目指すそうですよ。試験は2次まで受かってるから、実地で訓練だそうです」
全身の力が抜けそうになった。それならなんで、あんなに平良を追い詰めようとしたんだろう。
「意味ないじゃないか! なんでなんだ?」
平良はおれの気持ちを察したのか、「妬けたんでしょう」と微笑んだ。
「あいつなりに不幸だったらしいから。おれたちが幸せそうで妬けたんでしょう。そんなもんですよ」
昼前に、平良から携帯メールが届いた。珍しく長いメールだった。
『昨日は桜間の母親のお葬式で、借り出されて香典の番してました。そしたら近所のおばさんが、いろいろ話してくれました。
『桜間のおふくろさんは、ダンナ、つまり桜間常務とのいざこざがあって、当てつけに首を吊ったんだそうです。桜間が布を切って助けたけど、寝たきりになって、何年も悲惨だったって。やっと死ねたって、おばさんは言ってました。銀行入ったのも、母ちゃんを喜ばすためだったらしい。
『ところで、電話機を買い換えたいです。着信拒否できるやつ。いい加減おれのも旧式だし。携帯電話も買い換えたい。……もし迷惑じゃなかったら、週末、一緒に選んでくれませんか?』
苦笑がこみ上げてくる。
平良も、でかい図体してフリーズしてないで、そうやって手を打てばよかったのだ。そしたら、あんなに苦しまないで済んだだろうに。
(週末、平良を電器屋に連れて行く。その後は飯か。 焼肉ってのもいいけど、そろそろ鍋も悪くないか……もうめんどうだから、すっぽん鍋とか食わしちゃうか?)と段取りを考えていたら、食事時間はすぐに終わってしまった。
仕事に戻ると間もなく、同僚の山下が「坂東さん、いいことでもあったんですか?」と肩を突付いてきた。
鋭いヤツだ。早めに、恩を売る必要があるかもしれない。
そんな風にけっこうのん気に考えていた。
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