高志 (タカシ) 其の参  平成十三年五月ニ四日

 シャツを脱がそうとしたら、高志は手をつかんで言った。
「下だけ脱げばすむことだ」

 その手をねじ上げて、裂けたワイシャツをさらにはだけ、答えのかわりにした。 銀色のカフスをもどかしく外し、手を伸ばしてカフスをちゃぶ台の上に置く。

 下だけ脱げばすむことだ、だって? 
 ぼくがそんなもったいないことすると思うか?
「おれそんなの、いやですよ」
 
 下だけ脱がせてやっておわり、なんて興ざめなことはしない。
 一枚ずつ脱がせて、肌が現れるのを見て楽しむのだ。 高志は、まるでもう犯されてでもいるように、苦痛に満ちた表情を浮かべている。

 二の腕を撫でまわして、滑らかな皮膚にぶつぶつと鳥肌を立てさせる。
 高志はもう抵抗しない、でも触れるたびに体を固くして、無言でぼくを拒んでいる。
 そんなに、ぼくがいやなのか。

 ふと、ひどいことをしている、と気づく。 言葉で脅して、その気のないものを自由にしようというんだから、これは「ひどいこと」だ。
 かすかな罪の意識はあったが、高志の肩を掴んだら、それは吹き消されてしまった。
 薄いランニングを脱がして、高志の肩を軽く噛んだ。 そう、噛んだ。 歯を離したら、ぼくの唾液に濡れた皮膚が、うっすらと赤くなっていた。 それに満足して、さらにニつ三つ、あとを付けた。

 余さず味わい尽くさなくては。 この夢が覚める前に。
 薄いグレーのズボンのホックを外し、ジッパーをゆっくり下ろす……すると高志の顔に恐怖に似た表情が走った。

 歯がかちかち鳴っている。 噛みつかれたとしても、この口に、ぼくはどうしてもキスをしたい。
「よせ。」
 高志は強い調子で拒んだ。
「キスはするな。 尻は貸してやる。 おまえにはそれだけで十分だ」
「……高志さん」
「ケツは自由にしろ、それだけだって言ってるんだよ、うすらトンマ」

 何を言っても、どんなに歪んでも、美しい顔だ。

 ほんとうに高志はあの仏像に似ている。 あれはなんといっただろうか。腰をかけて思惟にふける、衆生を救う手立てを考えているというよりは、昨夜の逢瀬のことを思い出しているような、なよやかな顔の仏像だ。 
 はじめてみたのは高校の図書館だったか。
 
 仏像を見て、すぐに高志だと思った。
 唇の形も、なめらかなあごもまるで写し取ったみたいに似ている。
 
 両手で顔を固定し、無理やりに唇をふさいでやった。
 弾力のある唇だった。 強く吸い上げて、呼吸も許さず、高志を苦しめる。 彼は苦しがってぼくの肩を掴む。
 だからって抱きしめられたわけではないが、こっちがよけいに感じてしまって、がまんするのが辛くなってしまった。
 唇を離し、空気を求めて高志があえいでいるすきに、一気に全部脱がせてしまった。 脚を絡ませてみたが、高志は反応してくれなかった。
 それにしてもなんていやらしいんだろう。 ぼくの黒い脚と、高志の白い脚が絡み合ってるさまは。
 
 それにしても……なぜだ、入らない……。 ぼくのことがいやだから入らないのかもしれない。
 高志の体はこの期に及んで恐れをなし、ぼくを拒んでいるようだった。

 容赦なく脚を押し開いて、高志の痛みを無視して、ぼくは突き刺した。温かい肉がぼくを包んで、締め上げてまた緩んだ。
 
 ぼくの下で、高志が苦しそうに息を吐いている。 見ると目じりに涙が浮かんでいる…許してほしい。それでもぼくはあなたを犯す。
 こうやって。
 するとまた、柔らかい肉がぼくを締め上げた。 恐ろしいほどの締め上げかたで、熱い、果てしもない肉の通路がぼくを搾り取ろうとする。
 でも、まだ果てるわけにはいかない。

 浅く腰を使いはじめると、高志はぼくを罵った。
「おまえ……へたくそが……っ」
「下手? 誰と比べてるの?」
「そうじゃない……痛いんだよっ」
「深くいれてゆっくりがいいのか?」

 ゆっくりだが無慈悲に、奥のほうまで突き刺してしまう。
 そのときふいに、高志のものが、持ち主の意思に逆らって反応を見せた。

 ぼくは脚を高く持ち上げて、白い膝を舐めてみた。 ぼくを受け入れて広げている太腿の肉を掴んでもみた。どこが好きなのか、しらみつぶしに探すつもりだった。 それから体を思いきり倒して、高志のに下腹を押しつけて動いた。
 高志のはそのころでは、ぼくのと同じくらい固くなっていた。
 意思に反して感じてしまった、それがくやしかったんだろう。

「き、さま……さっさと……終わっちまえっ…」罵倒するのだけど、ぼくが動くものだから、腹が押されるせいか声も途切れてしまう。
「きさま、じゃなくて、かつのりですよ」
「う、うるさいっ」
「高志さん、おれの名前、呼んで?」
「ばかやろう」
「動いて、高志さん…まぐろのふりしても、だめですよ」
「…いやだっ……あっ……」

 よがっているのか苦しがっているのか、わからない声だ。
 ぼくはまた高志を突き上げた。 高志は悲鳴を上げ、ぼくはそれを手で押さえこんだ。
 押さえこんで、あとは動くだけだった。
 もういろいろできそうにない、高志のなかは気持ち良すぎる。 じっとしていても達してしまいそうだ。

 正直何も考えられなくなって、体が勝手に動いてしまう、けだものみたいに。相手の反応にあわせるなんて、そんな余裕はない。
 突然、高志もぼくにあわせて動いてくれようとした。 遠慮がちに腰に腕を廻し、それから両脚を高く持ち上げ、宙に脚を躍らせる。 ぼくを早くいかせようというのか。 
 
 ぼくは高志の脚をつかみ、畳に押し付けた。そして気の毒な美しい男を二つ折りにして、さらに犯しつづけた。

 ぼくの下で、高志の体が熱くなって、波打つ胸を水滴が流れて行く。 これはぼくの汗だろうか。 高志のも混じっているんだろうか。

 高志の速い息遣いが、声になったとき、ぼくはもう我慢できなくなっていた。
「高志さん、高志さん、高志さん……」

 悲鳴みたいな声を上げたのは、ぼくのほうだった。
 ぼくは激しくあえぎながら、高志の中に全部ぶちまけた。 何度も情けない声を上げながら。
 
 そしたら急に力が抜けて、魂が抜けたみたいになって……何もわからなくなった。




「かつのり……」
 優しい声で目を覚ます。
「克紀、くん」

 やっと目を開けると、高志が、ぼくの上に乗っていた。 何も着ていない体を、蛍光灯の下にさらしている。 部屋じゅうに、精液の匂いが充満していた。
 ぼくは、高志を全裸に剥いたのに、自分は余裕がなくて、下半身をさらしただけだった。 ワイシャツを着たまま暴れ狂ったから、汗で背中に貼りついている。

 あたりにぼくのズボンやパンツ、高志の着ていたものが散乱し、畳の表面には汗か精液で汚れて乾いたあとなのか、蛍光灯の下でねっとりと光っていた。
 
 高志の顔は、怒っていなかった。 淡い色のまつげが、長く影を落とし、それがかすかに揺れているのを、ぼくは夢のように見つめた。

「こんなとこで気絶してていいのかい?」
 ぼくは気絶してたのか?
 不思議なほど優しく、高志の手がぼくの顔を撫でた。 心地よさに目をつぶり、ため息をついた。
「たかし、さん……」
「ひとつ聞くけど、これからおれに会いに行くって、誰かに言ったか?」
「いいえ」
「克紀くんは、一人暮しか?」
「そうですよ…」
「ここに来ること、誰も知らないんだな」
「誰も知りません」

 わずかに唇の両端を上げて、高志は微笑んだ。
「それは、よかった」
 
 高志は、優しくそう言って、ぼくのシャツの襟を掴んだ。 慈悲深い微笑を浮かべたまま、左右の襟を交差させて、ぼくの首を締め上げ始める。
 はじめはやさしく、だんだん強く。もっと強く。
「約束だよ…絞め殺されてもいいっていっただろ?」
 ぼくは高志の太ももを掴んだ。 どうして腕を掴まなかったのかわからない。

 ぼくのほうに、抵抗する気がなかったのだとしか。

 少しずつ血が滞って、だんだん気が遠くなって行く。 これで死ぬんだろうか。 絞め殺されるのはこんなに気持ちがいいんだろうか?
 こんなに気持ちが良くて死ねるんだろうか? 首を締められたら、もっと苦しいはずなのに。

 気持ちがいいのはきっと、高志に締められているからだ。

 高志の太ももを掴みながら、ぼくの精液で汚れたままの、剥き出しの下半身を押しつけられながら。 ああ。 もうぼくは、これで死んでもいい……。

 だんだん力が抜けていって、どこまでも体が落ちて行って……。



高志、其の四へ続く。


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