野ばら 20 2003/7/3
髪を刈り上げて、ヒゲを剃ってしまったクージは、一緒に生気もそぎ落とされたように見えた。
「えらく男前になったじゃないか。」
「これから髪も洗えなくなるから、刈り上げたんだ」
「どっか行くのか?」
クージはしばらくぼくを見つめていたが、「じゃ、元気でな、アウチ。さよなら。」ときっぱり言い放ち、背を向けた。
「待てよ! クージ・クンツ、何でさよならなんだ本当に! ぼくが君に何か気に障るようなことをしたか!?」
クージは立ち止まろうともしなかった。全身でぼくを拒絶し、逃げ去ろうとしていた。
「どうしてなんだ、クージ! 理由を言ってくれ!」
ぼくは正面に回りこみ、乱暴に肩をつかんで揺すぶった。
「おれの国が、ひとつだけ植民地を持ってることは知ってるか?」
「え?」
「知らないだろうな。 おれも中学のとき習ったきりで、すっかり忘れてた。だって地球の裏側にあるんだもんな。 ろくに土もなくて、鳥の糞や海草を拾ってきて腐らせて、やっと牧草地を作ってたような島だそうだ…人口は、10人弱。」
「ふうん」
「そこへ近所の国がやってきて占領した。 いや、昔おれの国が奪ったを取り返されたんだ。 なんでもいい、そんな島でも、取り戻さないといけない。」
「うん。」
「おれは、その島へ行くことになった。 先発隊はもう出発してて、おれは増援部隊に入る。」
「クージ。」
「月曜日の昼までに駐屯地へ来いと電話があった。」
「クージ、待ってくれ。」
頭の中で本能が、こいつを引き留めろ、なんとしてでも引き留めろと叫んでいた。 今送り出したなら、もう会えないかもしれないんだ。
「集合はいつなんだ」
「あさって、月曜日の朝だ。鈍行と急行を乗り継いで3時間くらいかかる」
「明日…日曜日に出ても、間に合うだろう」
「でも」
「時間はある。」
ぼくはクージの腕をつかんだ。そして、「弾除けのまじないをしてやる。」といいながら、無理やり家の中へ引っ張っていった。
そしてドアを閉め、クージの両頬を捉えて、かなり乱暴にキスをした。 日焼けした喉元にもキスを繰り返した。 クージは息をすぐに乱して、「これが弾除けのおまじないだって?」とささやいた。
「まだまだ、これからだ」
そう答えて、ジャンパーのファスナーを引っ張りおろした。視線を感じて見上げると、クージはいつもよりずっと優しい目をしているのだ。
優しさに不吉さを感じ取り、ぼくはますます逆上して凶暴になった。
パンツまでむしっても、クージはされるがままだった。滑らかな胸に銀色の認識票が光っていたが、こんな無粋な代物は愛し合うときには必要ない。クージのも自分のも、一緒くたに床に投げ捨てた。
素っ裸でクージの上に乗り、胸に手をついて、「これから弾除けのまじないを始める。 絶対効くから、気を静めて受け取るように。」と言うと、クージは「あやしすぎる」と腹を震わせて笑い、それからいきなり涙を零した。
涙を潔しとしないのか、ぼくの恋人は両手で顔を覆ってしまった。
「行きたくない…。」
聞こえるか聞こえないくらいの声。 こんな泣き虫な勇者を、戦場になんて送り出せない。
「行くな、クージ」
泣いていても、ぼくが触れるとクージの下半身はすぐに元気になった。 若者はそれを感慨深げに眺めていた。。
「不思議だ。 どうしてこんなときにも勃つんだろうな」
「どんなときも勃つときは勃つもんだ。」
ぼくは何とかクージの息子を自分の中に入れようと苦闘しつつ、耳元にそそのかした。
「クージ、いっそのこと、ぼくと逃げよう」
「え」
「そうしよう。 ぼくの国に逃げるんだ。 そんな島なんてどうでもいいじゃないか!」
「おれに脱走兵になれっていうのか?」
「それがいやならぼくを連れて行け、君の弾除けになってやる。 さあ、どっちがいい、選べクージ。 …くそっ、何で入らないんだ!」
「お前の言うことはどれもこれも…不可能だ。」
「不可能なものか、どこまでも君をかくまってみせる。 今は、君のコレをおれの中に入れる!」
ぼくは唾液を溜めてクージの息子になすり付け、それから思い切り体を落とした。
全部入った、ぼくの尻がクージの腹にぶつかった、と思った瞬間、わけのわからない痛みが背中から脳天まで付き抜けた。 ぼくは喉元まで出かかった叫び声を必死に殺した。
華奢なビンをつっこまれるどころの騒ぎではなかったが、少しも後悔はしなかった。
クージはかすかに眉をひそめて見上げていた。青白かった頬に赤みがさして、生気が戻ってきていた。
「ああ……アウチ……」
「どうだ、気持ちいいか?」
「うん。 とても。 それに、あったかい…」
そういって、幸せそうに目を閉じた。
「来いよ…動いてみろ、クージ」
クージは素直に頷き、ぼくの腰にそっと両手を当てた。
自分が快感を得るのは、この際考えてはいなかった。 クージを連れて行こうとする死神を追い払うことしか思っていなかったのだが、それでも腹の奥まで突き上げられていると、しまいにはぼくにも何か見えそうな気がしてきたのだった。
これをこそ求めていたのかもしれない、というかすかな感覚だ。
達する前には信じられないくらいぼくの中で成長し、体を振るわせるクージを抱きしめ、お前をどこへもやらない、と叫んだ。 それがお前の国であっても渡さない、お前は僕のものだ、誰にも渡さない、愛しているのだと。
それなのに、ぼくが不覚にも眠ってしまった早朝、クージはぼくの手から音も立てず、すり抜けて行ってしまった。
枕元に、「命があったらまた会おう!」と、殴り書きの、強がったメモがあった。
ぼくは負けたのだ。 何かわからない力に。 彼を止められなかった…。
脱ぎ捨てた服の上に、銀色の認識票が落ちていた。 のろのろと立ち上がり、手に取ると、それはぼくのものではなく、クージのものだった。
認識票を取り違えるほど慌てていたらしい。 かわりにアウチ・シルバーコックの認識票を首にぶら下げ、クージは駐屯地へ向かったのだ。
「なんてばかなんだ、クージ。 見つかったら上官に殴られるぞ。」
ぼくは銀色のタグを握り締め、外へ飛び出した。 これだけでも渡さなければと、それが無理なら、せめて一目後姿だけでもと思って。
でもクージは、曲がりくねった野路のむこうまで見渡しても、どこにも姿が見えなかった。
野ばら 21
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