第57回 丸亀マラソン大会
今回は、ちょっと真面目な話があります。なかなか良い話なんです。
-1- 偶然の出会い
それは昨年の11月頃の事だった。
小豆島オリーブマラソンとか塩江山岳マラソンとか丸亀マラソンとか、ペンギンズが出場する主なレースで、いつも盲目のランナーの伴走をしている人がいる。去年の丸亀マラソンでは、翌日の四国新聞に写真入りで紹介もされている。僕は、たいていは終盤になって彼らに追い抜かれる。僕はいつも練習不足で、終盤になるとガクッとペースダウンするのだが、このペアは実力があると見えて最後までペースが衰えず、僕を淡々と抜いていくのだ。そして、追い抜くときに、この伴走者が必ず「今日はペンギンの格好はしとらんのかっ?」とか「もっと頑張らんかいっ!」とか「練習不足やな。最近、顔をみかけんけど、練習してないんか?」とか、大きな声を掛けながら抜いていくのだ。いったい、彼は何者なんだ?僕は全然知らないぞ。一体なぜ僕が満濃駅伝の時はカッパの格好をしているのを知ってるんだろう。そりゃ、カッパを始めとして動物チームは目立つだろうけど、普通の格好をして走っている時にでも、後ろから分かるなんて、とっても不思議。そんなに後ろ姿に特徴があるとも思えないし。しかも練習の時にも見かけられているらしい。いったい何者なんだ?
と、最初は不思議だったのだが、いつもいつも同じように声をかけられているうちに慣れちゃって、こっちも顔を覚えてしまった。その彼とバッタリ出会ったのだ。会社のお昼休みに、うどんを食べに外へ出た時、バッタリ会ったのだ。
(男)「あれっ、こんなところで。珍しい」
(幹事長)「ほんまですねえ。何しよん?」
(男)「今から仕事や。おたくは何の仕事しよんな?」
(幹事長)「そこの四国電力に勤めとんですわ」
(男)「えっ!?四国電力っ?そら、ええ事聞いたわ。連絡先教えてぇな。また連絡するわ」
てことで名刺を渡した。
するとしばらくして会社に電話がかかってきた。
(男)「実は今度の丸亀マラソンに視覚障害者の人で出場したいっちゅう人がおってな。その伴走者を探しとんのや」
(幹事長)「伴走なら、おたく、いつもやってるやん?」
(男)「いや、今度の人はものすごく早い人なんで、わしには無理なんや」
確かに、この人は、そんなにすごく早いっていうほどでもない。今年の春の小豆島オリーブマラソンでは終盤に僕が抜いたもんなあ。
(幹事長)「どれくらい早い人?」
(男)「アトランタのパラリンピックで優勝した人とか」
(幹事長)「げげっ。そら、レベルが違うがな」
(男)「あちこちあたってみたんやけど、なかなかおらんでなあ。
それで思いついたんやけど、四国電力の陸上競技部の人でボランティアしてくれる人はおらんかなあ」
(幹事長)「はあ、なるほど。前々回の丸亀マラソンで高橋尚子が出場した時も、何人かガードで走ってあげたこともあるし、
もしかしたら引き受けてくれるかもしれませんねえ」
って事で、取りあえず打診してみることにした。
-2- 心優しい陸上競技部
実を言うと、我が四電ペンギンズと四国電力公式陸上競技部とは、犬猿の仲なのである。嘘である。でも、特に仲良しって訳ではない。て言うか、何の交流もつながりも無い。なぜか。全く相手にされてないからだ。
かつて「陸上部のお下がりでよろしゅうごぜえますから、要らなくなったユニフォームとかトレーニングウェアとか、めぐんで下さいませんか?」ってお願いしたこともあるが、「何を抜かすか町人め。身分をわきまえろ。四国電力陸上競技部の名前が入ったウェアで、みっともない走りをされたんでは、我々の名誉にかかわる。捨てるものはあっても、貴様らにくれてやる物は無いっ!」との趣旨で断られてしまった。その逆恨みっていう訳でもないが、それ以来、敵対心を燃やしている。
(増田)「完全に逆恨みですね」
(幹事長)「ま、その後、圧倒的な活躍により、社内的な人気では完全に陸上競技部を逆転した我がペンギンズなので、
今では、もし、古くなったウェアをくれる、と言われても、こちらからお断りだがね」
(増田)「ほんまですか?」
(幹事長)「嘘です。何でもいいから、めぐんで下さいな」
そういう屈折した意識もあるのだが、取りあえず打診してみると、予想外に色よい返事。
(陸上部)「そういう話なら喜んで協力しますよ」
(幹事長)「えっ、ほんまですかっ?」
(陸上部)「はいな。地域の催しに協力する事も私らの役目ですから」
なんとかーっ!勝手に、偉そうにふんぞり返っている姿をイメージしていたけど、陸上競技部の皆さんって、そんなに立派な心がけだったのね。目立つ事しか考えていない我々とは心構えが違うのでした。
先方のレベルとかを伝えると、
(陸上部)「それじゃあ、適当な選手を選んで紹介しましょう」
と言う事で話はトントン拍子に進んでしまった。
その後、多少の紆余曲折もありながら、いいランナーを紹介してもらい、レースの前夜にみんなで顔合わせを兼ねて食事会を開く事になった。
-3- 素晴らしい世界
関係者の顔合わせ食事会ということで、一応、僕も今回のつながりの一部なので、顔出しせんといかんな、と思って出かけてはみたものの、かなり不安だった。四電ペンギンズなんてふざけた名前でマラソンに出ているが、市民ランナーどころか、全くの素人集団であり、ランニングの基礎も知らなければ常識も全く知らない。このような、ふざけたお遊びランナーが、こういう真剣なランナーの、おまけにボランティアっぽい世界に加わるのは後ろめたい感じ。
会場へ行くと、例の男はまだ来てなくて、そのランニング仲間が数人来ていた。みんな僕よりは年上だ。
(男2)「最近は市民マラソン界も高齢化が進み、年寄りばっかりや。若い人は入ってこんなあ」
スキー場でも同じような話をよく聞く。テニス部も同じような事を言っていた。
いったい、今どきの若い奴は何をしとんだっ!って、こななとこでエキサイトしてもしょうがないが、もっとスポーツしようぜ。
しばらくして例の男が明日のレースに参加する視覚障害者3人を連れてやってきた。
1人目は佐賀の柳川さんといって、全盲の人だが、ソウル、バルセロナ、アトランタ、シドニーのパラリンピック全盲の部に4大会連続で出ており、なかでもアトランタでは金メダルを獲得している。つまり、世界のトップクラスの人なのだ。
2人目は京都の二宮さんで、この人も全盲だ。この人は僕らと同じくらいのペースらしいので、少し安心。でも、考えてみたら、こういう人は伴走者と紐を握りあって走るのであって、ものすごく走りにくいと思う。やっぱり、すごい。
3人目が鳥取の福留さん。この人は弱視で、シドニーのパラリンピックでは弱視の部門に出場している。パラリンピックでは、弱視の人は伴走者は許されないとのことだが、やはり危ないし、給水も難しいので、できれば伴走者がいてくれればありがたい、との事。この人は本当に早い。マジで早い。30歳過ぎに視覚障害になるまでは、マジで陸上競技選手だったので、プロなのだ。
みなさんは日本盲人マラソン協会(JBMA)の仲間とのことで、日頃から連絡取り合ったりして活躍しているらしい。
さらに、視覚障害者の伴走ではベテランの広島の藤本さんも来た。
会うまでは、視覚障害があって走るなんて、すごいなあ、きっと、すごく偉大な人達なんだろうなあ、なんて思っていたのですが、会って話していると、みんな面白くて楽しい人ばっかりで、かなり驚きました。とにかくみんな明るくて、走る事を本当に楽しんでいる。イメージと全然違う。何も、辛く厳しい修行をしているっていう気持ちじゃなくて、楽しいからやっている、って感じ。なんだ、僕らと同じじゃないかっ!
でも、やっぱり、僕らに比べれば、はるかに厳しいトレーニングはしているようです。柳川さんなんか、小さいときに失明し、マラソンを始めたのは30歳過ぎなのに、それからトレーニングを重ね、世界のトップ級になってるんだもんなあ。
少し遅れて、今回、伴走を引き受けてくれる四国電力陸上競技部推薦の益田選手が登場した。益田選手は学生時代には箱根駅伝でアンカーを務めた事もある正真正銘の実力派ランナーであり、四国電力の陸上競技部の選手やコーチをやっていた。一昨年の丸亀マラソンでは、シドニーオリンピック後の初レースであった高橋尚子選手のガードも務めた。ちょうど1年前に退部し、今は松山支店に勤務しているが、もちろん今でも走っており、毎日トレーニングは続けている。
それにしても、彼らのような真面目なランナーの練習量は信じられない。
(柳川)「私もピークの頃は月に700kmくらい走ってたけど、最近は随分少なくなったなあ」
(福留)「私なんかも月500kmくらいですねえ」
(益田)「僕なんか月400kmくらいですよ」
(幹事長)「ぼ、ぼ、ぼ、僕なんて、月ごじゅっきろくらいっすかねぇ・・・」
取り組む姿勢があまりにも違いますね。
結局、益田選手は福留さんの伴走をする事になった。福留さんはマジで早いので、益田選手のようなレベルでないと伴走ができないのだ。また福留さんは「横で一緒に走ってくれればいい」とのことなので、伴走が初めての益田選手でもできる。
一方、柳川選手は直接手をつなぐか紐を持つかして伴走しなくてはならないので、慣れていないと難しい。しかも柳川さんは早いので、実力者でないと難しい。てことで、ベテランの藤本さんが引き受けることに。
さらに二宮さんは僕らと同じくらいのペースなので、例の男のマラソン仲間が引き受けることに。
(幹事長)「あんたは、なんでやらんの?」
(男)「いやあ、実は肋骨を痛めてしもうて。高橋尚子と一緒で練習のし過ぎやなあ」
たぶん、何か悪い事でもやっとったんやろな。
色々と立場は違うけど、みんなマラソン仲間ということで、予想外に話がはずみ、本当に面白い飲み会だった。世界が広がりました。明日はレースなので、あんまり深酒はやめましょう、なんて言いながら、二宮さんなんか「カラオケ行こう、カラオケっ!」なんて言いながら闇に消えていきました。大丈夫かいな?
-4- 情けないペンギンズ
ちょっと良い話は、ここまでで終わり。これからは、いつもの情けない話に戻ります。
JBMAの素晴らしい世界とうってかわって、我がペンギンズの状況は、と言うと、まことに情けない事態だ。何が情けないかと言うと、参加メンバーだ。かつては、ペンギンズ3大レースの1つとして、かなりの参加者がいたのだが、厳しい制限時間と厳しい気象条件のため、年々参加者が減っていき、今年はエントリー自体がハーフマラソン7人と5km1人の計8人しかおらず、おまけにF川は2週間前の満濃駅伝から出産休暇中だ。
(幹事長)「赤ちゃんは、もう生まれたんやから、なんの支障も無いと思うけどなあ」
(笹谷)「どう考えても、単なるサボりの言い訳ですな」
(幹事長)「そう言うあんたは?」
(笹谷)「いや、僕は、そういう言い訳なしで、堂々とサボりですっ!」
て事で、早くも2人も欠場者が出た。これは危機的状況じゃ。
さっそく職権乱用だ。
(幹事長)「えー、君たち。実は今度の日曜日に丸亀マラソンがある。これは誰でも出られる市民マラソンとは格が違い、出場できるのは大変な名誉である。
君たちのような素人が出場するのは普通は無理なのだが、今回、特別に、あなただけにご案内する特別キャンペーンです。
しかも参加費も、通常3千円かかるところ、なんと、今回、特別にご案内するあなただけは無料です。先着2名様限りなので、早い者順です。
気が変わらないうちに、さっそく申し込もう!」
(部下H)「えっ、今年も出るんですか。テレビ見てますわ」
(部下O)「いやあ、僕はええですわ。からだ重いし」
(部下H)[僕も手を怪我してますから遠慮しときます」
(幹事長)「ここで出たら、今年度の業績評定は抜群で、春から給料大幅アップやぞ」
ここまで餌をぶら下げても、誰も食いついてこない私の職場であった。
-5- 満足のレース
さて、いよいよレース当日の2003年2月2日(日)になった。
前日の天気予報では雨模様とのことだったが、朝になると雨の心配は消えたようだ。3年前のレースでは冷たい雨が降り、どうしてこんな辛い目をしなくちゃならないの?と恨み節で走ったが、今年は助かった。おまけに風もそよ風程度。2年前のレースは風が強く、制限時間ギリギリで生還したもんなあ。もしかして、今年はかなりコンディションがいいかも。なんて思って外へ出ると、げげ〜っ!ものすごく寒いっ!雨も風も無いけど、気温も無いっ!厳冬って感じ。
僅か5人しか出ないうえに、人が多いので、仲間に会える可能性は非常に小さかったのだが、なんと奇跡的に、あっという間にハーフマラソンに出る4人(幹事長、高知支部長、増田選手、佐竹石材店)が揃ってしまった。一体、これはどういう事なんだろう。
(幹事長)「あとは増田くんの上司の竹葉だけか」
(増田)「竹葉さんは今日は欠場と言うてましたよ」
(幹事長)「今日も、と言うた方が正確やな。あいつは最初から期待してない。ここ7年間で5回目の欠場やもんな」
ここまでサボり続けると、どう考えてもエントリーするのがもったいないと思うけどなあ。
(石材店)「幹事長!報告がありますっ!」
(幹事長)「ふむ。何かな?」
(石材店)「実は、わたくし、今年のパンフレットに写真で登場しましたっ!」
(幹事長)「なんとかーっ!それはすごいっ!どこやっ!」
(石材店)「ここですっ!!!」
(幹事長)「どこやっ!?」
(石材店)「ここですがなっ!」
(幹事長)「見えんぞ・・・」
(石材店)「・・・ここ・・・」
(幹事長)「ちっちゃ!よう見つけたなあ!」
(石材店)「こういうのは、必死で探しますからね」
(幹事長)「写ってるのが分かっていたら探すけど、写ってる可能性も小さいのに、よくもここまで探したなあ」
恐るべき石材店の執着心である。さすがは細かい作業が必要な石材店だ。
(増田)「幹事長がスポーツ紙に出た写真も似たようなもんですよ」
次に、当面のライバル高知支部長に探りを入れてみる。
(幹事長)「調子はどんなん?期待してないけど」
(支部長)「ふっ。高知市駅伝から絶好調を維持してますわ」
ふむ。しかし、実は、いまだかつて高知支部長には負けた事がない。F川には負けた事があるけど、なぜか高知支部長にだけは負けたことがないのだ。彼によれば、「いつも、あと少しのところで追いつけず、そのままズルズルと負けてしまう」のだそうだ。要注意ではあるが、ま、私の敵ではないだろう。
増田選手は、たいていの場合は僕は負けるのだけど、去年のレースは勝った。先日の満濃駅伝でも、彼のタイムは僕よりだいぶ悪かった。もしかして、今年も勝てるかもしれない。
しばらくして5kmの部に出る福家さんにもバッタリ会った。今日は本当に不思議だ。
少しはウォーミングアップしようか、という意見も出たけど、石材店以外は、あまりの寒さにちぢみこんでしまい、控え室で暖を取り続ける。
(増田)「最近は練習もせんと、スノボーばっかり行ってるってのは本当ですか?」
(幹事長)「うん。ついつい楽しい方に流れてしまって。人間弱いものよのう。でも増田くんは今月末のフルマラソンに備えてトレーニングしてるんやろ?」
(増田)「まあ、でも、なんとなく走れそうな気がしてきて、あんまり走ってませんけどね。
ところで、パンフレットに載っている招待選手ですけど、天満屋の山本奈美枝選手って、可愛いですよ」
(幹事長)「あっ、そやろ?僕もそう思う。マラソン選手らしい厳しさとか感じられない優しさ溢れる可愛い子やねえ」
(支部長)「みんな、よう見てますなあ」
(幹事長)「僕、資生堂の尾崎朱美選手もごっつぅ可愛いと思うんやけど」
(増田)「うわ、ほんとですねっ!この子も可愛い」
(幹事長)「やっぱり資生堂ともなると、不細工な子が走ってたら宣伝にならんもんなあ」
(増田)「ちゅうことは資生堂の選手はみんな可愛いって事ですね!」
なんてウダウダと世間話に花を咲かせていたら、あっという間にスタート時間がきて、慌てて集合する。
雨風がないうえ、なんと晴れ間さえ見えてきて、本当に良いお天気になってきた。
ピストルの音と共に一斉に駆けだし、丸亀国際オリンピック記念競技場を1周して外へ出る。沿道にはおよそ420万人の人が声援を送っていると言う。
(増田)「四国の全住民が来とんですかっ!」
緊張感無く走っていると、つい普段の練習のような気持ちになってしまい、ものすごくペースが遅い事に気づく。これではいかん、と思い直し、ペースをあげる。あんまり練習できてないのに前半から飛ばすと、後半でガクッとペースダウンするのは目に見えているが、ちょっとは勝負せんとな。
しばらく行くと、全盲の二宮さんが、例の男の仲間2人に両脇をガードされる形で走っているのを追い越す。他のランナーとぶつからないように走るのは、やはり難しそうだ。
今年はコンディションが良くて気持ちも良いので、心に余裕があり、沿道の人を見ながら走っていると、昔の上司を見つけて、こっちから声をかけたりする。さらに、「たまにはお父ちゃんの応援でもせんかいっ!」って叱りつけたせいで、珍しく下の娘も応援に出てきている。良い心がけじゃ。
5km地点で時計を見ると、スタート時の1〜2分のロスを考慮すれば、まあまあのペース。このままいけば、悪くない。焦りも無く、ペースをキープして走っていく。こういう時は走る事自体が楽しい。ほんまですよ。
10km地点が近づいてくると、早くもトップ集団が折り返してくるのにすれ違う。トップはケニア人のガソ選手(コニカ)だ。ものすごく早い。信じられないようなペースだ。足が長くて飛ぶように走っていく。自分の足を見ると、まるで歩いているように感じられる。本当に幅広い選手層を誇るレースやなあ。
トップから大幅に遅れて第二集団がついていく。どう見ても、逆転はあり得ない差がついていた。
それから女子のトップ集団もすれ違う。資生堂の尾崎朱美選手が歯を食いしばりながら女子の3位で走っていくのが見えた。可愛い子が歯を食いしばっているのは、本当に可愛い。去年は四国電力陸上競技部の真鍋裕子選手が歯を食いしばって2位で走っていくのにすれ違ったけど、あの姿も可愛かったなあ。
なんて不純な気持ちで走っていくと、今年も何人もの知人が声をかけてくれる。僕も彼らから見れば真剣に走っているように見えるのだろうか。
それから益田選手に伴走された福留さんが走っていく。やはり早いなあ。
さらに、柳川さんも走っていく。伴走は藤本さんの指導を受けたゴッツィルさんだ。彼は県の国際交流員のアメリカ人で、走るのが早いので伴走に挑戦したそうだ。
10km地点のラップも最初の5kmと同じくらいだった。スタート時のロスが無いだけ、少し遅くなっているけど、それでもそんなに悪くはないペース。後半のバテバテは怖いけど、もう少し勝負に出るかどうか、迷っていたら、さっそく足が痛くなってきた。やはり練習不足は隠せない。まずいなあ、と思っていたが、それほど悪化はしない。行けるとこまで行こう、ってことでペースをキープして行く。
すると、横を増田くんがスルスルと抜いていく。ぬぬっ。まずい。彼がペースアップしたとも思えないので、やはり僕がペースダウンしているのか。まずい。ここは頑張らねば、って感じで、彼に引き離されないように頑張ってついていく。
折り返し地点が来たので、後ろのランナーとすれ違いながら高知支部長を探すが、見つからなかった。なぜかいつも見つからない高知支部長だが、もしかして、どこかの関門で回収されたのじゃないか心配になってくる。去年の塩江マラソンで救護車に回収されて以来、回収される事に抵抗を感じなくなっていることだし。
折り返して10km地点をすれ違う時に、ちょうど10km地点での回収時間が来て、遅いランナーが一斉に回収されているのを見ていると、なんと二宮さんが、あと少しのところで回収されてしまった。なんと厳しい。せっかく京都からわざわざ来た盲目ランナーなのに、大目に見てあげて欲しかったけど、勝負の世界は無情なのね。
足の痛みもなんとか持ちこたえて走り続けるが、15km地点のラップはさらに少しだけ落ちている。自己ベストが出るかどうか、かなり厳しくなってきた。しかし、ここで安全策を取ったところで得るものは何も無い、っていうか、失うものは何もない。増田くんの後ろ姿も、まだ見えている。もう勝負しかない、ってことでラスト3kmあたりから残っている力を振り絞って全力で走る。すると、20km地点のラップは信じられないようなタイムになっている。もしかして奇跡が起きるかも、なんて思ったけど、無理がたたって、最後の1kmが無茶苦茶ペースダウンしてしまい、増田くんの姿も遠のき、結局、平凡なタイムに終わってしまった。それでも練習不足の割には、満足のいく走りであった。相変わらず天気は良く、丸亀国際ワールドカップ記念スタジアムの芝生の上に寝っ転がっていると、本当に気持ちよかった。
例年のように、圧倒的早さで真っ先にゴールしてスタンドから声援を送ってくれた石材店は、去年より少しだけタイムを落とした。去年は「ハーフマラソンで1時間半を切ったら除名」という掟に引っかかってしまい、取りあえず執行猶予期間中だったが、今年はかろうじてクリアし、首がつながった。
左から増田選手、幹事長、支部長、石材店
(支部長は迂闊にも荷物を預けてしまったので、寒いのに着るものが無い)
高知支部長はまだかいな、って待ってたけど、いつまで経っても帰ってこないので、ほんまに回収されたのかなあ、と心配していると、涼しい顔をして歩いている。
(幹事長)「まさか、また回収されたん?」
(支部長)「何を言よんですか。今年はいいタイムでしたよ」
(幹事長)「えっ?なんやって?」
なんと、支部長は僕より先にゴールしていたのだった!彼は前半から驚異的なペースで飛ばしたらしく、それで姿が見えなかったのだ。15km辺りまで信じられないハイペースだったらしい。さすがに、そこからガクッと一気にペースダウンし、競技場に戻ってくる手前で増田くんに抜かれたらしい。なんと。それなら、僕も頑張って最後までペースが落ちなければ抜けていたのかも。がーん。高知支部長に初めて負けた悔しさを晴らすかのごとく、うどんを思いっきりすする私だった。
うどんを食べて気持ちも落ち着いたところで、JBMAの連中に会いに行く。
(幹事長)「福留さん、どうでした?天気が良かったからタイムも良かったんじゃないですか?」
(福留)「いやあ、練習不足だったので、いまいちでしたねえ」
この季節、鳥取は雪が多いので、練習で走るのもひと苦労なのでした。それでも、当初の予定通り1時間17分台のタイムだった。立派なものです。伴走した益田選手もご苦労様でした。今回は、本当にありがとうございました。
柳川さんも慣れない伴走者を引っ張って、快走できたようです。新聞にも載ってました。
左が柳川さん
今年のレースは、自分のタイムは平凡なものだったけど、新しい世界を知ることもできたし、本当に良かったなあ、って思います。
家に帰り、今年も夕方のテレビ放映を見る。男子はガソ選手の圧勝だったため、途中から面白くなくなったからか、ほとんど写らない。男子の2位以下なんて、まるで無視状態。代わりに女子選手ばかり写る。終盤までトップ争いをしていた2人だけでなく、3位の資生堂の尾崎朱美選手も写る。まあしかし、ガソ選手は特別としても、みんなすごいスピードで最後まで走ることよ。こんな人と同じレースで走れるっていうのも、なかなか楽しいことですね。
さて、翌日、会社へ行くと、部下が心配そうに言う。
(部下H)「昨日は大丈夫でしたか?」
(幹事長)「大丈夫って、何が?」
(部下O)「昨日のマラソンで、死者が出てましたよ」
(幹事長)「なんやてーっ!?」
さっそく四国新聞をチェックすると、5kmの部に出た72歳のじいさんがスタート直後に倒れ、心筋梗塞で死んだとのこと。恐ろしいことじゃ。しかしまあ、マラソンで死ぬから話題になるが、ゴルフしてて死ぬ人も多いけど、新聞には載らないわな。スポーツ中の突然死で一番多いのはゴルフだけど、これは年寄りがするスポーツで一番多いからであり、特にゴルフが体に悪いからではない。同様に、マラソンが特に体に悪いわけでもない。もちろん、走ったこともない人がいきなりマラソンしたら死ぬ確率も高くなるだろうけど、マラソンやってる人は普通の人よりは丈夫だろうから、そう簡単に死ぬとも思えない。ま、風呂に入ってても布団で寝ていても、心筋梗塞や脳溢血は突然やってくるものだし、しょうがないわな。寝たきりで何年も入院するより、マラソンで突然死した方が、本人も家族も、よほどラッキーだよな。
〜おしまい〜
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