100文字で書いた小説です。

インスタント・ダイ


【陽気な墓】


ルーマニアには陽気な墓がある。

美しいレリーフと詩が特徴の木製の青い墓だ。



夕暮れ時一人の青年が墓に来た。

恋人の好きだった林檎を持って。

青年は憔悴しきった顔で墓の前に膝を付いた。



愛する人よ僕を迎えに来て!





【涙ながらに】



後ろで雑草を踏む音がした。


またここにいたのか…

男が言う。

優雅なしかし居丈高な声で。

青年は振り返らず、拳を握った。

林檎と枯草の匂いがした。

彼は掠れた小声をはきだした。



後生だから…

僕を殺してはくれないか?





【吸血鬼】



瞬間チクリとした。

首に男の吐息がかかる。

逆流する血液!

爆発する鼓動!

足元からジワジワと這い上がり、脳天を突き抜ける快楽!

青年の体から力が抜け、男は彼を抱きとめ墓を嘲笑って見た。

青年の呼吸が消えていく…





【死】



青年の心臓は止まった。

瞳孔が開いていた。

男は墓の前に腰を下ろし、青年を膝に乗せた。



これで満足か?

明らかな呆れを滲ませて。


青年は睫を震わせ目を開けた。

心臓が止まっているにも、血が奪われたのにも関わらず!




【相棒】



男は青年の髪を撫でると立ち上がった。



僕を殺してくれ…

殺しただろう?

そうじゃない!


決して死ねぬ身と知りながら、青年は死を渇望する。

男は笑った。

俺がお前を手放す訳がないだろう?

狩に行くぞ!

心臓を動かせ!