100文字で書いた小説です。

オセロ



【しろ】



 

俺のガキの頃の夢は消防士になる事だった。

持っていたミニカーの中で一番格好良かったし、近所に消防署があった影響で憧れてたんだ。

意外だろ?

こんな俺でも可愛い頃はあったんだよ。

今は刺青なんか入れてるけどさ。

 

 

【くろ】



 

思えば全ての敗因は大学に行った事かもしれない。

高校まで実家にいたからさ、一人暮らしで羽目を外しすぎたんだ。

四年間遊びまくった。

付き合ってた女が妊娠しては別れた。

最低な奴だった…今ならそうわかるけどさ…

 

 

【くろ】



 

俺は根拠のない自信に自惚れていた。

自分を過信しすぎていた。

だから不貞腐れてはすぐに仕事を辞めた。

正当に評価してくれないなら、次の所にいきゃいいって思ってた。

頭を下げるのも、命令されるのも嫌だったんだ。

 

 

【くろ】



 

腐れ縁のダチとさ、記憶がブッ飛ぶまで呑んで、怒鳴って暴れて鬱憤を晴らしてた。

 

やがてそいつは故郷に帰ったけど、俺は貯金で食い繋ぎながら何とか生きてた。

今更実家になんか帰れるか。

こんな姿を見せれるとでも…

 

 

【くろ】



 

女を捕まえては家に転がり込んで…

そんな生活も続く訳がない。

何度か働きにも行ったが、俺…こんなに使えない奴だった何て知らなかった。

 

自信は粉々に打ち砕かれた。

家も追い出され行く所なんかありはしねぇ。

 

 

【くろ】



 

なぁ教えてくれよ!

何が悪かったんだよ!

 

高校までは順調だったんだぜ?

自分の将来を疑いもせず、希望に溢れてた。

両親も必死に働いて大学に行かせてくれたのに!

 

今の俺はホームレスなんだ。

こんな未来になるなんて…

 

 

【くろ】



 

爪も髭も伸び放題。

体は垢で真っ黒。

これが今の俺だ。

どうする事もできず、ここから抜け出す事もできない。

ただ惰性で生きている。

他の奴らも似たり寄ったりだ。

目は膜が張った様に虚ろで、怒りと恨みに満ちていた。

 

 

【し 】



 

そんな時小奇麗な男が来た。

誰かを探しているのか周りを見回している。

あれは…

昔の仲間?

ショックだった!

逃げようとしたが足が動かなかった。

俺は背を向け息を潜めた。

 

足音が真後ろで止まる。

 

男が俺に声をかけた。

 


2010.7.2