「ドーモーッス!!」

赤毛のその子は、私達を見るなり勢い良く腕を伸ばして、元気良くそう言った。

 

真っ白なおもちゃのようなボートには、二人の子供がちょこんと乗っていた。

ヴァイキング風の、角が二つ付いた帽子を可愛くアレンジしたものを被った赤毛の子供は、女の子だろうか……?

帽子から覗く髪は思い切ったベリーショートで、元気良くピンピンと飛び跳ねている。

歳は12歳くらいかな?

元気いっぱいで、琥珀色の目に宿った好奇心を隠そうともせず、キラキラと輝かせている。

愛嬌のあるそばかすだらけの顔に、痩せて長い手足。毛皮の付いたまるで中世のような衣装をいている。

「ジャック……」

私はどう反応していいのかわからず、後ろからジャックのコートを引っ張って小声で彼の名を呼んだ。

多分、だけど。この子達も人間じゃあないんだろう。

精霊やなんかの類だったら、一つ対応を間違えたら痛い目にあう。(って、ジャックから口がすっぱくなるほど言われた)

挨拶した方がいいのかな? でも何が彼らの逆鱗に触れるかわからないし……。

困ってジャックの後ろから、二人の子供を交互に見ていると、赤毛の女の子の後ろに控える、眼帯の男の子と目があった。

思わずびくりと肩が飛び跳ね、慌てて内心の動揺をごまかすようにヘラリと笑ってみる。

青い髪の男の子は、それを見て私に敵意がないと思ったのか、ふいと視線を反らし、私はほっと息をついた。

うう、やっぱりここはジャックに任せて私は大人しくしていよう!

私は彼らのやり取りを見守ることにした。

 

波は穏やか、熱気を含んだ風は相変わらずさわさわと服を揺らしてくる。

 

ジャックは相変わらずの無表情で、二人を見下ろすと、

「海賊船 『ドクロの自由号』 の船長はお前か?」

居丈高にそう言った。

えええ!? ちょ、ちょっと! ジャックさん!

私には何となく、あなたが悪気があってそういう態度を取ってるんじゃないってわかるけど、初対面の子供にそれは誤解されるんじゃ……。

本人は大いに普通に接しているつもりなんだろうけど。長身と強面もあいまって、ジャックは見る人に威圧感を与える。

私は内心大いに焦って、二人の子供を交互に見たが、二人は大して気にした様子もなく、少女はさも当然と言うようにあっけらかんとジャックに是と言っていた。

えええ。

さすが小さいとはいえ海賊と言うか……二人の度胸に驚いて――というか、それでいいのか、と三人のやり取りに僅かに引いてしまう。

女の子はハスキーな声で楽しそうにジャックの問いにはきはきと答え、男の子は黙ってそのやり取りを聞いていた。

「……」

なんだかそれを見ていると、蚊帳の外にいるみたいでツマラナイ。

大事な話なんだろうってわかっているから、口も挟めないしね。

私はジャックの影からそっと顔を出して、二人を観察してみた。

眼帯の男の子は、女の子よりもちょっとだけ年上に見える。

二人は北のほうから来たのかな?

女の子の方はマントを着ているし、男の子は革でできたロングコートを着て、刺繍のたくさん入ったフォークロアな感じのベルトを上から巻いている。

二人がはいているのは、毛皮の付いたブーツだ。

私は二人を交互に見て、何て似ているけど対照的な二人だろうと感心した。

おしゃべりが好きで元気いっぱいのおてんばな船長に比べて、寡黙で用心深そうな男の子。

髪の色も、船長の赤毛に対して、青と対照的だ。

二人とも鮮やかな綺麗な髪の色をしているのに、帽子やターバン(?)で隠しているのがもったいない。

私は、男の子の額に巻かれた、長く垂れ下がる色とりどりの布を見てそっとため息をついた。

見れば見るほど異国情緒のあふれる二人だ。

男の子は櫂を握り緊めて、胡坐をかいた片膝を立てて、口元に子供らしからぬ少し皮肉気な笑みを浮かべて、ジャックと船長のやり取りを見守っている。

私はまたそっと感嘆の息をついた。

海賊団がこんな子供だったなんて!

彼らが、ジャックも知らない『この世の果て』の行き方を知っているなんて!

何だか本当に、御伽噺の中に組み込まれてしまったみたいだ。

いつの間にか緊張は形を潜め、次第にまたわくわくしてきた。

ああ、早くあの船に乗ってみたい!

うずうずしていると、男の子の油断なく光る琥珀色の目とぶつかった。

今度はもう怖くないもんね!

とりあえずにっこりと笑ってみる。

すると彼は、一瞬驚いたような顔をして、それから顔をくしゃくしゃにして白い葉を見せて笑ってくれた。

さ、爽やかだわ!

今までジャックと二人だけでいたせいか、その爽やかさが際立って眩しく見える!

癒されるわー……。

こんな海賊団となら上手くやっていけそうな気がする!

ジャックもジャックで、船長となにやら話が付いたんだろう。(全然聞いてなかったけど)

始終真面目な顔でやり取りしていた彼は、ふぅっと息を吐くと、後ろでにやけている私に気づいて、ぎょっとしたように片眉を跳ね上げた。

何よ。

そんなんだから、可愛げがないって言うのよ!

私はまたむぅっとすると、物言いたそうなジャックを見上げて、

「話は終わったの?」

腰に手を当ててそう言った。

 

 

  

 

 

2005.6.27

2010.6.15