それから、私たちの奇妙な共同生活が始まった。

ジャックは(この間さん付けで呼んだら、ものすごく嫌そうな顔をされたので、今はこう呼んでいる)タバコは吸えるくせに、食事は別に必要ではないらしく、この前家族が寝静まった後こっそり持って行ってあげたら、微妙な顔で

「俺はお前のペットか?」

なんて嫌味と共に拒否されてしまった。(ご飯にお箸を挿して持っていったのがまずかったのだろうか?  でもご霊前? にお供えするご飯ってこういうイメージなんだけど)

でも、まぁ……食事がいらないなら、こちらも家族に怪しまれなくていいから楽なんだけど。

いつまでこの状態が続くんだろう?

期待していた非日常的な事件は何一つとして起こらず、いつもと代わりの無い毎日が続いている。

ジャックは相変わらず私の部屋に居候しているから、当然現在引きこもり中の私は、彼と四六時中一緒にいるわけで……。

 

私は、いきなり大音量で鳴り響いたCDに驚いて、ぱちりと目を開けた。

朝8時――。

なんでこんな時間にいきなりCDが鳴り出すの!?

せっかくの無職だからと昼過ぎまで寝ている私が、目覚ましなんてセットするはずが無い。

じゃあ、この音何!?

安眠を邪魔され、むくむくと怒りがわいてくる。

ああ、もう! 目覚め最悪!

苛々しながら、それでも往生際悪く寝転んだまま手探りでボリュームを下げようと手を伸ばした瞬間、誰かが視界に飛び込んできた!

「あ――!」

「……やっと起きたか……」

「ジャック!?」

そうだった!

部屋にはこいつがいたんだった!

見れば、ジャックがCDコンポの横に立って、呆れたような顔で私を見下ろしている。

またジャックの悪戯か……!

私は口元をひくひくと引きつらせながら、涼しい顔で腕を組んでいるジャックに舌打ちした。

こいつは!

これで悪戯をされたのは、何度目だろう!

彼はいい年をして、私がかまってやらないと、猫のようにかまって攻撃を仕掛けてくるのだ。

「もう……本当、いい加減にしてよね……」

私はげんなりとした顔でつぶやいた。

朝っぱらからものすごく疲れた気がする。

この間は何だったっけ?

ああ、そうだ。

寝ていたら布団の上に座られて、金縛り攻撃を受けたんだ。

おかげでこっちは折角の無職なのに、妙に規則正しい生活を最近送ってるわよ!

昨日だって――

あれ?

昨日、私……どうしたんだっけ?

やばい。昨日の記憶がはっきりしない。

ジャックと夜遅くまで話し込んでいたのは覚えている。

もっともしゃべっていたのは、もっぱら私の方だったけど。

ジャックは律儀に相槌を打って話を聞いてくれて、気を良くした私はすっかりと彼に気を許して(無理やり)ビールで乾杯して、肩を組んで話し込んだんだ。

それから――。

何だか……今までたまりにたまった愚痴を零して、散々ジャックに絡んだ気がする……ような……。

ス、と顔から血の気が引いた。

ていうか、肩を組んで悪霊とビールを乾杯している時点でおかしいよね!

何してんのよ! 私ッ!

一気に目が覚めた私は、ギギギ、と音がしそうな感じで首を回すと、恐る恐るジャックを上目遣いに見た。

……心なしかヤツレテマセンカ? ジャックさん……。

「あのー……非情に申し訳ないのですが……な、何だか昨日、とても申し訳ないことをした気が……」

「――ああ」

やっぱり!?

静かに視線を反らして、青い顔をするジャックに私は思い切り凹んで、ぱたりとベッドに倒れこんで枕に顔をうずめた。

「カッコわるー……私……」

泥酔して人に絡むなんて、大学のとき以来だわよ!

「……別に今更取り繕わなくても……」

「何ですって!?」

「いや……」

今コイツ、聞き捨てならいこと、ぼそりって言ったよね!

「そういや……アンタ、ずっと私のこと見てきたって……」

ちょ!

なんか変な汗が出てきた!

「アンタ私のこと見てきたとかって、一体何を見てたわけ!? いつから! 一日中? ストーカー!」

「失敬な」

「いや、失敬なのはそっちでしょッ!」

着替えとか入浴中とか、見られてたらどうしよう!

他にも、もちろん色々見られたくないことはたくさんある!

「へ……変態ッ!」

あ、ジャックの眉がピクリと上がった。

思い切り渋面を作る彼から、じりじりと距離を開けるように後ずさると、私たちはお互いに無言になって、気まずい雰囲気が漂った。

な、なによ! これって私が悪いんじゃないよね!?

 

 

  

 

2005.5.18

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