別れの言葉

 

※ビエロ・流血表現注意

 

牡丹は、を自らの血で飼っている。

は元が人間だったため、普通の食事も必要だったが。呪術の源となるのは、主人である牡丹の血だった。

「ん、はァ……」

深く唇を合わせて。

貪欲に口内で動くの舌を感じながら、牡丹は彼女に自らの血を飲ませる。

暗い室内に響く、欲を誘う水音。

彼女の細い腕を支えて、長い髪に指を絡めるようにして、口付けを――否、餌付けをする。

鬼になってから、は夜行性になった。

太陽の光に弱い、と言うわけではなかったが。

闇の方が力を発揮しやすいようだ。

狂おしく、もっとと強請るように細い腕を首に絡ませ、深く口付ける。

主人の頭を抱えるように、深く深く口内を舌でまさぐって――腕に力をこめる。

 

「離せ。

ややあって、息継ぎの合間に牡丹が言うと。

もっと、と血を欲しては離れかけた牡丹の唇を舐める。

「命令だ」

その言葉に渋々は腕に力を抜くと、恨みがましく牡丹を下から見上げた。

 

項にかかる乱れた長い黒髪。

上気した頬。

牡丹の血を飲んで力を得たのであろう。は酔ったように目をトロンとさせている。

潤んだ大きな瞳の子どもの鬼。

彼女はこれからどのような鬼に育つのか。

牡丹は目を細めて、細い指での腰紐を引っ張った。

「あ」

白い肌をすべるように赤い襦袢が流れ落ちる。

一瞬は狼狽したように身を強張らせたが、牡丹にされるがままじっと大人しく座っていた。

 

大人と子どもの狭間の――小さな胸のふくらみ。

左の胸に残る、赤い刃の痕。

自分と彼女を繋ぐ見えない鎖。

彼女の隷属の証。

 

これから力を付けるたびに、彼女の体には術式である刺青が増えていくことだろう。

「今度こそ我らが手に――」

名誉を。恩寵を。

大きな掌で大事そうにの首筋を撫でると、まだ刺青のない白い肌を見て、牡丹はチロリと唇を舐めた。

開け放した障子の向こうには、大きな満月がかかり。

畳の上に、青白い光を反射させている。

 

どこか陶然とした表情を浮かべるは――

愛らしく恐ろしい人形のようだった。

。私の鬼……」

牡丹はの左胸の傷跡に指を這わせると、甘い声で囁いた。

 

もっともっと美しくおなり。

もっともっと強くおなり。

 

そして私に。

全てをもたらせ――

 

赤い赤い傷跡。

それは彼女が人間であった自分に別れを告げた。声無き別れの言葉。

 

2006.12.15