白輝の都に戻ったラピス達は隠れるようにラズリを隊商宿に連れ込んで一晩過ぎた。

ラズリはとりあえず寝かせてみたが天井を見つめたままぴくりとも動かない。

ラピスがずっと付き添って色々と話しかけてみたが反応はなかった…

ザビエラとアイスとアクアとマリンが部屋に入ってきた。

「ラピス、ラズリの様子はどうじゃ?」

「ずっとこんな感じ…もう元に戻らないのかな…」

ラピスは疲れ果てた声でザビエラに答えた。

「そんなわけないじゃろ、絶対もとにもどるにきまっとる!」

「兄貴も少し休めよ、昨日からほとんど寝てないだろ」

「姉様は私とアクアがみてるから休んでください」

「ありがとう…でも大丈夫だから心配しないで…」

「いいから休めっておれも残ってみててやるから」

ラピスはやや強引にザビエラと部屋から押し出された。

「…所で他の皆はどこに行ったの?」

「たしかルセアはヘリヤと一緒に買い出しじゃ、

アルとジイドとバリーゥはここから離れるために入れてくれる隊商を探しておる。

カマルとヤシュムは別に用事があるとか言っとったんじゃがよく分からん」

「ただいま…」

そこにカマルとヤシュムが帰ってきた。ヤシュムはいつも通りだが、カマルは険しい表情をしていた。

「おお、おかえりどこにいっとったん?」

「…人さらい…探してた…」

「…なんとか生け捕りにして、ラズリに使った魔道具の事を聞き出そうと思ったんだが…」

ヤシュムがあまりに口足らずなのでカマルが補足した。

「それで、どうだったんですか?」

「とりあえず…あいつらの…アジトに…行ってみたけど…ざんさ…」

「残念だが、アジトはもぬけの殻だった。手がかりもないし、もう探しようがない」

カマルはヤシュムの言葉を遮って話を打ち切った。

「それよりラズリの様子はどうだ?」

ラピスは静かに首を横に振った。

「そうか…とにかく今はここから離れる事を優先しよう。
 お前達は確か白砂の港に帰る予定だったな」

「はい、ラズリも連れて帰るつもりです」

「ついていかなくてもいいのか?」

「はい、バリーゥさんがついていますし、力になってくれそうな方にあてがありますから」

「それならいいんだが…」

「本当に色々とありがとうございました」

ルセアとヘリヤが帰ってきた。二人とも両手に荷物を抱えている。

「ただいまー」

「帰ってきたか、必要な者は揃ったか?」

「うん、だいたい揃ったんだけど…」

「塩を買おうと思ったのだけど、やっぱり高くて買えなかったわ」

「お前ら…あんな目に遭ってよく懲りないな…」

「それは…ほら料理人の性っていうかなんというか…」

ルセアはなんとかごまかそうと説得力のない言い訳を始めた。

「それでまたさらわれたりしたら面倒なことになるだろ」

「そしたらまたカマルに助けてもらうから大丈夫」

「そういう問題じゃないだろ!」

のんきなルセアにカマルがいらついていると、ジイドとアルが帰ってきた。

「おかえりー良さそうな隊商見つかった?」

「おう、それなりに信用できるとこに入れてもらえる事になった」

「すごい、アルさんって頼りになるんだね」

「っておい、俺は無視かよ!」

「バリーゥはどうしたんじゃ、一緒にいたはずじゃろう?」

「あのお付きの女ならここに来る途中で別れたぞ」

「ああ、青色の鳥が飛んできたと思ったら、用事ができたと行ってすごい勢いで飛んで行った。」

「青い…鳥」

「叔母さん、何か気になることでもあるの?」

その時出入り口の戸が勢いよく開いた。

そして現れたのはバリーゥとここにはいないはずの…

ラリマーとモリオンだった、その後ろには何人か神官が付いてきていた。

「母さん!? それに父さんも!? 何でこんなところに…しかも巫女の正装で」

「実は私がラリマー様と連絡を取っていて今回の件をお伝えしたところ
 直接ご挨拶したいと言うことでお連れしました」

「いやそうじゃなくて…」

困惑するラピスの質問にバリーゥは淡々と答えた。

「アイス様の姿が見えませんが…」

「奥でラズリを見てもらってる…連れてくるからちょっと待ってて…」

ラピスはアイスを呼びに行くと、すぐにアイスがやってきた。

「ラピスの父さんと母さんがおれに何のようなんだ」

「あら、ラピスから聞いてないの?」

「それが何か色々考え込んでたみたいであまり詳しい話は聞けなかったんだ。
 今も頭の整理がしたいって言って奥に残ってる」

その時バリーゥがこほんと咳払いをして話し始めた。

「皆様お集まりになられたようですので、ラリマー様どうぞ前へ」

バリーゥに促されラリマーは前に進み出た。

「皆様この度はラズリの捜索及び救出において、
 自らが危機にさらされるにも関わらずラズリのために力を貸してくれました。
 よってこの功績をたたえ深い感謝の意を示します」

ラリマーは普段なら絶対に言いそうにない口上を述べだした。

「おい、あいつ本物か? 隊商にいたときとはまるで別人だぞ」

「…俺に聞くな、そういうこと言ってるとあいつにどんな目に遭わされるか分からねえぞ」

「あいつ…げっ」

ジイドはアルに耳打ちしていたがヤシュムにじっと見られていると気付いて目をそらした。

そんなやりとりをしていると、後ろに控えていたモリオンが袋を持って前に出てきた。

そしてザビエラの前に立って袋を差し出した。

「わしにくれるんか?」

モリオンは頷いて袋をザビエラに渡した。

「ありがとう、何がはいっとるんじゃろな」

ザビエラが袋を開けると中には金貨がぎっしりと詰められていた。

「おおー、重い…」

「こんなにもらっていいのか!?」

「凄い、皆で分けてもかなりの額だよ!」

「いちいち騒ぐなめんどくさい」

モリオンはざわつく周囲を気にとめる様子もなく、

今度はアイスの前に立ってザビエラに渡したのと同じ袋を差し出した。

「えええ!? 俺にも!?」

「って事はもしかして私たちにも…」

「気前よすぎだろ…」

「あれだけあればしばらく遊んで暮らせるな」

「俺に金を返すのが先だろ…」

その後もモリオンは袋を一つずつ渡していった。

そしてジイドの番になったとき…

ジイドを素通りしてアルに二袋差し出した。

「ちょっと待て! 何で俺にはなくてこいつに二つ渡すんだよ!?」

ジイドの抗議にずっと黙っていたモリオンが口を開いた。

「お前はまだこの男に借金を返せていないんだろ? だから肩代わりしてやるということだ」

「なるほどな、そういうことならちゃんと受け取っとくよ。お前もちゃんと感謝しとけよ」

「借金を返せたんだからよかったじゃない」

「ふ、ふざけんなー!」





ジイドの理不尽な叫び声が響き渡った頃、ラピスはラズリの枕元に座ってうつむいていた。

「親父もお袋も勝手だよな、神殿の仕事で動けないとか言ってたくせに…」

「それでも心配だったんだと思うよ、ね、兄様」

「…」

ラピスは何か考え込んでいるようで、マリンの呼びかけに応えずに黙り込んでいた。

「兄様?」

「え?」

「ヒィ!」

ようやく気付いたラピスが顔を上げるとマリンが驚いて小さな悲鳴を上げた。

「どうしたんだよ兄貴、そんな怖い顔をして」

「…ごめん、今までのことを考えてたら頭がいっぱいになって…」

「兄貴が気にすることじゃないだろ」

「姉様だって危険なことだって分かってたはずです」

アクアとマリンの励ましもラピスには効果がないらしくラピスはまたうつむいてしまった…

そのとき…

「うーん…あれ? ここどこ? …わたしがもう一人いる!?」

ラズリが自分の意思で起き上がって喋っていた…

「姉様!?」

「姉貴、おれたちが誰か分かるか?」

「ごめん分からない!」

「嘘だろ!? 姉貴!」

「姉様ひどいです…」

混乱しているラズリにアクアとマリンはすがりついた。

「…もしかしてアクアとマリン? 大きくなってて気付かなかったよ。

 じゃあ、そっちのわたしは…お兄ちゃん?」

ラズリはラピスに話しかけたがラピスは固まってしまったかのように動かない…

と思えば、ポロポロと涙をこぼしてラズリに抱きついた。

「…目が覚めたんだね! よかった…本当によかった…!」

「お、お兄ちゃん…苦しい…」

ラピスの力が強すぎてラズリが苦しんでいるがラピスは全く気付いていない…

「ラズリちゃん!」

騒ぎを聞きつけたのかラリマーが部屋に押し入ってきた。

「ラリマー様! ラズリ様を助けてくださった方たちに直接お礼が言いたいと言うから特別に許可を出したんですよ!
 最後までちゃんとしてください!」

「バリーゥちゃんから全部聞いたわ、どこか痛いところはない?」

付いてきた神官が必死にラリマーを止めようとしているが、ラリマーは気付いていない。

「親分目が覚めたんか!」

「ラズリちゃん…本当によかった…」

「え? え? 何で皆いるの? っていうかここどこ!?」

周りが喜んだり泣いたりしている中ラズリは状況が全く理解できず狼狽えていた…





「…と言うことになってたんだけど、本当に覚えてないの?」

「ごめん、変なおじいさんに首輪をつけられそうになったとこまではうっすら覚えてるんだけど…」

「まあ、目が覚めたんならよかったじゃねえか。これで俺たちも後腐れなく出発できるしな」

「え? 出発って?」

「私たちはもうすぐナヴィードさんの隊商に戻るためにここを離れるんです」

「じゃあわたしも…」

「あなたはラピスたちと白砂の港に帰る事になってるわ」

「親分のいない間はのことは親分の右腕のわしがちゃんとやっとくから、親分は安心して帰るんじゃ」

「右腕…ってなんでそのことを…それよりもわたしも隊商に…」

ラズリは慌てて立ち上がろうとするがラリマーに止められた。

「お母さん離して!」

「もう絶対に離さない」

「今更付いてくるって言われても面倒なだけだ、親孝行するつもりで帰ってやれ」

「おい、そろそろ時間だぞ」

「ちょっと待って…」

ラズリが止めるのも虚しく、皆それぞれ別れの挨拶と共に隊商宿から去って行った…

「みんな行っちゃった…」

「ぼくたちももうすぐ出発するよ」

「はい…」

ラズリは諦めたらしく大人しく返事した。

「それと、帰ったら色々と聞きたいことがあるから」

「聞きたいこと?」

「アクアとマリンに手紙で色々と吹き込んでいた事とかね」

ラピスはそう言ってラズリの肩に手を置いた。

「え、えーとそれはその…」

ラズリは一気に青ざめて冷や汗をかいて眼が泳ぎだした。

「じっくりと聞かせてもらうからね」

「…ごめんなさーい!」

部屋にラズリの謝罪の言葉が響き渡った。





一方その頃カマルたちは白輝の都から出発する隊商に入れてもらう手続きをしていた。

「ねえカマル、ラズリちゃんを置いてきて本当によかったのかな…」

「あれでいい。ああでもしないとあいつは里帰りなんかしないだろ」

「親分がいない間はわしが他の子分達を守るんじゃ!」

「右腕とか参謀とかいう話本当に信じてるのか…」

心配するルセアにカマルは淡々と答え、やたらと張り切るザビエラにアイスは呆れていた。

「あれだけくろうして結局ただ働きか…」

「まだ言ってるの? 借金を代わりに返してくれたんだからよかったじゃない」

「まあ、それはそうけどよ…」

「そうだ、ジイド。言い忘れていたが、お前まだ借金残ってるからな」

「…嘘だろ!? あれだけあってまだ足りないのか!?」

「今回の件の報酬と合わせてもまだ半分位残ってる」

無慈悲な現実を突きつけられジイドは肩を落とした。





ラピス達も隊商宿を後にしていた。

「おふくろ…いい加減離せよ」

ラリマーはアクアとマリンと手をつないで歩いていた

「いいじゃない、あなたたちと会えるのも久しぶりなんだから」

「お前…いくら久しぶりだからってくっつぎすぎだ」

「いいじゃない、アクアちゃんだってずっと会えなくて寂しかったでしょ?」

「そ、そんなわけないだろ!」

「えっと…わたしは嫌じゃないよ」

アクアは顔を真っ赤にして否定し、マリンは顔を赤くしているが大人しくしていた。

「お母さん変わらないね。十年も会ってなかったと思えないよ」

「それでも色々あったんだよ」

「うん、手紙で教えてもらってたよ」

「手紙ね…」

ラズリは口を滑らせたことに気付いて口を押さえたが遅かった。

「ラズリがアクアとマリンに出した手紙の事だけど…」

「えっと…それはその…ごめんなさい! あの二人にいいところを見せたくてつい…」

「…もういいよ」

「え? 許してくれるの?」

「その代わり、アクアとマリンに直接本当の話を聞かせてあげてね」

「…任せてよ、私の活躍を聞かせてみせるよ」

「調子に乗らないでね」

「…はい」

「分かってくれればいいの。アクア、マリン、お姉ちゃんが旅の話を聞かせてくれるって」

「マジかよ、じゃあ砂の上を走る船の話が聞かせてくれよ」

「わ、わたしは雪という物の話が聞きたいです」

ラピスの呼びかけにアクアとマリンはラズリの側に駆け寄ってきた。

「なんでこうなったのかしら…?」

「お前のふれあいが激しすぎるからだ、だからいつも少し抑えろと言ってきただろ」

その後ろでは腕を振り払われて落ち込むラリマーとそれを慰めるモリオンの姿があった。

「だったらおれは金銀音合戦のことを…」

「わたしは、えっと…」

しかし、アクアとマリンはラズリに聞きたい話をせがんでいて気付いていない。

この旅の帰路は賑やかな物になりそうだ。



あとがき

ザビエラさんとアイスさん(藤乃蓮花さん)、ヘリヤ・ジアーさんとアル・アーディクさんとジイドさん(戸成さん)、ルセアさんとカマルさん(鶫さん)お借りしました。


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