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この帝国ホテルでの香月はどうであったか?実に興味深い話を、磯川と深夜まで行っていたのだった。
一部を紹介する。これから先の脇坂や、志村と言う、異才との関連(志村は、西方城→AU号の中心人物)この白い雲3では、つながりだけ論述したい。興味のある方は2005年から4部を連載しますので、又お読み下さいませ。
「脇坂博士は何を聞こうとしたのかな?香月君に」
磯川が言うと、
「恐らく・・自分の研究である、遺伝子工学の事だと思うのですが」
「そうだろうね、考古学の権威が今更、血の概論を聞いた所で自分に対する益になるとは思えない。俺も脇坂博士の論文を読んだ事があるが、歴史上の偉才について、かなりな切り口を持って居られる人だ」
「目的が何かは聞けませんが、あの迫力は凄いですね、お年も、60才後半でしょう?」
「川上さんと、さして変わらない筈だ。俵さんが教え子だと言う事だから・・あれ?年が合わないな」
磯川が口髭を擦りながら言う。
「俵さんは、40歳の半ば過ぎでしょう?すると、70歳をもう過ぎておられるのかな?なら余計凄い人ですよ。脇坂博士は、在学中に博士号を取得されたと言う事ですから、若い頃に俵さんは、一緒に行動されてたんでしょうね」
実は、この時脇坂博士は、73歳。俵は49歳だった。
「で・・?やはり俵さんに分譲するの?暁号系を」
「そう・・なるでしょうね。あの方も非凡な方のようだ・・」
「これ以上日本でテストする必要があるのかな?」
「それは・・無限にありますよ、磯川さん」
香月が答えると、
「先程の話に戻ろう・・脇坂博士は、考古学的見地から、君の研究に興味を持っていると見た。それは、即ち脇坂博士の論文から察するに、君のDNA研究じゃないのか?」
「・・・相変わらず・・鋭い方だ。」
香月は磯川を見た。以前の磯川の目だった。
「で・・・君はひょっとして
紫竜号のDNAを持っているとか」
「持っています。けど、
紫竜号をもう2度と手にしたくありません」
少し淋しいような目をして香月が答えた。
「あ、済まない。それは分かっているよ。でも、人為的にDNA操作が出来る者が過去世に居たと言う話ならどうだね?脇坂博士は確か、そう言う学説を一時発表された筈だ。」
磯川が話を転ずると、香月が笑った。
「仮説ですね?非常に面白いとは思いますが、それが事実だとして、たかが動物学者である私がそれを証明する事も出来ず、かと言って否定する材料もありません。もし、脇坂博士がその分野まで分析、研究されているとしたら、近い内に又お会いする事になるかも」
「ははあ・・君はかなりの所まで、そっちの研究を進めているね?」
「動物学者としての域ですよ、磯川さん。でも、どうして、何時の間にそんな夢想家になったのかな?心とは違うって顔してますが?」
「はははは。少し、脇坂博士の登場に驚いたんで、話をそっちに持って行っただけだ。こうして、君と再び話を出来る喜びに今夜は感謝したい」
「同感です」
奇妙な会話だった。非凡の2人が何を思ったか、感じていたかは知る由も無い。しかし、政春にとっては、大きな一夜であった事は間違い無い。
東京から戻って、清治と鳩の訓練に出かける政春だった。良いお天気の朝だった。清治はぐずりもせず、政春が運転する助手席に乗り込んだ。
「あのね、今日行く所にお地蔵さんがあるの。そのお地蔵さんにね、よろしくって言うの。そしたら、良いことがあるんだ」
「ふふ。お地蔵さんてのは、どんなお地蔵さんなんだい?」
「赤い布を首に巻いて、三角の帽子を被ってるの」
政春は、へえ・・と思った。そんな地蔵があの辺にあったのかな・・そう思いながら割と近い距離である、家から5キロ程の山道に差し掛かった。
「あ、止めて、お父ちゃん」
清治は、弓子を母と呼んだあの日からしばらくして、政春を父と呼ぶようになっていた。それは祖父が夢に出て来て、政春・弓子を、父・母と呼ぶように言ったのだと言う。
車が止まった付近に、清治がまっすぐ歩いて行くと、草が伸びた小さな川のほとりに、やはり、清治の言う地蔵があった。それは、言った通りの陣笠を被り、赤い布を首に巻いていた。しかし、地蔵と言っても丸い大きな石が赤い布に包まれるように二つ並ぶ粗末なものであったが・・。
「ほう・・清治の夢は正夢になるんだなあ・・」
今更、清治の予知夢に対して驚く政春では無かった。香月もその能力を否定しなかったからだ。2人で手を合わすと、少し広くなった場所で、放鳩籠から3羽の鳩を空に放った。鳩は旋回後、鳩舎方向に向かって飛んで行った。
又、それから数日後の事であった。政春が浦部に電話を入れた。
「こんにちわ、浦部さん。あれから、又、私の後輩に当たるんですが、志村恭介と言う学生から電話貰ったんです。敦盛に一緒に行きませんか?」
「志村・・そう言えば、ホテルでも香月博士が言ってた名前だなあ・・」
浦部が言う。
志村と名乗る学生もT大学の考古学を専攻しており、脇坂から、政春の資料の事を知ったらしい。
浦部も少し興味のある話であったので、同行する事となった。
政春の家に来た学生は、長髪で、涼やかな目をした、香月博士に良く似た感じの人物だった。一目で、この学生の非凡さを感じた政春は、民話のコピーと、自分が調査して資料を手渡した。
志村恭介・・西方城→AU号に無くてはならない中心人物・・そして、香月と同じく天才と呼ばれた人で、人心掌握に非常に長けていた。リーダーになる器であった。
「興味深い話ですね。敦盛の地には、何かがあると思います」
志村が言う。そこへ浦部が合流したので、3人で出かける事になった。浦部と政春の交友は鳩だけに限らず不思議な縁となって、これからも続いて行く。
清治は、弓子と留守番だった。敦盛の地に連れて行くのは、祖父健在と信じている清治にとっては、重いものだからだ。
「どこ行くの?お父ちゃん」
清治が聞く。
「今日はね、お父さんの後輩の方と民族資料館や、色々案内するらしいの」
「ふうん・・」
車中で、少し会話が進んでいた。
「それで、その三皇神社からその後何か出ましたか?」
志村が、政春に尋ねた。
「いや・・、胴剣が出土した事で、そのままストップしているよ」
「そうですか・・何かを暗示する発掘だと思ったのですが、市の教育課の限界でしょうね」
志村がそう答えると、
「おいおい・・君も、大胆な事を言うね。神社は宮内庁の管轄なんだからだからそれはしょうが無いよ」
「分かっています。でも青銅の剣は、俵さんが提供してくれた民話に繋がる発見かも」
「君は時代をどう見る?」
「現物を見てないので、写真だけでの判断ですが、大和朝廷、邪馬台国につながる事かと」
「貴族階級だと言うなら、階級をどう見るのかね?」
浦部は、ちんぷんかんぷんで聞いていた。
「恐らく・・姫や、スウ・・と呼ばれる階級なのでは」
「時代認識が違うじゃないか?大和朝廷は、その一文字の階級を廃した筈。縄文時代から弥生時代の話だ」
「欽明天皇の欽明記から見ますと、その中で、深草里と言う地名が出て来ます。それが敦盛に当てはめて考える訳です」
「・・秦大津父の例を言っているのか?」
「はい」
「成る程・・先生(脇坂)、志村君は同じ推理に突き当たった訳だ」
「でも、流石です、俵さん。脇坂博士の一番弟子と言われていた人です。その名前が出るまで書物を読み漁った自分ですのに」
「いや・・むしろ、君のような若い学生がそこまでの知識を持っている事に脅威を感じるよ。まさに、香月博士を20歳若くしたよう子だなあ」
政春が言うと、
「とんでも無いです。」
浦部は、全く会話が見えず黙ったままだった。