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明朝・・
「清治、お前が前に見たと言う大楠へ、もう一度案内してくれるか?」
清治が頷き、脇坂と、政春、清治がこの日三皇神社へ向かった。
宮司にも説明後、昼なお暗い棹の森へ4人は入った。まっすぐ清治は歩いて行く。
大木が生い茂り、薄陽が差し込む中、清治が一点を指差した。
「ここ・・白蛇が居た」
言葉短く清治が言う。
「俵、御神木の大楠はあっちだな?」
脇坂が政春に聞く。
「そうです」
胴剣は、どっちに向かっていた?出土した時」
政春が写真を示した。
脇坂が、その場で考える。
「ふうむ・・・」
「先生・・何か?」
政春が尋ねると、
「いや何・・意味があるのかと思うてのう」
清治は、そんな脇坂の様子も知らぬとばかり、すたすたと歩き始めた。
そして、夢に見た大楠を指差した。それはやはり御神木であった。
「やはり・・もう何も出んか・・」
少し落胆したように、宮司が言う。
「赤い玉・・」
清治が突然言う。
「えっ!」
3人が清治の顔を見る。
「遠いところ・・あっちの方の、女の子が知ってる」
清治が指差したのは、南西の方角だった。
「清治・・あっちって?」
政春が聞いたが、清治はただ首を振るだけだった。
「ほう・・・赤い玉・・やはりこの子は大きなヒントを与えてくれたわ」
脇坂が一人頷いた。
「先生、どう言う事ですか?」
「俵、もう発掘から引退したお前じゃから言うが・・この子の指差した方向こそ、青銅の剣の先が向いた南西の方角・・すなわち、わしが発掘しようとしている岡山の遺跡の方角にあたる。赤い玉・・まさしく紅水晶じゃ。この子が言う女の子と、どんなつながりがあるかは分からぬが、その昔の城の姫につながる話なら、発掘にわしは全力をあげねばなるまい」
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ここで、脇坂との接点は失い、物語は、小さな競翔家、清治を中心とした物語へと転換する

1週間後、約束通り、香月から10羽の暁号系の子鳩達が送られて来た。浦部も立ち会った。
「ほう・・体型が小柄で、副翼が広く、羽毛の密集したまさに・・香月超距離系・・」
浦部が唸った。
「浦部さんに貰った子鳩達と、タイプが又違いますが、このように特徴が揃った鳩達が本当に系統として固定されていないとは・・」
「何を持って完成したと言えるのか・・それは、我々競翔家にとっては永遠のテーマでしょう。ある一群を指して、○○系と言う者も居れば、その鳩舎作使翔であるから、○鳩舎系統と言う者も居ます。ここまで香月系を目指して、17年。私も年齢を重ね、香月君も又、思考錯誤の中で、香月系を目指しています。ただ、この一群が香月暁号系であって、自分の目から見て、完成されたような素晴らしい鳩群だと言う事は断言出来ます」
「・・そこまで言って貰えれば、もう感無量です。改めて、香月博士のご英断と私のような素人に託して下さった競翔の重みも感じます」
「香月君の話では、沖縄の鳩舎にも分譲するとか、四国や、中国地方にも・・と聞いています」
「血統書を見る限り、暁号の殆ど孫にあたります」
政春が明るい表情で言うと、浦部は微笑みながら
「俵さん、もうすぐですね、清治君のデビューは」
「はい!」
政春は、清治を河原連合会に登録して、これから競翔に参加する。これらの鳩群は秋に何とか間に合いそうだ。清治は嬉しそうに鳩を見入っていた。あれから、夢の話は清治の口からは出ていないが、清治にとっての白蛇の幸運とは、この鳩群の事であろう、政春はそう思った。