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多忙な為、しばらく連載を休止中です。
2004年5月20日現在。
再開は未定です。

2004年11月7日 一部アップしました。


趣向を大幅に変えて、自身のSF小説 AU号伝説に繋がる話に、白い雲3部を大部分改編する事にしました。

浦部が向かった所は、和歌山県の海沿いにある鳩舎であった。ここまで3時間半のドライブに清治もやや眠くなっていたようで、欠伸をしきりにしていたが、着いた途端眼が輝いた。
「浦部さん・・ここは?」
「全く無名の鳩舎ですが、実はこの地は強風が吹き荒れる所で有名でしてね。以前少し私の耳にも届いていた鳩舎です。最近になって、何度か電話で、お話させて貰いました。山川さんと言われます」
「・・強風・・ほう・・」
政春には浦部の意図するものが全く見えなかった。しかし、清治は、まるで、ここの鳩舎を知っているが如く早足で、2人の先を歩き出した。
「これ・・清治」
政春が言うが、清治は大きな楠木の所を右に折れて、2人の眼前から見えなくなった。
「はは・・ひょっとして・・清治君はこの場所を夢に見ていたのかも・・?」
浦部が少しにこりとしながらそう言った。
「清治の夢に見た場所・・?なら、浦部さんがここへ来られたのは?」
政春が聞くのを制して浦部が答える。
「まあまあ・・とにかく、山川鳩舎にお邪魔してから」
楠木を右に回った所の、左側のやや高台になった石垣の上に、確かに鳩舎が見えていた。10数羽程の鳩が舎外に居るようだが、空を旋回している鳩は居なかった。
「ほう・・なかなか・・大きい鳩舎ですねえ・・」
政春が言うと、浦部も頷いた。
「現在200羽程種鳩、選手鳩が居るそうですが、思ったよりも立派ですね」
清治が2人を待っていた。
「遅いよ、待ってるよ、おじさんが」
清治が2人を手招きした側で、小柄で、誠実そうな細い眼のやや太り気味の50過ぎの人物が立っていた。
「山川さんですね?はじめまして。浦部です。こちらは同じ倶楽部の俵さん、先にお邪魔している子は、俵さんのお子さんの清治君です」
「よく遠い所をおいで下さいました。浦部さんとは何度かお話をさせて頂いておりますが、以前より、甥の静雄
(華と紅蓮をご覧下さい。山川の伯父に当たる人物です。風神系の繋がりは、華と紅蓮の続編2005.10.4分からの執筆の中で、明らかになります)よりお名前は存じていました」
即座に同じ競翔鳩を飼う者同士、打ち解けて話が弾む。
聞けば、山川鳩舎は和歌北連合会の中堅で、長距離系を主体とする独自の血統を使翔させているそうで、興味深いのは、強風が年中吹き荒れるこの地で地理的不利を克服する体型に特徴がある一群であると言う事だ。政春も、やっと浦部の意図するものが少し分かりかけて来た。自身の連合会は盆地のような狭窄した大地。香月博士によれば地磁気を乱す何かがあると言う事。又盆地特有の気流の複雑な流れがあって、浦部が東神原連合化時代に培って来た血統では通用せず、独自に血統を改良しながら現在に至る事、しかし、流石に香月博士はその地理的条件すら一瞬で見抜き、敢えて香月暁号系統の鳩を政春に託した事。その政春も香月暁号系統の図抜けた資質に驚愕しながらも、敢えて、自身も又血統を導入したい思いもある事・・話は続く。しかし、浦部は突如こう山川氏に話を転じた。
「ところで?山川さん。今もそうですが、舎外に居る鳩達はどうして空を旋回しないのでしょう?さっきからそのまま舎外で、遊んでますね」
「ふふ・・気づかれましたか?実は・・先日もある方にそう聞かれました」
「ある方・・ほう・・私の疑問と通じる訳だ」
「そうです。浦部さん、貴方は良くご存知の方です。香月博士です」
「ええっ!」
浦部と政春が同時に声を上げた。
「その様子では、香月博士がここへ来られたのはご存知じゃなかったですか?」
「勿論知りません。しかし・・どうして・・?」
「香月博士は、雷神系の佐久間さんと共にいらしたんですよ。大変興味深い話をされて帰られました」
「はあ・・驚いた・・。しかし、どうして・・?」
「まあ、お茶でも」
一端家の中に戻り、鳩舎外での立ち話に夢中になっていた事も忘れて3人は中へ入った。清治は鳩舎を見ると、そのまま外へ居た。