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「お・・お母ちゃん」
そう言い、清治が弓子に抱きついた。 弓子は思わず清治を抱きしめた。清治はその胸に顔を埋めた。初めて清治が弓子を母と言った日だった。 「どうした?弓子」 政春が起きて来る。弓子の頬に伝わる一筋の涙。清治は弓子に抱かれて寝息を立てていた。 「何でも無い・・でも、清ちゃんが、私をお母ちゃんって・・」 「そうか・・そうか・・寝よう、弓子」 政春が弓子の肩を優しくポンと叩いた。 母性・・血の繋がりは例えなくても、母となる女性の慈しみ深いその愛は、ついに、清治少年に伝わった。母と呼び、息子と呼ぶ。それは血の繋がりなど凌駕する。母を知らず、父を知らず、年老いた祖父の温もりしか知らなかった清治が・・今、その心が開かれて行く・・。 この夢の話であるが、先日の浦部との会話の中から政春には、確かめて見たい事があった。そうして、清治が育った敦盛の歴史資料館の資料室へ足を運ぶ政春だった。敦盛に伝わる民話を調べる為であった。政春は、その昔T大学で考古学を学んだ人物であったので、興味も少し湧いていた・・。 この民話・・実は作者が、長編SF小説「西方城→AU号」の話の元となり、共通となったものに繋がります。しかし、敢えてこの白い雲3では、それらの民話の詳細や、登場人物等は大幅に削除、省略して編集しております。 その中で、興味深い民話があった。 「敦盛の豪族の王が、殷の国の使者に娘を差し出す条件に武器を求めた。しかし、姫は、馬飼いの若者に恋をしており、とうとう、姫は白馬と共にその馬飼いと逃げようとする。王は怒り、その馬飼いを家来に命じて殺すが、姫は大層悲しみ、敦盛の地から白馬で、河原の竜神の沼へ身を投じる。その竜神の沼には、紫の竜が棲み、怒った竜が2つの玉を抱いたまま天に昇った。2つの玉とは、本来紫である筈が、1つは真紅に染まっていたと言う。嵐が起こり、3日3晩降り続いた雨は、洪水となり、豪族を滅ぼした」 これに何か夢が関係あるのかも・・政春は、宮本宮司を尋ねて、その民話と、清治の夢を話した。何が政春を突き動かしていたのかは分からない。少年のたかが夢の話。しかし、その夢は白蛇を見たと言う清治、政春の幼少の頃からの記憶の中での言い伝えもあり、宮司に話した。 「ほう・・白蛇を見た子の夢・・成るほど。その民話はわしも聞いた事がありますなあ」 「荒唐無稽な話で、申し訳ありません。ただ、清治・・私の子が実際に棹の森で大楠を見ている事と、白蛇の話は、自分も小さい頃から幸運の使いと教わっていますので、気になったのです」 「確かに・・白蛇は、この数年姿を見た者は居らなんだが、その子の夢の白馬とは、童馬の事だろう。」 「童馬?」 「左様・・この三皇神社には、2つの御神体が祀ってあり、1つは、童馬の鬣、もう1つは、実は紅水晶の勾玉。その民話と繋がる事かも知れない」 「へえ・・・」 政春には、実に興味深い話であった。そして、続けた。 「私の大学の先生で、考古学の研究をされている脇坂博士が居ます。実は、この民話の事をまとめて、その書類を博士の所に送りました」 この話も「西方城→AU号」に続くものであるので、詳しい事はここでは削除します。 「神事を行い、その楠の元を掘って見よう」 「えっ・・そんな大層な」 政春は、ただ夢の話を宮司に聞いて貰いたかっただけで、御神木とも言われる、樹齢500年以上の大楠の元を掘る等と言う事は思いもよらなかったからだ。 「いやいや・・白蛇・童馬・そして、大楠と来て、先程余談の中で、その子の予知能力等を聞いていると、ひょっとしてその民話が繋がるかも知れん。これが、神の意思ならわしも齢80を過ぎた者。一対である筈の勾玉のもう1つを探す事はわしの務めでもあるかも知れない。そんな夢のお告げがあるのならば、是非掘って見たい。何か、手がかりでもあれば幸運。出てくればそれを神社に祀りたい」 思わぬ事となり、その旨は、後日やはり政春が、某大学の脇坂博士に書面を送る事になるのだが、この紅水晶の逸話は実は全国に広がる話であった。後の「西方城→AU号」重要なテーマとなる。 浦部も呼んで、数名だけの神事で、大楠の根元が掘り起こされる日がやって来た。 実に、興味津々の様子の浦部だった。 「しかし・・ここまで来ると、信じたくなるなあ」 浦部が政春に言った。 「私も、大学では考古学を学びました。だから、民話を集めて自分で小雑誌を作ってましたが、まさか、宮司さんが、掘って見ようと言われるとは」 「いえ・・清治君には表現出来ませんが、不思議な力があると思います。何故なら、私も香月博士を身近で見て来たからですよ。そして紫竜号を。だから、その紫竜には、凄い関心がある。だから、今日は有給を取って会社を休んで見に来ました。ははは」 「ははは。でも、清治には何も言ってません。これが本当だったら、少し怖い気もします」 「怖い事はありませんよ。だって、幸運の使いなのでしょう?白蛇は。そして、御神体である、童馬も」 「ええ、だからこそ、余計に・・」 確かに・・浦部もそう思った。普通の子として、当然親としては育って欲しいと願うだろうし、そんな能力は生きていく上に必要な事では無いかも知れないと。 そこで、浦部は政春に、 「俵さん、来月の東京講演に行きましょう、是非。」 「あ・・でも、その後のパーティはごく親しい方ばかりと聞きました。講演には行きますがパーティーには、やはりご遠慮させて頂きます」 「いえいえ。今回は、競翔関係の方だけのパーティーだと聞きます。人数も限られていますし、何か、その場で、香月博士が発表するそうですよ。俵さんは、香月系を導入したいと思われているんでしょう?なら、是非ご一緒に」 「浦部さん・・だから、それは赤面するような私の無謀な思いだと言う事で、この前・・」 「もし・・ですよ。その勾玉が出土したら・・自分は、偶然や、奇跡なんて言葉より、現実に今言ったような不可思議な出来事を知っている人間。だから、香月博士に会って話する機会があれば、どうぞ」 「しかし・・」 俵は、戸惑っていた。 |