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「何かあったぞ!」
数人の男達が深さ1メートルの所で何かを発見した。
「お・・!」
政春、浦部は穴を覗き込んだ。
その穴から出土したのは、青銅で出来た剣だった。
宮司が、それを丁寧に包むと、すぐ町の資料室へ電話した。文化財だったら、もはや、神社へお祀りする訳にはいかないからだ。
「勾玉が出ると思ったんですが・・」
浦部が言うと、政春は笑った。
「まさか・・浦部さんは、本気でそう思ってたんですか?」
「ええ。本気で」
政春は、青銅の剣が出てきた事をすぐその場で写真に収めて、やはり脇坂博士に送った。
神社と言うのは、古今より神事が行われる所、神木のような大樹の下には、こう言った物が収められる事もある事だ。年代は分からないが、町がこの後周辺の発掘調査を行うとの事が宮司によって知らされたのは暫くしての事だった。。
政春は、清治が、そう言った予知夢と言われる特殊な能力を有しているかも知れないが、それは、少年期の感受性がもたらすもので、清治だけが持つ特別な能力とは思わなかった。
そして、政春と浦部は東京に向かう事となり、その出発前夜の事であった。脇坂から政春に電話が入った。
「お久しぶりです。先生」
恩師の脇坂の声を聞くのは、20年ぶりの事だった。講演に出かけて以来の事だ。
「俵、興味深い民話じゃったわい。その民話は、岡山県と、愛媛県に2つある話に共通しとる事がある。その青銅の剣については、縄文時代の豪族の物では無いか?」
「そうですか・・今、町が発掘調査を開始しようとしています」
「まあ、民話以外にわしの興味は無い。発掘で何か出たら、又知らせてくれ。が、お前が言う御神体の紅水晶には、大変興味がある。その事は誰にも言うな、分かったな」
「はい」
そう言って、脇坂は電話を切った。
紅水晶は、後のAU号につながる話であるので、これ以上はここでは論述しません。
清治が、夕食の時間に又少し政春を驚かす事を言った。
「あのね、今度は、栗色の鳩が増えるんだよ」
「ん・・?・・又夢を見たのかい?清治」
「うん。」
「その鳩は誰かから貰うとか・・?」
「うん、そうだよ。黒い顔の人から」
政春は黙った。子供特有の夢の話にしておこう・・まさか・・香月博士が分譲してくれる筈が無い。香月系でも、飛び筋の一群だと言われる、香月
暁号系統と言われる栗の鳩を。
香月系には、栗系の
暁号系統、灰二引系の初霜号系統、灰胡麻系統のスプリント号系統、黒胡麻系統の夕張号系統と、4つの主流系が現在活躍していて、特に、暁号系統は、超々距離系と言われる一群で、香月が南米で使翔させていると聞く。それぞれ、突出した鳩群ではあるが、スプリント号の血を濃く引き継いでいるのがスプリント号系統で、数々の優秀な鳩が出現している。暁号は、南米で初めて4000キロレースを記録した鳩で、旧日下系を改良した、特に香月が手を掛けている鳩群だと言う事だ。
行きの列車の中で、浦部は政春にそう説明した。
「それぞれの特徴を持った一群を総括して、それが香月系統と言われる所以なのですね?」
「そうです。いずれ、この4系統が香月系となるのでしょうが、余りに彼の試みは雄大過ぎて、自分には到底理解が出来ません。日下系にステッケルボード系を交配し、それまで、川上旧主流系に、シューマン系、ハンセン系、勢山系を交配して来て数々の優入賞をしながら、敢えて、その系統を壊す所から始めたんですよ。常人にはとても真似等出来ませんよ」
「ほう・・常人では確かに真似が出来ないものですよね」
「それにしても・・」
浦部が、にやっと笑いながら政春に言った。
「貴方も十分常人では無いですよ、俵さん。お会いして話をする度、貴方はもう鳩の血統の事をベテラン並に吸収されてますし、それに、考古学も学ばれていたとかで、高名な脇坂博士を知って居られるし、私には驚く事の連続です。」
「いや・・はは。自分の知識は、広く浅くですから。とても、浦部さんのような、徹底された競翔家と言うお立場からすれば、私の言動はおかしいと思うでしょう。でも、私も競翔鳩を清治と一緒に飼うって事が今は楽しくてしょうが無いんです。お許し下さい」
「何を俵さんが、謝る事などありましょうか。でも、今晩のパーティーが楽しみですね」
「香月博士は、どう言った方を招待されているのですか?」
「私を誘ってくれた、佐野さん。そして、川上さん。S工大の掛川教授、私、俵さん、大阪の佐久間さん、その他は余り存じません」
「大阪の方からも?」
「ええ、新川さんと言う方から旧川上系の鳩を現在継がれていて、関西では現在最強鳩舎です。まだお若いですよ、20代後半でしょう」
「へえ・・」
「あ、もう一人居ます。同じく関西から韓さんと言う佐久間さんと同じ年で、この人も関西2強と言われる血統を作られています。天才競翔家とも言われていますね」
「凄い人達が集まるんですね?」
「あ、いえ・・。私等は足元にも及ばない方ばかりですよ。ははは」
「何名位来られるのでしょうか?」
「さあ・・20名程だと前からは聞いてますが、把握しておりません」
「そうですか。私は講演の方も楽しみだなあ」
「私もです。実は初めてなんですよ、香月君、いえ博士の講演は」